茨戸アカシアハイツでの新型コロナウイルス集団感染をめぐる報道
1.UHB コロナといのちの選別 感染で隔絶された人々
2020年5月30日(土)放送。YouTube公式サイトに
文字起こしも含めてUPされています。
2.NHK 北海道スペシャル「検証 茨戸アカシアハイツ~“介護崩壊”は防げなかったのか~」
2020年7月10日(金)放送。
サブタイトルは勝手に付けました。
プロローグ
(ナレ)防護服を着たスタッフが階段を上がると 2階には感染者が隔離されていました
フロア内を歩き回る感染者
スタッフは感染リスクと隣り合わせで接していました
入所者にとっては住まいでもあったこの施設で12人が亡くなりました
札幌市にある介護老人保健施設 茨戸アカシアハイツ 道内最大の集団感染が発生しました 入所者の7割以上にあたる71人が 感染。施設全体に瞬く間に広がりました
なぜこのような事態が起きてしまったのか
私たちは 施設の内部記録を 独自に入手
介護士や看護師の 証言から現場の実態に迫りました
(聞き取り報告書 読み上げ)
”下痢もひどい 痰もひどい 血を吐く”
”40人を一人で 見なければ ならない できないと泣く看護師もいた”
(ナレ)浮かび上がってきたのは 介護と医療の 現場が同時に崩壊していく 想像を超える事態でした
(看護師)茨戸アカシアハイツ の中では完全な医療崩壊は起きてた
(介護士)最後まで息を引き取るまでつきっきりでしたね 割り切れないですよねこれは本当に
(ナレ)現場の崩壊は防げなかったのか 独自取材から検証します(司会:野村優夫アナ)こんばんは
全国でも最大規模の集団感染となりました茨戸アカシアハイツ この施設は介護老人保健施設です つまりリハビリをしながら心身を整えて自宅に戻ることを目的にした施設です
この施設には95人の高齢者が暮らしていましたがその7割を超える71人の方が感染しました
そして17人の方がなくなりました
中でも12人の方は施設で亡くなっています
看取りをしたり高いレベルの医療を提供したりする施設ではない介護老人保健施設でなぜこのようなことが起きたのか
今回私達は施設が行った詳細な聞き取り調査の記録を入手して関係者に徹底的に取材を行いました
そこから見えてきたのはなすすべもなく混乱が深まっていく現場の姿だったのです
遺族インタビュー
(ナレ)施設に入所していた89歳の女性です 新型ウィルスに感染し亡くなりました
(家族)明るくて朗らかでしたね 昔から優しい母でした
いつもお人形が好きで施設の中で抱っこしてたのがとても可愛かったので (写真は)これ全部施設の中ですね いつも笑っていました
(ナレ)入所したのは9年前 音楽が好きで施設のみんなで歌を歌うのをいつも楽しみにしていました
(家族)そうなんです 最初はインフルだったんですよね ですから…
(ナレ)女性の娘です 家庭の様に暖かい施設だったといいます
(家族)ほっぺたにチューしてくれたりなんかすごく本当に可愛がって あの お祭りやお誕生日会やいろいろやってくださって 楽しい思い出しかないんですけども
(ナレ)感染がわかったのは4月28日
病院には入院せず施設で体調の回復を待っていました
しかし2週間後の夜に容態が急変 翌朝息を引き取りました
(家族)(施設の)玄関先で(遺体を入れる)納体袋に入っている母が棺桶に入れられる所は見ました
顔も見えませんし会えませんで 会えないんですけどもそのときが一番つらかったかなと思いますね
(ナレ)母はどんな状況で亡くなったのか施設で何が起きていたのか知りたいと言います
(家族)私が最後にみとるっていう気持ちでおりましたから だからまさかこんな感染でなくなるなんていうのは本当に思っていなかったので
なぜ入院をさせていただけなかったのかっていうことですよね
職員聞き取り調査の概要
(ナレ)介護老人保健施設 茨戸アカシアハイツ 入所者71人が感染しそのうち12人が施設の中で死亡しました
(看護師:会話)”確か看護師は4人体制で…”
(ナレ)施設を運営する法人(札幌恵友会)の(常務)理事 伊東慎二さんです 当時の状況を職員一人ひとりから聞き取っています
(伊東理事:会話)”どんな状況でした?”
