永寿総合病院における新型コロナウイルス院内感染の報道から何を学ぶべきか?

(4/21初出、4/25加筆)

公式なものは、4/13に厚生省クラスター班が纏めた報告書がある。
http://www.eijuhp.com/user/media/eiju/chousasiennhoukoku.pdf

そのなかにこのような記述がある。

”なお、永寿総合病院では都内で2月中旬に発生した集団発生に関連したと考えられる事例(PCR陽性例は3例)と海外帰りのPCR陽性例1例の診療を2月に行っている。これらの症例は今回の流行の起点となったA, B病棟とは異なる病棟で診療されており、これまでのところ今回の集団発生とのつながりは明らかではない。”

つまり、永寿総合病院では2回、集団発生が起きていたということだ。便宜上、ここでは「第1期」「第2期」と勝手に名付けさせてもらう。第2期が今回のメガクラスターである。

この表は一個人が勝手にWEBで収集したデータなので、途中で数字がおかしなことになっており、永寿総合病院の公式発表とも合っていない。きっと同じ人を重複したり漏れてしまったりしていることと思う。大まかに参照してほしい。

(※4/25に加筆していますが、この図は古い情報のままです。)

タイトルなし

この表の項目「クラスター分析図」とは、下記のこと。
上から順に1~19と数えている。

画像2

https://www.jsph.jp/covid/files/gainen.pdf#page=47

第1期

WEB記事に関係者の話として

「最初に見つかった感染者は、今年1月に都内で発生した屋形船での集団感染の関係者です。その関係者であることは、ご本人から聞いて初めてわかりました。はじめからわかっていれば、もちろん感染症病棟に入っていただくわけですが、風邪とは全く別の病気で入院されていたので、あわてて検査して感染がわかったんです。患者さんのご家族にも感染していました」
ニュースサイトで読む「コロナで20名死亡…永寿総合病院がクラスター化した“別の原因”と“初動ミス”」: https://biz-journal.jp/2020/04/post_151767_3.html
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とある。記事には何時診断がついた人の事か書かれていないがおそらく、クラスター班の指摘にもある、第1期の初めの人のことを指していると思われる。
この方と同室だった2名が遅れて発症している。
(初めからコロナと解っていれば、相部屋なんてありえない。)
診断がついたのは2名とも最初の方から10日以上経ってからだった。

この他、海外からの帰国者がいたのもこの時期とのことである。

当初第1期と第2期の関連が疑われたとのことも、

”新型コロナウイルス感染に関連した入院事例がありましたが、この事例については、今回のアウトブレイク以前に収束しております。今回の事例との関連はない可能性が強いと判断”
http://www.eijuhp.com/user/media/20200414genjouhoukoku.pdf

というのが、現時点での公式見解となっている。
ただ、第1期がいつ収束したと判断されるのかについての公開情報は私は見つけられてない。

第2期

当初に発覚したのは、地元で検査した茨城県在住の派遣職員。
この方が3/19に発症したと推定されることから、第2期は3/19からカウントされている。

3/30のWEB記事によれば、

”「看護師の病欠人数が普段より明らかに多く、おかしな感じがしていた」。入院患者やスタッフから多くの新型コロナウイルス感染者が出た永寿総合病院(東京都台東区東上野)で働く女性スタッフは毎日新聞の電話取材に、多数の感染が判明する以前から異変を感じていたと証言した。 ”
「看護師病欠多く、おかしい…」 多数感染・台東区の病院職員が感じた異変 毎日新聞 https://mainichi.jp/articles/20200330/k00/00m/040/182000c

とのことだが、これがいつ頃からなのかについては言及は無い。
公式発表 http://www.eijuhp.com/user/media/eiju/chousasiennhoukoku.pdf#page=5 では医療従事者の発症は3/15~となっている。

しかしその後、3/29に私はこんなtwitterでこんなツイートに気付く。(一部省略改変して引用。)

”とうとう●●区でもコロナが…区役所に問い合わせたら、公表しない方針です、だって。濃厚接触者には連絡済みと言ってた。”(3/6)
”あと、おかしいのは…陽性反応が出た男性の同居家族に症状が出ていないからという理由で検査しないということ。”(3/7)
”●●区の感染者宅、消毒にも来ていないそう。…●●区は症状なければ濃厚接触者でも検査なし。●●区の××(立ち寄り先のスポーツクラブ)は公表なし。”(3/8)
”やっぱり!あの陽性者の人が大部屋に入院してた病院でクラスター発生! そりゃそうだよね。約1ヶ月、大部屋に入院してたんだから。” 
”永寿病院のクラスター。2月にコロナ陽性患者が大部屋に入院してたからだってばー!ちゃんと検査してれば防げたんだってばー!保健所の責任なのに。区にも電話したのに…エアロゾル感染はしないので、とかいって聞く耳持たなかった職員のせい!”(3/25)
”永寿で入院患者から陽性者が出たと分かったのが3月の第1週だったんですよ。そこで保健所と都と●●区(その入院患者が●●在住のため)には報告済みなのに、他を検査せずほっといたのでこんなことになったんですよ…なんども区や保健所に電話して大丈夫なのか聞いていたのに。”(3/29)

私のつぶやきに答えてもらったのが

”3月7日に公表された52番の方が永寿に入院していたかたです。…とりあえずその方は2月は永寿に入院していたので、感染したのは1月といわれています。”
”永寿で1番最初に陽性がわかった方は1月末に発症して1ヶ月大部屋に入院していて、その間ずっと検査を断られたそうです。そして退院した日に救急搬送で▲▲へ。それが3月第1週だったのにそれをほっといたからクラスターになってしまった。”(3/29)

