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いちばんやさしいアジャイル開発の教本の現場から 第四話: レビューは執筆の生命線 #アジャイルのやさしい本

はじめに

この記事はいちばんやさしいdora_e_mの Advent Calendar 2020、要するに一人アドベントカレンダーの17日目のために書いた記事だ。

昨日は「書籍の最終版には含まれなかったもの」について書いた。内容を絞り込むことは、書籍の焦点を明確にするための大切な作業だ。そして今日は、構成や文章を磨き質を高めていくための大切な作業、レビューについて書く。

3(+1)つの視点

レビュー体制

今回の執筆では、3つの視点によりレビューが実施された。

1. 共著者
2. 編集者
3. 執筆陣が依頼したレビューワ

本を作る側で、アジャイル開発への理解・習熟度が高い執筆者陣。
本を作る側で、ビジネス的視点を持つ編集者。
本を読む側で、アジャイル開発への理解や習熟度は様々なレビューワ。

レビューワに関しては、今回は「いちばんやさしい」書籍なので、ある程度ばらつきはありつつ基本的には「アジャイル開発への習熟度はそこまで高くない」方や、エンジニアではない方を軸にお願いした。

なお、(+1)としたのは自分自身だ。
・自分自身のセルフレビュー
・共著者間でのレビュー
・編集者レビュー
・レビューワによるレビュー
自分自身を含めると4つの視点でレビューを行っていることになる。

共著者間でのレビュー

一通りの執筆を終え、自分なりに何度か推敲をした後に本格的なレビューフェーズへ入っていった。まずは、ともにこの本を世の中に届ける共著者間でのレビューだ。

共著者である市谷さん、新井さんは日本におけるアジャイル開発の最前線で活躍されている方々だ。お二人が執筆された「カイゼン・ジャーニー」はチームで本格的にスクラムを導入しようとしていた自分にとって、ジャストなタイミングでリリースされたジャストな内容のバイブルだ。

アジャイル実践者としての経験値が高く、執筆経験もある二人からのレビューは本当に勉強になった。

アジャイル実践者目線では、下記のようなアドバイスを。

このプラクティスにはこういう背景があるから、こう書いたほうがいい
こういう書き方だと誤解を招くからこう書いたほうがいい
ここは削ってもよさそう

執筆経験者目線では、下記のような問いかけを。

これは誰に向けて書いているのか
この主張の根拠は何か
今回のターゲットに伝えられるものか

このレビューを通して、アジャイル開発そのものへの理解が相当に深まったし、執筆で留意するべきポイントもつかめてきた。そう、執筆を通して、二人の師匠からビシバシと鍛え上げていただいたようなものなのだ。

(共著する機会をいただいたり、普通にプライベートで飲みにいったり(最近はコロナのせいでできてないけど)と、親しくさせていただいている間柄ではあるが、やはり市谷さんと新井さんは私の中でカイゼンさんでありジャーニーさんであり、ヒーローなのだ。そのヒーローたちと一緒に執筆したなんて、本当にすごいことだ。ありがたいことだ。)

編集者によるレビュー

編集者の田淵さんからのレビューは、アジャイルのエキスパートである二人のレビューとはまた違った学びが多くあった。

すこし技術者寄りになっているから平易な表現にしたほうがよい
この説明は図解できないか

「いちばんやさしい」の看板どおり、多くの人に届くようになっているか。田淵さんからのレビューは、一貫してそこにこだわっていたように思える。

そして個人的に印象深いのは、挿絵として使われる似顔絵の元となる写真撮影を行う際に、田淵さんが私の文章について褒めてくださったことだ。偉大なる共著者に圧倒され、初めての執筆活動に戸惑い、自信を喪失していた私にとっては本当にありがたい一言だった。

クオリティを上げるためにレビューしながら、著者のモチベーションを高めるためのサポートをする。編集者というのは奥が深い仕事なのだな、と感じた。

レビューワによるレビュー

著者陣がそれぞれのツテから依頼したレビューワ陣。著者にせよ編集者にせよ、どうしても「作り手」の目線になる。しかし、レビューワ陣は限りなく読者に近い。というか、レビューワ陣の心に響き、また役に立つものになっていないなら、「いちばんやさしい」書籍にはなっていないのだ。そういう意味ではレビューワからどのようなコメントがくるのか、というのはだいぶ緊張して待ち構えていたと記憶している。

執筆しているときには「さすがにこれはみんな自明で知ってるよな…こんなこと書いたら『当たり前のことばかり書きやがって』とネットでたたかれないだろうか」なんてことを心配していたのだが、レビューワを依頼した非エンジニアの先輩から「こういう情報欲しかったんですよー!みんな当たり前に話してるけど、なんだかわからなくて。」と言ってもらったときには、「もしかして、すごく大切な本を書いてるんじゃないか」という気持ちと勇気が湧いてきた。

また、コロナ禍に突入する直前のデブサミでも、たまたまレビューワの方とお会いする機会があった。
早く、この本をまわりの人間にも読んでもらいたいです。
また、勇気をもらってしまった。

そう、我々執筆陣は、想定読者層ではないのだ。周囲のアジャイル実践者たちもまた、想定読者ではないのだ。だからこそ、自分で書いているにも関わらず「これでいいのだろうか」という不安にかられることが少なからずあった。

この「レビューワによるレビュー」はそういった不安を払拭し、むしろ「これまでにない、ほんとうにいちばんやさしい本」が出来上がりつつあるのだ、という自信につながっていった。

相克

そして、レビューによる推敲で一番悩ましかったのがレビュー内容の相克だ。こちらの人はこれがいいといい、あちらの人はそうではないという。これがとても悩ましかった。そういう悩むポイントがあるときは、「この本は誰に向けた本か?」を見つめる機会でもあった。なので相克の苦しみは、書籍の価値を研ぎ澄ませることに一役買っていたのだ。

レビューは執筆の生命線

幾たびのレビューと推敲を経て、5/1に「いちばんやさしいアジャイル開発の教本」は世に放たれた。

おりしも緊急事態宣言下、本屋がそもそもやっていない。そんな究極の不確実性と逆風の中出版された本書は、手前味噌だがあらためてよくできた本だと思う。いまからアジャイル開発を始める、DXと伴走する、という人のかたわらにあるような、そんな一冊になった。

そして、そんな一冊に仕上げることができたのは、私一人の力ではもちろんない。素晴らしい共著者、敏腕編集者、そして明日のソフトウェア開発を支えるレビューワあってのことなのだ。

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