(看護師)何をどういう風にして行ったらいいのかなっていうのは ものすごく不安というのはありました
(ナレ)何故施設で死者が相次いだのか検証しようとしています
(伊東理事)壮絶なことだったと思っております 入所者さんご家族さんのですね もう一度信頼を回復するべくですね 法人で一丸となって努力していきたいなと思っております
(ナレ)伊東さん達が13人の職員から聞き取った調査の記録です NHK が独自に入手しました
(聞き取り報告書 字幕)
”一階、二階、入り乱れて出た”
”どんどん重篤化する状況”
(ナレ)証言からは想像を超える事態に直面し混乱に陥っていく現場の様子が明らかになりました
4月26日 最初の感染者が確認されました
札幌市が検査を行うと翌日にはさらに14人の感染が判明
(聞き取り報告書 読み上げ)
”気がついたら蔓延していた”
”発見した時には散らばって発症していた”
(ナレ)感染拡大の様子です(建物の見取り図表示)
最初の感染者がいたのは2階の一室。
しかし他の部屋からも相次いで報告されました(同じ棟の1・2階表示)
4月30日には感染者は40人にまで拡大(2階の別棟表示) この同じ日に施設で最初の死者が出ます(2階1名、1階1名表示)
職員にも感染が広がります 濃厚接触が疑われ8割近くが現場を離脱しました
(聞き取り報告書 字幕)
”さんを入院させて欲しいと伝え”
”入院させてくれ”
(ナレ)感染者を入院させて欲しい
職員たちは入院を調整していた札幌市に繰り返し訴えました
国が出した文書でも介護老人保健施設で出た感染者は重症化のリスクが高いとして *原則入院* だとしていました
しかし
(聞き取り報告書 読み上げ)
”「入院はできない」と言われた”
(聞き取り報告書 字幕)
”断られた”
”「入院はできない」と言われた。9名は熱が高かった。”
”すぐにボンベを使った”
(聞き取り報告書 読み上げ)
”「救急車は来ません」”
(聞き取り報告書 字幕)
”「救急車は来ません」と”
”救急車は呼んでも来ません”
(ナレ)一方で市からは施設で死者が出た時の対応をまとめた手順書が送られてきました 調査の記録には市から納体袋の提供の申し出があったことも記されていました
(聞き取り報告書 字幕)
”・26日保健所の方2名・・・
況。なんとか病院に、と保健・・・
の日のうちに保健所から電話・・・
・30日に亡くなった〇さん・・・
さんを入院させて欲しい」と訴えたが「無理」と言われ・・・
も同じ」
・(納体袋についての質問に対して・・・
(聞き取り報告書 読み上げ)
”「置いときましょうか? これから亡くなる方もいるのでやり方を説明しましょうか?」(と言われ) 怒りました”
職員インタビュー その1
(ナレ)現場の介護の責任者 鈴木幸恵さんです 施設の中で10人の入所者を看取りました
(介護統括:鈴木さん)きちんとした医療というか病院のような医療は提供してあげられなかった 老健はそういう機能の所では無いですね、在宅復帰を目指す所なので 一人でも多く1日でも早く入院させて欲しいという思いがありましたね、はい。
札幌市の方針、現場の混乱
(ナレ)何で入院できなかったのか 札幌市が施設に送った別の文書に市の考え方が記されていました
入所者は介護を必要としているため施設に留めて療養してほしいとしています
その上で症状が悪化した時に入院を検討するとしていました
実際には最初の感染者が確認された日から2週間後の5月11日まで入院した人はいませんでした
その間8人が施設内で亡くなりました(カレンダー表示:4/30に2名、5/6に1名、5/8に1名、5/9に1名、5/10に1名、5/11に2名)看護師の佐藤千春さんです
8人の中には亡くなる数日前から入院すべきレベルまで容態が悪化した人がいたといいます
記録にも血液の中の酸素が極端に減った入所者が複数いたことが記されています
(聞き取り報告書 字幕)
”サーチレーションが60台の低レベルに。・・・(原文のまま)
ドクターの指示で)5リットルで様子を見たら・・・
夜勤朝4時には変化なし。朝6時に呼吸・・・
