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キャリアを築く「偶然」を自らの手で引き寄せる
キャリアは偶然で変わる
自分が歩んできたキャリアがすべて自分の手の内にあったかというと、そんなことは全然ありません。そのときにたまたま置かれていた環境、人、タイミング。それらが奇跡的に噛み合って何かが生まれ、その連続の上に今の自分があります。
私自身の特性として、目の前に現れたことにはとりあえず取り組んでみるし、気が長いのである程度の期間続けることが苦ではありません。
わりと慎重というか、最悪の事態まで想像するような悲観的なところはありますが、その最悪の事態でもたいてい「まあ、死なないしな」と考えることができます。これはリーマンショックのときにレイオフを喰らった最悪の体験のときに、それでもそのあとなんとかなった経験則がそうさせてくれているのかもしれません。
そして、そのリーマンショックのときの経験から「ハンドルは自分で握って、どんどんチャレンジしていくしかない」という考えに至り、本当は足はすくんでいるんだけれども、振り絞って前に進むようになりました。それを繰り返していたら、チャレンジしていないほうが不安に感じるようになりました。
計画的偶発性理論。私の現在の特性は、計画された偶発性が起こりやすいものになっています。前述のとおりその特性の獲得さえも偶然によるところはあり、人生における「偶然」の力強さには驚かされます。
偶然をつかまえる
ここで扱う偶然は、幸運と言い換えてもよいでしょう。
いつも行列しているパン屋に行ったら並ばず入れた。
好きなアーティストのライブチケットが取れた。
買うのをあきらめていたガンプラが一個だけ店に残っていた。
どれも「たまたま」です。実力もなにもありません。サイコロを振って出た目に対して意味づけを行い、「幸運」というラベルを貼っただけのことです。
けれども、いずれにせよ共通しているのは「行動した」ということです。
あのパン屋はいつも混んでるからやめておこう、どうせチケット取れないからやめておこう、どうせ転売ヤーが買い占めているからやめておこう…。
行動したあとにがっかりしたくないから行動さえもしないふるまいです。これは、がっかりしてメソメソして傷つくことからは遠ざけてくれますが、得られたかもしれない幸運をはなから手放している行為でもあります。
キャリアについても同様です。やってみたいけど失敗したら怖いな…。今やってることを手放すのが怖いな…。目の前に現れた偶然に飛び込もうにも、足がすくんでしまうことは誰にでもあるのではないでしょうか。
自らの内側から立ち現れる恐怖と向き合い、乗り越え、偶然を掴むためにはいくつかのアプローチがあります。
一つは、「失敗したらどうなるか」を考えること。
失敗したら…もう一回やりなおすことになる。
失敗したら…先輩に手伝ってもらう必要が出てくる。
失敗したら…ちょっと恥ずかしいかもしれない。
失敗したら…誰かに嫌われるかもしれない。
失敗したら…莫大な損害を引き起こすかもしれない。
最後の例のように、失敗が許容されない状況は確かに存在しています。けれども、だいたいの局面において失敗が引き起こす結果はリカバリー可能なものです。
なので、失敗そのものを忌避するのではなく、失敗した際に何が起こるかにフォーカスして考えることで、内なる恐怖を克服することができます。
もつ一つは、人を巻き込むこと。
偶然に飛び込むことを誘ってくれた人、自分にとって未知なる世界に既に身を置いている人を頼ります。新しいことをやるときは、これが結構大事なんじゃないかなと思います。
このとき障壁になるのが、「こんなこともわからないのかって思われるんじゃないか」という恐怖心です。ところで、「こんなこともわからないのか」って思われると何が問題なんでしょうね?新しい世界に飛び込んで、そこがわからないことだらけなのは当たり前です。堂々としていましょう。
最後の一つが、自らを鍛えること。
本を読んでインプットしたり、実際に手を動かしてみたり。自分の可能性を拡げることが習慣になっていると、新しいことに飛び込む心理的ハードルは低くなっていきます。
あえて普段は読まないジャンルの本を読んだり、触ったことのない開発言語に触れてみたり。全然詳しくない分野の勉強会に参加してみたり。
そういう、今の自分から一歩はみだした行動をとっていると、偶然に飛び込むことが楽しくなっていきます。
偶然をモノにする
偶然をつかまえたら、その偶然をモノにしていきましょう。その偶然をモノにするには、それをモノにするためのスキル、経験が必要になります。
前述のとおり、だいたいの場面では失敗してもかまいません。失敗かは学ぶことはいくらでもあります。だから、失敗したときに落ち込むのではなく、何が足りなくて失敗したのか、成功の確率を上げるには何をしたらよいかを考え、行動します。
一回でうまくいく、そんな虫のいい話はそうそうありません。何度もトライアンドエラーする、その粘り強さが偶然をモノにします。
私は長い間マネージャー職に就いていますが、たくさん失敗をしてきました。チームが大きくなりすぎ、内向きなマネジメントがチームのアウトプットを減らし、外からの信頼も内側への求心力も失ったことがあります。それ以外にも、数え切れないほどの失敗を経て、それでもまだマネージャーをやっています。
一回や二回、失敗してもあきらめない。「自分は向いてない」なんて思わない。自分はどこまでも成長していけると信じて、失敗から学んでいく。それがいつしか自信になっていきます。
偶然を引き寄せる
偶然というのは、向こうから近づいてくることがあります。偶然を引き寄せるには、いくつかのポイントがあります。
ひとつは、とりあえず手をあげること。何かチャンスが訪れたとき、たとえば「誰かこの仕事やってみない?」と言われたときにとにかく手を上げていきます。そうすると、「あの人は新しいことに対して積極的だ」というイメージが形成されていき、声がかかりやすくなります。
もうひとつは、「偶然」が訪れやすい場に身をおくこと。意思決定がなされる場に参加してみたり、さまざまな人が集まる勉強会やコミュニティに顔を出してみたり。活動範囲を拡げれば拡げるほど、自分が飛び込んでみたい「偶然」に出会う可能性が高くなります。
そして、中でも有効なのが、「偶然をモノにした」実績をもつこと。やはり、「この人なら安心して任せられる」というところにチャンスは集まっていきます。
たくさんの偶然に飛び込んで場数を踏みながら、「これは」という局面でしっかりモノにしていく。その実績が偶然を引き寄せる力になります。
偶然を掴み、モノにし、引き寄せる
自分のキャリアを転換させるような偶然は、ある日突然やってきます。そして、手をこまねいているうちにさっさとどこかへいってしまいます。
いざそのときが来たときに、しっかりとその偶然を手にして幸運にしていくために、偶然を掴み、モノにし、引き寄せていきましょう。