動物園を考える③ わたしたちは動物の何を見ているのか? 【ゲスト:佐藤栄記さん(動物ジャーナリスト)】
*②の続きです。
※動画の内容を一部、加筆・修正しています。
戦争のプロパガンダに利用された動物たち——平和外交としてのパンダ
——動物たちに芸をさせるというのもグロテスクですよね。まるで楽しんでやってるかのように演出されてしまって。
栗田 今日の映画『かわいそうな象を知っていますか』の最初で、当時は象に「バンザイ」をさせていた、というのがいろいろ象徴していると思いました。人間の社会状況で一番喜ばれそうなアクションを動物にさせる。それがあの当時だったら天皇陛下へのバンザイなわけでしょ? そういう意味では、いつも人間都合で、その社会が喜びそうなことを動物にやらせているというのがほんとうに・・・。
佐藤 象を殺したというのも、一説によるとプロパガンダだと言われているんです。「みんなが大好きなワンリー(花子)やトンキーらはなぜ死んだんですか?」「空から爆弾が降ってきて、動物たちが逃げちゃうかもしれないから殺します。戦争が悪いんです。敵国のせいで彼らは殺されたんです」というふうにするわけです。
実は、トンキーやヒョウの子どもに関しては、集団疎開して安全な地域だといわれていた福島県の動物園が引き取るっていったんですよ。それで上野動物園の当時の飼育係も列車の手配をして、当時の東京都長官に向けて連絡したら、長官がダメだと言った。殺さなきゃダメだ、と。殺すことありきの話らしいんですね。結局、あの年に、爆弾はひとつも投下されていないんです。「あいつらが攻めてくるから“みんなの象”を殺すんだ」という理由づけがなされたということが、今有力な説として伝わっています。
栗田 いわゆる「戦意高揚のための殺害」。
佐藤 そうです。完全にプロパガンダです。そういうのに利用するんですよね。だってパンダだって日中友好の記念にもらって、田中角栄が錦鯉を代わりに送ったことがはじまりです。動物と動物でやりとりして、贈答品みたいに使うんですよね。
栗田 プーチンへの秋田犬とかね。
しかも「かわいそうな象」たちをプロパガンダ的に殺したのとは対照的に、映画の冒頭で語られていたように、東京都知事が「パンダに感謝」といったことを言う、そのグロテスクさ。人間の政治状況に動物を使うということがずっと続いているんですね。
——象も空襲のせいで殺さざるをえなかったんだ、という話にすり替えられてしまったという点は、生田さんも『いのちへの礼儀』の「戦争と動物」という章で書かれていましたね。
生田 そうですね。絵本の『かわいそうなぞう』ではそういうストーリーなんですけど、実際は、1943年の夏はまだ空襲は差し迫ってなかった。むしろこういった動物を殺すような事態になったと都民にショックを与えて戦争に対する心構えをさせよう、ということだったみたいです。
『都政十年史』には、「空襲の際の危険ということのほかに、都民に一種のショックを与えて防空体制に本腰を入れさせようという意図も相当大きく働いていたことを見逃すことができない」と書かれています。実際、動物が殺された後、上野動物園にいっぱい手紙がきたんですけど、子どもたちの中にはこんな手紙があったんですね。
つまり、3頭の動物たちは「殉国動物」にされてしまった。人間の都合で、戦意高揚のために使われたということなんです。
佐藤 「殉国」というのは「国のために死す」という言葉ですけど、国のために身を呈す、というように利用されてるんですよね。
生田 今では「平和外交」という形で利用されるわけです。
「余剰動物」——余ったら殺せばいいのか?
——あと、わたしが気になるのは「余剰動物」のことです。「余剰動物」という言い方自体ひどいなと思うんですけど、人間都合で作りすぎたら、今度は“いらない命”とされている動物たちがいます。いらなくなったシマウマが、売られた先で死んでしまった事故もありましたけど、余剰動物については佐藤監督はどうお考えですか?