9時前くらいに亡くなった。”
(聞き取り報告書 読み上げ)
”目が離せない。酸素ボンベが1時間とか2時間で交換。息が止まる、苦しい、”
(看護課長:佐藤さん)全然息が入っていかないような状況で あのなんて言うんでしょ 半分溺れてるようなアップアップしているような そういう呼吸ですよね このまま施設にいることが本当に正しいことなのかなっていうのはちょっと疑問には思ってはいました。
(ナレ)新たな感染者が相次ぐ中、現場は想像を超える混乱に陥っていきました。
札幌市は感染者を施設に留める代わりに病院と変わらない医療の体制を整えるとしました。送られてきたのは日中に医師一人、看護師は確保できた時のみ、介護士の応援はありませんでした。
介護の責任者鈴木さんです。通常日中は6人必要な介護士が一人しかいない日もあったといいます。
当時の鈴木さんの勤務表です穴を埋めようと連日業務を続けていました。人手が圧倒的に不足していたのです。
(鈴木さん)「(夜勤)明け」のまま勤務という状態 「明け」で帰っているわけじゃないのでここも勤務していました
(ナレ)入所者の入浴を中止 さらに食事の回数も減らすなど介護を大幅に制限せざるを得なかったといいます
(鈴木さん)想像を絶する状態ですね あのー 相談員や事務所総出で 本来介護をしたことの無いうちの事務局長なんかも手伝ってくれたりして
お手伝いに来てくれた看護師さんが「破綻をしているところを初めて見ました 破綻しているとは聞いてたけども 本当に破綻してるんですね」っていうぐらい本当に凄い状態でした
(ナレ)医療の提供体制も破綻していました 看護師の佐藤さんは一時感染者50人を含む89人の入所者を一人で見ていました 酸素の吸入が必要な人の管理や容態の観察などを十分にできる環境ではなかったと明かします
(佐藤さん)茨戸アカシアハイツの中では完全な医療崩壊は起きていたと思います
施設の中は本当に災害現場かと思うぐらいの人の足りなさと忙しさと混乱状況でしたので 援助をする人間が少ない でも援助を必要としている人間はものすごくたくさんいる その援助の手が回らないということですよね
職員インタビュー その2
(ナレ)感染対策も形骸化していました 札幌市の指導のもと感染者を2階に隔離し他の入所者は1階に集めていました
しかし同じ職員が二つの階を行き来せざるを得なかったのです 誰もが感染する恐れがあった 複数の職員が聞き取り調査で打ち明けていました
(聞き取り報告書 読み上げ)
”危険 私たちにうつっても仕方がない”
”怖いけどどうしよう、ほっとけない。”
(ナレ)現場が崩壊していく中で入所者たちの容態は次々と悪化していきました
(聞き取り報告書 読み上げ)
”足の裏も手のひらも紫。チアノーゼを起こしていた。”
”下痢もひどい、痰もひどい、血を吐く。”
”弱っていくのを見ているだけというのは本当にこのことなんだ。”
(鈴木さん)本当に最後まで息を引き取るまでつきっきりでしたね はい 声かけながら 最後まで声は聞こえると思っているので 本当に頑張って頑張ってと 私たち最後まで声をかけてましたね
(佐藤さん)家族の望んでいるような 最後だったんだろうか と そういう気持ちになった 大変申し訳なかったという気持ちと でも私たちにあれ以上何ができたんだろうという思いはあります
転機
(ナレ)事態が改善するきっかけは 5月9日 厚生労働省が現場に医師を派遣したことでした 感染拡大が 続いていることを 重く見たのです
赤星昴己さん(厚生労働省DMAT事務局医師) 被災地での緊急対応を専門とする 国の医療チームに所属しています 赤星さんは現場の厳しい実情を札幌市が把握できていないことに気づきました
(赤星さん)看護師と介護士の人数が圧倒的に不足しているような 状況下にあったので その人員不足ゆえに 病院と同じレベルの管理は 提供する状況にはなかった
(ナレ)赤星さんが施設に必要な人員や物資を独自に 調査し市の幹部に直接報告したのは5月13日 この日以降札幌市は入院の調整や人員の確保に複数の 部署が連携して取り組むようになりました
