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『山之口貘詩集』
高良勉 編
『思辨の苑』『定本 山之口貘詩集』『鮪に鰯』の3作の詩集と、『新編 山之口貘全集』から選ばれた詩がおさめられている。
お金がないとか、借金したとか、結婚したいとか、世の中に対して思うこと、そういった内容の詩が多い。しかし、ただ世間を批判したり、苦境を嘆いているわけではない。尖った印象はあまり受けず、ギラギラしているわけでもなく、むしろ優しさを感じる言葉だった。飾らない言葉とはこういうものかな、とも思った。
また、ひとつの詩を書き上げるまでにかなりの回数の推敲を重ねたというエピソードもある。それだけの時間をかけて、納得のいく表現をひたすら探していたのではないかと思う。とても真摯な人だったのだろうと想像できる。
座蒲團 土の上には床がある
床の上には疊がある
疊の上にあるのが座蒲團でその上にあるのが樂といふ
樂の上にはなんにもないのであらうか
どうぞおしきなさいとすすめられて
樂に坐つたさびしさよ
土の世界をはるかにみおろしてゐるやうに
住み馴れぬ世界がさびしいよ
末尾の「さびしいよ」が妙に心に染みついている。心に残った詩を選ぼうとしても絞れないけれど、いま思い浮かぶのは、この「座蒲團」という詩だ。
あるものや場面をひとつひとつ分解して、また組み立てながら気持ちを表していくような、そんな詩が多いように感じた。自分の中の空想や独りよがりな言葉ではなくて、元の事物・場面に沿っているから、すっと腑に落ちるのだと思う。
何かを表すために言葉や場面を加工することはせず、これだというものが見つかるまで、ひたすら自分で探していく。格好いい言葉をつぎはぎするのではなく、自分の見たまま感じたままを表せば良いのだと思えて、気持ちが伸びやかになったようだ。そのままを表す言葉を見つけるまでには時間が必要だけれど、ゆっくりと流れる時間は私にとっては心地良い。焦らず、飾らず、気長に探す、待つ。そう思えば、日々の会話の中でしばしば生み出してしまう沈黙の時間さえ、掻き消そうと急ぐことなく、大切にできるような気がする。