佐藤 もう解決策は考えられないですよね。一番の例は鶏の卵。ひよこの段階でオスだったらシュレッダーにかけたり圧死させたりする。あれも余剰動物といったら余剰動物です。そもそも余剰動物という言葉がどうか、という話で言うと、実験動物だろうが展示動物だろうが、ものすごく嫌な言葉で、その時点で人間は上に見ちゃっていますよね。
千石正一先生という有名な動物学者の方がよく言っていたように、人間というのは、1000万〜2000万種いるなかのただ一種類の動物にすぎない。我々は地球の中の一種類の動物として、地球の一員として、慎ましやかに生きるべきだ、ということを、誰もが肝に銘じていれば、「人間が優位だ」という考えは生まれないわけで、「余剰動物」なんていうものができるはずもない。それが、芯から腐っちゃって、直しようがないくらいのところまできちゃっています。
和歌山の「うめどり」というブランドで知られる養鶏場では、経営ができなくなって、そのまま鶏をほったらかして、14万羽を餓死させました。それが2〜3年たったら、また経営できるようになって、もう一回最初からやります、と言っている。そういうのもありますが、本当にとんでもない話ですよね。つくるだけつくっちゃったり、とれるだけとっちゃって全部食っちゃったりとか。今の人間のやっていることというのは本当に許し難いですよね。
——しかも、死んでから感謝したり、動物園の動物たちも「楽しませてくれてありがとう」みたいにいわれたりするけれど、いや、死ぬ前にやれること、いくらでもあるじゃない、と。
栗田 繁殖が動物園の建前としての存在理由だと話していましたけど、今度は増えすぎちゃって飼う場所がない、って何考えてるの?というのが、動物園における余剰動物の話なんですね。
佐藤 ライオンは今すごく安いらしいですね。一方でホワイトライオンは無理やりつくって買ってきたり。そうやって考えてみると、集客のことしか考えてないのかなと感じます。パンダだと人がたくさんくるから厩舎つくったりしていますが、パンダだろうが日本のクマだろうが、じっくり見てたらたいして変わらないし、どっちもかわいいはずなんですよね。たとえば、家の近くにタヌキが出ても、じっくり見るとタヌキってかわいいな、って話になるし。むしろ近場で身近だから共感がわくということもある。
生田 パンダは見てるとむしろ怖いですけどね。目が。
——怖いですよね。
佐藤 僕、パンダに全然魅力感じなくて、パンダよりアメリカザリガニの方が好きなくらいなんですよ。そういうのも「これがかわいいものだ」という刷り込みで育ってきちゃっただけなのかな、と思います。
生田 さっき深沢さんが「死んでから感謝する」という言葉を言ってましたけど、映画のなかでも、はな子が死んだあとに花がいっぱいたむけられてました。でも、死んでから花をたむけても遅いんですよね。生きてる間に何かできなかったのか、ということなんです。
佐藤 本当そうですね。
* 佐藤監督の映画『マッカチン シャドー・ザ・パンデミック』では、日本で迫害されるアメリカザリガニたちの姿が描かれている。
わたしたちは動物園で何を見ているのか?
——アニマルライツチャンネルで拝見したんですけど、あの檻をずっと叩いているチンパンジーの厩舎、うしろにメスがいて怖がってるんですよね。
佐藤 僕もあとから気づいて、メスのリアクションを撮ればよかったなと思ったんですよね。当時はね、オスがバンバン檻を叩いていると、心理としてそっちを撮っちゃうんですけど、撮り方失敗したなと思って。毎日オスが檻を叩いていて、それに怯えているメス、という姿の方が、ひょっとしたらその恐怖や悲しさを伝えられたかもしれない。あれは同居している方もかわいそうですね。
——怖がっているメスの姿を、普通のこととして見せられて、子どもは何を学ぶんだろう?と思います。
生田 こういうことをやってはいけない、という実例を学ばないといけないのかもね。
——動物園に佐藤監督のナレーションをいれてほしい。
栗田 遠足の場所として選ばれなさそうだけど(笑)。
でもたしかに、遠足の場所ってこわいんですよ。わたしがいったのは、動物園・水族館、あと、反対運動のあったダムとかですよ。
佐藤 それこそ僕らの時代は、『南氷洋の捕鯨』という映画を見せられていました。小学校6年間のあいだに4回は見せられているんです。それは16分くらいの映画なんですけど、南氷洋に命懸けで鯨をとりにいく話で。「日本人のお父さんたちはみんなのために鯨をとっているんだ」というのを、それこそプロパガンダとして見せられていたので、僕も「どうぶつ奇想天外!」をやっていた頃は、「捕鯨のどこが悪いんだ!」って思ってたんですね。
動物園・水族館に遠足で行くというのも日本全国の学校でやっているわけで。はな子さんを撮っていた当時2010年代、一日何組の学校・幼稚園・保育圏が来るか数えたんですよ。一日25組でした。それでなにをするかというと、「あ、象だ」「じゃあみんなで整列しましょう」といって、象の前で写真を撮って終わりなんです。それで情操教育も何もない。そうやって動物園はいいところ、楽しい思い出の場所と刷り込まれちゃってるんですね。