(赤星さん)問題はやはり情報共有だと思っています 札幌市内においてアカシアの情報を各々の担当者かから全部統合して集めて一元的に管理するという責任者がはっきりとしていなかった それゆえに必要な人員がなかなか集まらなかったということかなと思います
札幌市の言い分
(ナレ)札幌市が現地に対策本部を設置したのは5月16日 しかしこの時までに12人が施設内で亡くなっていました
もっと早い段階で感染した入所者の入院を進めていれば事態の悪化を防げたのではないか
NHK の取材に応じた札幌市の責任者は当時札幌市の病院に入院させることは現実的ではなかったと言います
(札幌市保健所 山口亮 感染症担当部長)私どもとしては第二波が最も大きな状態だったということがありまして要介護の方々、介護が必要な方々が入るにしては一般の方よりも人手がかかるという観点から病院での病床の確保がすごく難しかったという風に考えています
(ナレ)当時札幌市内では1日に20人を超えるペースで新たな感染者が出ていました 重症者を受け入れる病床は一時8割以上が埋まりました(5月9日) 施設の感染者を入院させれば市の受け入れ体制が崩壊する恐れがあったのです しかし結果として現場の破綻を招くことになりました そして施設に感染者の看取りを担わせてしまったのです
(山口さん)もちろんリカバーしていく方もいらっしゃるんですけど、逆に言うと悪化して亡くなってしまうということになるということはそこのところは非常に厳しい選択にはなってしまうんですけれども そういう状況も起こり得ることが今回の事例だったんじゃないかなと思いましたね
職員インタビュー その3
(鈴木さん)看取らざるを得なかったというのは周りに居る職員にもかわいそうなことをした と思いますし利用者にも申し訳ないとおもいますけど
受け止める家族の気持ちも考えるわけで・・・ 本当はあってはいけないと言うか経験したくないこと あってはいけないことですね、これは・・・割り切れないですよね これは本当に いつまでも背負っていかなければならないことですよね 今回の件は
解説 その1
(司会)施設の取材にあたりました北井記者に聞きます
改めてご遺族の方々からはどんな声が聞かれましたか
(北井記者)大切な家族を突然失うことになったご遺族に複数取材しました 遺族の多くが話していたのは施設が家族を預かってくれなければ今の自分の生活はなかったと 感謝する声でした 中には施設で看取ってもらって良かったと話す人もいました しかし家族が病院に入院すること無く亡くなったことについては 戸惑いを隠せずにいました その背景には 施設内に留めた理由や家族の容態の変化について 施設や市 から十分な説明が無かったことにあります 施設では当時人員が不足していて十分なやり取りもできていない遺族もいたのです 情報提供が不足していたことが 一部 の遺族の怒りにもつながっていて 誰に怒りをぶつけていいのかすらわからないと話す方もいました 施設で 何が起きていたのか 遺族に伝えたいというのが私たちが取材を始めた動機でもあります
(司会)そういったご遺族の方々の声に対して施設の皆さんはどう答えようとしているのでしょうか
(北井記者)施設を運営する法人は先月(6月)の下旬から遺族を訪ねて今回の事態について説明を始めています 遺族と向き合うまでに集団感染から2ヶ月近くがかかったことになりますその要因の一つには施設の陥った混乱の大きさがあります職員たちが心に負った傷も深く入所者の死に相次いで直面したことで精神的なショックを受けて今も職場に戻れない人が少なくありません 当時現場で何が起きたのか施設自身が詳しく把握するのにも時間がかかっているのです
(司会)とにかく当時は現場が大変混乱をしていたんだと どこにどれだけの 職員や医療スタッフが必要なのか把握も出来ない状況だったということなんですけれどもただ これ施設と市の 職員同士のやり取りはあったわけですよね 情報の共有ができなかったという証言も VTR の中に あったんですがこれはどういうことなんでしょうか?
