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【ネタバレなし】映画「レミニセンス」は過小評価され過ぎている

「レミニセンス(Reminiscence)」は、日本で2021年9月17日に公開された映画。

「過去」という概念を持つ生き物なら、全員ぜひ観てみてほしいなぁ...っていう感想。


監督はリサ・ジョイ。

プロデューサーには、『ダークナイト』『ダークナイト ライジング』『インターステラー』の脚本も手がけた、クリストファー・ノーランの弟ジョナサン・ノーランが参加。
「クリストファー・ノーラン映画の、もう一人の天才」と謳われている。

ジャンルはSFサスペンススリラー。いかにも"どんでん返しが待ち受けてそう"なジャンル名。。


「過去」と聞いて、何を思い起こす?
子どもの頃の思い出?楽しかった思い出?辛かった思い出?成功体験?後悔?トラウマ?

どんな「過去」にしろ、誰しもが「あの時は〇〇だった」と思い返すタイミングがあるはず。

この映画は、全人類の共通項である「過去」を利用した作品であり、「過去との向き合い方」を提示してくる。


(1)比喩表現の教科書的な映画

この映画のテーマは「過去」。劇中では、様々なカットで「過去」を想起させるシーンが出てくる。

・水:全ての生物が生まれた起源である海。羊水。人体を作る賜物

・洪水:東北大震災や世界中での異常気象

・遊園地:ほとんどの人が、幼少期に遊んだ場所(思い出の地)

・戦争:今では「原始的な行為」と認識されるレガシー

・歌:子守唄。青春時代の流行歌

それはすべての人間が持つ"思い出"というやつ。僕らは無意識に「過去」を作り出し、意識的に「過去」を思い起こそうとする。
そして思い出を想起する時、たいていは言葉ではなく絵や音などの言語情報以外で思い出すはず。

この映画では、「思い出を絵で想起する」という行為を、間接的に表現し続けている。


(2)人は、存在しない「本当の過去」を知りたがる

「世界5分前仮説」という思考実験がある。世界は実は5分前に始まったのかもしれない、という仮説で、これをたった一人で否定することはかなり難しい。
他の証人が居るか、記録する必要がある。ただし、他の証人が嘘を付いているかもしれないし、記録が改ざんされているかもしれない。

「過去」や「思い出」は、物質的な存在ではない。人間の意識の中で作られる空想物だ。

物質的な存在が無いがために、人は「過去」に神秘性を覚える。過去の実績を讃え続けたり、予測不可能だったトラブルに人生を悩ませ続けられたり。
人は何故か、神だの実績だの確実な成功方法だの金だの、神秘的な印象物に魅了される。

それは正しいとも悪いとも言えない。思想自由。でも僕たちは「自分が執着している過去とは何だろう?」と思い起こす必要がある。「過去」を歪んで記憶している可能性があるし、それによって「今」に支障を来たしているかもしれない。

この映画を観れば、上記の考えを巡らせるきっかけを作ることができる。


(3)主人公の"最後の行動"が意味すること

劇中で真実が明かされた後、主人公は最後に大きな行動をとる。

「この行動が、果たして良いのか悪いのか」
劇中ではどちらにも定義付けしていない。観客側に、その判断を委ねて終える。

思い出に浸る行為は、それがポジティブであれネガティブであれ、一時的に「今」や「現実」を忘れることが出来る。
そしてその行為は、ノスタルジー(幸福感)を覚えると同時に、執着を生み出す恐れがある

過去に起こった出来事は、「自分以外の要素×自分の言動×自他の感情」で発生する
そして、僕らは過去を思い出す時、当時の「自他の感情」という側面を"必ず"加味しているだろうか?
少なくとも僕は、「当時の感情を完全肯定して想起する」ことに自信を持てない。
飲みの席だったりだと、間違った感情で思い出に浸ることが多いかもしれない。

思い出に浸るとは、ポジティブな事ばかりなのか?主人公が最後にとった行動は、正しかったのだろうか?
そんな事を、僕は未だに考え続けている。


(4)映画鑑賞そのものがメタファー

たいていそうだと思うが、映画を観終われば、映画の内容を振り返る。

この映画は舞台・時間軸・トラブルが複雑に絡まっている。振り返ろうとすると整理にかなり時間がかかる。

これは、悪く言えば「とっ散らかった映画」という印象になる。この点は、映画「レミニセンス」の評価が低い最大要因だと思う。

でも一度考えてみて欲しい。

僕ら自信が持つ「過去」は、"線では無くて点"だと思う。細切れになった思い出たちを繋ぎ合わせながら、思い巡らせることが多いはず。

つまり、この映画の散らかり具合は、僕らが「過去」を散らかって覚えていることと繋がっている。
そして、散らかった映画を整理する行為は、僕らが「過去」を整理する行為と一致する。

この点が、映画「レミニセンス」を評価したい最大のポイントだ。


(5)さいごに

僕は過去や伝統に浸ることが嫌いだ。

飲みの席やら何やらで、思い出話に永遠と花咲かせるのが嫌い。過去の実績を語り合うことが嫌い。その行為は、何かのインスピレーションになったり、新しい出会いに繋がるかもしれない。
でもポジティブな面ではその程度。たいていの人は、過去を思い出す事で自分・家族・他人を呪縛する。

人は、過去の蓄積によって創り出される。細胞という面においても、意識という面においても。
そしてそれらを制御することは決して出来ない。

僕は、ただただ次に向かい続けたい。

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