vol.210/ 日常かのように旅をし、旅するように日常を楽しむ
“今日は夫も外に出てくれているし、子供も習い事へ行っているからゆっくり食事もおしゃべりもできるわよ!”
と、お手製のボーズを大量に茹でながらキッチンから声が聞こえる。新居のマンションからの眺めがとんでもなく素晴らしい。実は友人である彼女と会うのはめちゃくちゃ久しぶり。お互いに引っ越しが重なったり仕事が忙しくなったりで、バタバタバタバタとしていたら、あれよあれよと一年半も間が空いてしまった。
彼女の故郷、モンゴルから日本へやって来て数ヶ月後、仕事関係で私は知り合うことになる。それが約10年前だというから驚きだ。それよりも何よりも驚きなのが、社会人になってからできた友人第一号が彼女であり、今ではライフステージがそれぞれ変わっても尚こうして会えていること、話ができて笑顔になれることが嬉しく何よりも幸せなこと。そんなことを考えながら彼女が手際良く故郷モンゴルの家庭料理を振る舞ってくれているのを眺めている。私が昔、彼女が作るボーズ(ラムの挽肉がギュッと入った蒸し餃子のようなもの、彼女はいつも野菜もたくさん入れて食べやすく工夫してくれる)を初めて食べた時、あまりの美味しさに目を輝かせながらモリモリ食べて以来、決まって自宅へお邪魔すると一から手作りしてくれて、直前に蒸して熱々のボーズを出してくれる。そして今日も蒸し上がったボーズが私の前にこれでもか!と出される。
“これあなたのために作ったから、全部食べて!”
と、冗談まじりに言いながら出されたボーズは、ゆうに三〜四人前はある。私の胃袋を侮るなと常々思うが、流石にこの量は大変なことになる…なんて考えていたら全て顔に書いてあったらしい、帰りにお土産にと包んで渡された。夫も一度食べて以来大好きになったボーズだったから、この夜久々に食べられてそれはそれは喜んでいた。
一年半も間が空いてしまったから、ガールズトークが止まるわけはなく、なんと気付けばぶっ通しで五時間話し続けていた。今回の話の9割、彼女がこの夏体験してきた旅の話。これが本当に最高でカメラロールを全部全部見せてもらいながらとことん盛り上がり、私は脳内トリップした気持ちになった。夏のヨーロッパへ二週間、三カ国を旅してきたそうだ。聞けば結婚10周年記念の旅だったようで、全てのブッキングを旦那さんが行った。そう全部がサプライズ…!(一応服のパッキングの為に訪れる国だけ聞いたそうだが)また行きのフライトはそれぞれの都合があったから現地で落ち合おう!という旅の始まりだったそうだ。それがなんとパリ!映画のようで素敵!)フランスのこの場所が良かった!スイスのこの場所がとんでもないほどに美しい景色で、イタリアのこれが本当に美味しかった!エトセトラ。私もメモを取りながら、いつかのヨーロッパ旅行のために聞き入ってしまった。もう最高過ぎる。
旅の話で四時間半くらい盛り上がった後、彼女が食後のコーヒーを入れながら話し出した。
いつも居ると見えていない良い部分も悪い部分も、少し外へ、そして非日常へ飛び込むことで全部全部見えてくる。どうしたって良し悪しはあるけれど、それより何より今いる環境や人への感謝が溢れてくる、と。
私が旅する理由はいつだってこれだ。いつも同じ場所にいるとどうしても見えなくなる部分が増える。それは良い面悪い面どちらもで“当たり前”に感じる部分のことを指す。その当たり前が増えれば増えるほど、何だか人は謙虚さがなくなり傲慢になり得るなと思うことが多々ある。もちろん自分自身も含めてだ。そんな時は旅をするのが一番だと思っている。国内の旅ももちろん素晴らしいが、できれば自分の日常とはかけ離れた場所へ旅するのが一番だと。それは“当たり前”なんてものは無いのだと再認識させる為にだ。
日常かのように旅をし、旅するように日常を楽しむ。
私が心掛けていることの軸にこれがある。日々淡々と過ぎて行く日常を旅する感覚を持つことで、見えていなかった発見を見つけることができる。この見つかる感覚というものが、初めての場所を旅している感覚とまるで同じなのだ。
またこれまでここに住んでいるかのように、特別扱いしない感覚で旅をする。観光地巡りや買い物ではなく、近所にコーヒーを飲みに行く、近くのスーパーに行き公園で本を読む。その場で暮らす人々と同じ行動パターンをとりその場に馴染んでみると、あらゆることをフラットに捉えることができる。これらから見えてきたことは、どんな場所にいたってその物事をどうみるか捉えるかでしかないのだということ。割と普通で普遍的で、それでいて中々の難題だ。だからこそ日常かのように旅をし、日常を旅するように過ごすことを心掛け、マインドはいつだってフラットで在りたいと思う。この夏、旅をして彼女が経験したことと同様、私も日常に有難さや感謝の心を忘れない為に。
最後は旦那さんも帰ってきて一緒に旅の話の続きをした。そして長い長いキャッチアップは終わった。まだまだ話は尽きなかったのだけれど、また今度!次は私の旅の話をするね!と別れを告げた。大人になってこんなに素敵な友人ができるなんて思わなかった。これこそが当たり前じゃなくっ、とってもとっても有難いこと、いつもありがとう!ってことなのだ。
皆様も愛ある日々をお過ごしください☺︎