(北井記者)感染拡大が最も深刻だった時期にも 施設と市とのやり取りはありましたので私たちも同じ疑問を抱きました 取材をすると当時は
感染対策の指導に 当たる 市の保健所の部署と
入所者の入院の調整を 担う 市の保健所の別の部署 それから
防護服など物資の準備を行う市役所の部署
主にこの三つが施設と連絡を取り合っていました。
しかし現地に入った 厚生労働省の医師によりますとそれぞれの部署が得た情報が 他の部署と 十分に共有されていませんでした。このため 市も施設で何が起きているのか 全体像をしっかり把握できていなかったことになります。そして 施設側 も誰に何を言えば現状を変えることができるのかわからない状況にありました。札幌市のような大きな組織に起こりがちな いわば 縦割りによる連携の不足が今回の事態の背景にあったと言えます
対策 その1
(司会)今回のことを踏まえまして ではどのような対策が必要なのか、対応にあたった行政や 専門家の 模索が始まっています。
(ナレ)先月 茨戸アカシアハイツを運営する法人で開かれた感染対策の講習会 施設のスタッフなど20人以上が集まりました
(講師:講習)”アカシアハイツの 方々 が大変な思いをしてこの苦難を 今 乗り越えつつあるとこの経験を無にしてはいけないとそういう思いで参りました そして皆さんが…”
(ナレ)集団感染が発生した頃から施設の対策に関わってきた北海道医療大学の石角鈴華さん 今回介護施設特有の事態が相次ぎ通常は有効な感染対策がうまく機能しなかったといいます
(石角さん)認知症の人はアルコールの手指消毒剤を置いてしまうとそれを飲んでしまったりですとか、マスクをしていただくようにお願いをすると外してしまったり、それだったらまだいいんですけれど、誤って食べてしまったりなんてことが起きると大変な事故になってしまいますので、医療施設に比べて何倍も感染対策はやりにくいなということを実感しております。
(ナレ)介護施設では一般的な共用の空間が多い構造も対策を困難にしていました。 居室は相部屋 食事の提供や運動も複数の入所者が同じ場所に集まり同時に行われます。 入所者の多くは認知症だったり体が不自由だったりするため職員が密接に関わりながら介助する必要があります。 このため感染者が出ると濃厚接触者が一気に増えて隔離を徹底することは極めて難しくなります。 実際施設では最初に感染者が出てから五日間で入所者と職員合わせて47人の感染が確認されました。 石角さんは介護施設での感染拡大を防ぐためには、実情をできるだけ早く把握した上で対策を打つ必要があると言います。
(石角さん)気づいてからでは広がっている場合があるということですね。感染者を見つけたら早期に発見して初動対応を迅速に行うことが最も重要なことということになると思います
対策 その2
(ナレ)今回得られた教訓をもとに札幌市では動き出しています。 介護施設などで集団感染の疑いがある場合には現地に速やかに対策本部を設置し専属のチームが施設ごとに異なる事情や課題を把握して対策に取り組むようになりました。
今回の施設で事態の深刻さを市に初めて報告した赤星昴己さん。 市の要請に応じて新たな集団感染の現場に入っています そこで生かされるのは赤星さんが所属する国の災害医療チームのノウハウです。 どの現場に何人の人員が必要なのか、数多くの被災地で得られた知見をもとに算出して施設の支援に活用しています。
(赤星さん)現場の情報をいかに迅速かつ正確に収集して、それを共有して対応策を検討していくかというのは、集団感染発生時に関しては非常に重要で、ほぼその対応にかかっている。