栗田 映画の中でも、「〇〇の姿をした」という表現をされていたけど、逆に言えば、人間はその姿しか求めてない。見た目しか必要とされていない。姿でお金になっている、姿で楽しい思い出を植え付けるんだ、というだけの用途なんですよね。
——猿のケージの前で観客たちが何秒立ち止まって見てるかを佐藤監督が測ってらしたけど、あれなんか見てても、壁にかかっている芸術品を眺めるかのようなノリですよね。命や感覚のある対象として見ていない。
それと、飼育員さんが、「うちもホワイト(ライオン)入れたいね」ってなった、って話してましたけど、軽いなーっと。
佐藤 軽いですよ。ホワイトに関してもっと最悪なのは、野生にはホワイトなんかもういないんですよ。いたらすぐ獲られちゃうから。人間がホワイトとホワイト掛け合わせて、施設でつくっているので、全部つくりもんなんですよ。だから、目は悪くなっちゃうし、いろんな病気を抱えている。ホワイトは、もう3つくらいの系統しか残っていなくて、どんどん血が濃くなっていくだけなので、ホワイトをいれている動物園というのは、その時点で倫理がないところなんだと考えた方がいいと思います。
引退した動物たちの居場所を——動物園ではなくサンクチュアリへ
——教育という面からさらに言うと、動物園をよりよくすることも大事ですけど、日本ってサンクチュアリを増やせばいいのに、と思います。
佐藤 日本動物園水族館協会という協会がある以上、年老いた動物に対して、サンクチュアリのようなものをつくるというのは、本来は彼らの義務だと僕も思っています。さきほどイルカのハニーの話が出ましたが、ああいうことって他の水族館でもこれからも出てくるわけですよね。そういうときに、残った動物たちをおさめる箱がないということのほうがおかしい。
もっというと、JRA(日本中央競馬会)とかは、年間5000〜6000頭の馬をどんどん出してきて、ダメになるとどんどん殺していく。それを民間の人が1頭でも2頭でもいいから引き取る、ということ自体がおかしくてね。JRAなんていったら、最寄りの駅から競馬場まで地下道を作っちゃうぐらいものすごい金があるわけで。それが自分たちのけつを拭かないまま許されてしまっている。日本動物園水族館協会も同じで、リタイアする動物や、行き場のない動物たちの受け入れを全く作らずに、どんどん新しいもの入れて、余ったものは殺す、というのは虫のよすぎる話だと思いますね。
——むしろサンクチュアリで、困っている動物の世話をするほうが、よっぽど動物のこと学べると思うんですけどね。動物園でチラッと見て通り過ぎるだけではなく、サンクチュアリにボランティアとして行くほうが全然教育になる。
今、タイのサンクチュアに宮子さんを送ろう、という署名運動がありますね。
佐藤 PETAという団体のジャパンがそういう署名を集めています。宮子さんというのは、動物園愛好家の中でも劣悪な環境で有名なんです。僕がここに行ったのは、アニマルライツセンターの岡田代表が、「監督、1度行ってみて。宇都宮は本当ひどいんだよ。話し合いのテーブルにもついてくれないんだよ」って話してて、それで僕も次の日行ったったんですよ。それが始まりなんですけど、行ったら本当にひどくてね。個人経営なんですよね。園長が動物好きで、本当に話を聞かない人でね。
——テルさんの厩舎が広がったというのは、佐藤監督のこの映画の影響は大きかったんじゃないですか?
佐藤 どうかわかんないんですけどでも、最近動物のことを考えている動物園スタッフが増えて、厩舎でも寝藁を敷いて少しでも負担をなくそうとしてたり、場所によってはコンクリートの基盤を取っ払っちゃって土に変えてくれたりするところもあります。甲府の動物園は、おやつの時間を増やしてくれたり、厩舎にも砂を入れてくれたり。あとチンパンジーも、甲府はコンクリートだけでしたけど、本来チンパンジーというのは樹上性といって、木の上で生活するんですね。それなのに木が1本もないところで暮らさせられてるというのも狂ってるんですけど、最近は木がいっぱい植っている動物園も結構あります。
どこかの旅行会社が「あなたの好きな動物園どこですか?」っていう調査をしたら、1位に選ばれたのが「のいち動物園」という、僕も聞いたことのない動物園だったんです。それで調べたら、すごい広いんですよ。自然の中に生きてるような環境で、みんなのコメントも「これだけ広くて悠々としていると動物園の“可哀想さ”がなくていい」みたいなことが書かれていました。
だから、世間の見方もちょっとずつ変わってきて、そういう時代なのかなと思います。悪いことでも当たり前になってくると見過ごされてしまっていた時代が明らかにあって、ジャニーズ問題もそうですし、宝塚もそうだし、日大のアメフト部もそうだし、みんな「しょうがねえじゃねえか」って、ガンガンギツギツにやってきた。そんななか、今、時代がちょっとずつ変わってきて、それまでのやり方が総崩れにさせられて変わっていくという、そういう流れが、ひょっとしたら動物園・水族館にもそろそろ来るべきなのかな、という風に思いますね。
★現在、日本動物園水族館協会が、これからの動物園・水族館のためにアンケートを行っています。ぜひ、皆様の声を届けてみてください。
https://www.jaza.jp/storage/jaza-news/5uTG5kStWppb8G5HOJ2vwUIJjJ205Xv3quP8Ia02.pdf