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リアリティ・トランジット

今日から連休で、横浜の実家に帰る。
行きは高速バス、帰りは新幹線の予定だ。
仙台から東京まで、新幹線なら1時間半。バスだと6時間くらいだ。そしてゴールデンウィークなら料金はバスも新幹線もそれほど大きく変わらない。

それでもバスに乗るのは、いつもと違う景色が見たいからに過ぎない。
新幹線から見える景色、新幹線を降りたあとの東京駅の感じ、丸ノ内線へ向かう景色、地下鉄の蛍光灯。
そんな風景はもうありありと目に浮かぶから、バスに乗る。

上海から蘇州行きの高速バスの窓から。

今日では、どのような旅行も、到達すべき目標や知り合うべき人びとといった準拠を持つ以上に、連続的な軌道上の純粋な移動、いわば乗り換え=トランジットに還元されつつある。われわれはこの旅ならぬトランジットのくり返しのなかで、属領性のひそかな喪失と不在に魅惑されている。

吉見俊哉 リアリティ・トランジット

20代の頃に、この文章と出会って、私が求めている「旅」はまさにこのトランジットだな、と実感した。

友人たちと車で延々と、宛もなく走る旅をしたり、青春18きっぷで電車を乗り継いでともかく遠くへ行きたかったり、目標があるわけじゃなかった。ただ移動して、見える景色を変えたかっただけのこと。

「属領性のひそかな喪失と不在に魅惑されている」
まさにその通りで、それは20代の頃も今も。

羽田発のリムジンバスの窓から

今日だって、実家に帰ることも弟の結婚式もわりとどうでも良くて、ただ高速バスでどこかに向かうことだけを、楽しみにしている。

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