このツイートをされた方は、「患者番号52番」(クラスター分析図の5番)の方が最初の感染者で、かつ入院前に外から持ち込んでしまったと考えて、立ち寄り先のスポーツクラブでのクラスター発生などを心配して、地元議員に声を届けていた。

その後に上記の「クラスター分析図」がUPされた。
(申し訳ないけれど、この図を見て、これらのツイート内容が、事実と初めて認識できた。)

果たして、この「患者番号52番」さんが第2期の一人目なのか、それともクラスター班が当初仮説を立てたように、第1期から無症状の医療従事者を介して院内感染したのか、それとも他にルートがあったのかは、わからない。

でもせめて「患者番号52番」さんの感染が発覚したこの3月初めに元同室者や、家族、医療従事者などを調べていたら、と思わずにはいられない。
もっと言うと理想は、そもそも入院後に検査を希望した時点で拒否されなければ、と思ってしまう。そうすれば、きっと「患者番号146 or 148」(クラスター分析図6番)の方も、もっと早く確定診断がついたかも知れないと思う。

-----(ここから4/25加筆)-----

この記事を4/21に投稿した後で、事情に詳しい方のログを見つけた。
4/13付の元記事は既に削除されているので、要旨のみ紹介する。

”永寿総合病院感染対策チームは、隠れ感染者の洗い出しのため
(第1期院内感染の)全接触者のPCR追跡検査を要請したが
保健所から検査要請を却下されて実行できなかったらしい。”
”2月末、別の病棟に脳梗塞を発症した方が緊急入院。
数日後肺炎を発症、誤嚥性肺炎として治療を受けた。
その後あたりから、この病棟で発熱して休む職員が増え始めた。
のちに、誤嚥性肺炎と思われていた方もコロナ陽性と判明した。”

この患者さんが「患者番号146 or 148」(クラスター分析図6番)の方ではないかと憶測する。

-----(ここまで4/25加筆)-----

考察

クラスター班は下記考察を述べている。

無症候もしくは非常に軽症の医療従事者が感染拡大の原因だった可能性がある。https://www.jsph.jp/covid/files/gainen.pdf#page=47
[全体に共通する要因]
・密に過ごす空間(病棟休憩室、仮眠室、職員食堂、職員ロッカーなど)での医療従事者間の感染拡大の可能性
・原疾患やその治療に伴う症状もあり、本疾患を疑うタイミングが遅れた可能性
[病棟内の拡大の要因]
・基本的な感染予防策(手指衛生など)が不十分になる場面があったこと
・認知症など動き回る患者の存在
・化学療法中など易感染性患者の存在
[病棟間の拡大の要因]
・病棟の構造上の問題(隣接病棟と一体化した構造)
・患者の転棟による拡大・病棟間を移動する医療従事者が媒介した可能性
http://www.eijuhp.com/user/media/eiju/chousasiennhoukoku.pdf

けれどももっと根本的な問題として、例え偽陰性の可能性があっても少なくとも入院患者であればPCR検査を憚りなく受けられる体制が必要であったと思う。まして、退院直後に感染が確認されたのであればなおさらだ。

特に、「患者番号52番」さんは発症が転院後とされたことで、永寿総合病院で同室だった方や関わった医療従事者は、濃厚接触者扱いすらしてもらえなかった可能性が高い。

折しもこれを書いているさなかに、濃厚接触者の定義変更が為されたとの報道が流れてきた。ようやく、発症前の接触にさかのぼる、クラスター班が調査を行ってきた手法と同様の振り返りが、一般の感染者にもあてはめられることになった。

…遅すぎだよ。あまりにも。

それに、”感染者がマスクの着用や手の消毒など周囲を感染させない対策を取っていた場合は原則、濃厚接触者にはならない”など、まだ縛りも多い。
…本人は対策を取っているつもりでも、十分だったかどうかなんて、だれにもわからないのに。

そもそも、濃厚接触者認定されたとしても、結局検査もしないで放置されるのであれば今までと変わりない。検査の拡充が必要だ。

-----(ここから4/25加筆)-----

第1期の院内感染は防げたかどうかはわからない。全国の院内感染の原因調査結果と併せて待ったなしの検討が必要と思われる。
きっと、例えば入院時にPCRを行い、陰性であっても入院後一定時期は個室対応または感染者と同等の対応にして経過を見つつ、時期を見て再度PCR検査を行うなど、単に検査を行えばいいというわけではなく、根本的な病院運営の在り方にまで関わってくる問題なんじゃないかと思う。

ただ、第2期の防止については、いくつかのチャンスがあった筈だ。
・第1期の直後
・「患者番号52番」さんの感染判明直後
・「患者番号146 or 148」さんの肺炎判明直後
  (例え、仮に”典型例”ではなくても!)
・職員に病欠が多発した時
  (結局、他県である茨城県が先に指摘した!)
など、必要性を感じた時に即座にPCR検査が出来ていれば、防げたのではないかと思われてならない。

-----(ここまで4/25加筆)-----

おわりに

もう本当に数えきれないほどの院内感染が起きている。
原因はそれぞれだろうし、対策も院所の規模や役割などで異なることと思う。専門家じゃないと判らない気づきも多いと思う。
ただ、それでも、当事者である罹患者自身や家族、それにかかわった人たちや、医療スタッフらの声に耳を傾けることが何よりも重要だということに変わりはないんだと思う。(終)


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