(ナレ)札幌市は今回の施設が直面したような厳しい事態を二度と起こさないよう取り組みたいとしています。
(山口部長)こういう大きな経験、私ども大きな犠牲を払ってしまったこの事例においてはですね、何を学べるか、 そして今後同じような事案について何がスピードアップできてどういうところがサービス改善につながるか、現地に拠点を作り情報を取ることは、施設に集団的な感染が起きた時には 必ず必要になってきますね
解説 その2
(司会)ここからは行政や専門家の取材を行った福田記者に聞きます。
正しい情報を得る努力「は」する と。その情報に基づいて本当に患者さんを病院に送ることができるのか 先ほどのVTRでは病床が逼迫をしていたんだという証言もありました きちんと入院できるんでしょうか
(福田記者)全ての人をすぐに入院させられるか これはその時の病床の空き具合にもよります札幌市をはじめ各自治体は病床を増やす取り組みを当然進めています しかし限界があります ですが札幌市は病院での治療を最も必要とする入所者については優先して入院させようとしています というのも今回の事態では札幌市が入所者やその家族の 要望を十分に把握しきれなかったということも課題です 病院での治療を望んでいるのかあるいは施設での療養を求めているのか入所者ごとに異なる考えがあるわけですけれども これを十分に踏まえることが出来ず 病床不足などといった市の事情をもとに感染者を施設にとどめていました。それが現場でちゃんと情報収集を行なえれば 誰の入院を特に急ぐ必要があるのか こういったことの優先順位が付けられます。また施設に留まった入所者については適切な医療と介護を提供するためにお医者さんや看護師・介護士を何時どれくらい送ればいいのかこういったことも分かるようになります。
(司会)例えば現場で人員が不足してるって事が分かったと こういう時にはどのようにして人員を送り込むとしてるんでしょうか?
(福田記者)集団感染が発生した施設が必要としてる人員をどう確保していくかこれは全国共通の課題だと思います
札幌市は「人材調整班」を新たに立ち上げています 医師会や大学などと協力して人員確保の枠組み作りに取り組んでいます また症状が軽い人が療養するホテルなどの療養施設のために確保してきたお医者さんや看護師というのがいるんですけれどもこれを介護施設にも必要に応じて回せるようにしようとしています 介護士の確保ですね これについては市は道と共に道内の介護施設で作る団体と連携してあらかじめ人材を確保しておこうと そういった新しい制度も検討を始めているわけです
(司会)改めて今回の事をどう受け止めるべきだと考えますか
(福田記者)高齢者は重症化するリスクが高く介護施設で感染が広がれば結果は重大です 茨戸アカシアハイツで起きたことは全国どの施設でも起こりうることです
介護施設の集団感染をどう防いで 一人でも多くの感染者をどうやって救うのかこれは新型コロナウイルス全体の犠牲者を減らす上で喫緊の課題なんですね
北海道を襲った第2波 このような誰もが経験したことのないような感染拡大が起きた時に私たちの社会を構成する全ての人に最大限の支援をどうやって提供するのか これは自分自身がですねいつ感染してもおかしくない 今だからこそ医療や介護の現場だけでなく 私たち一人一人が考えて行動していかなければいけないんだと思います
エピローグ
(司会)大変な体験をした茨戸アカシアハイツですが 今再出発へ向けて あゆみを進めようとしています
(ナレ)先月(6月)下旬 施設では感染拡大がおさまり検査で入所者全員の陰性も確認されました 職員たちは再び入所者を受け入れる準備を始めていました
(職員:会話)”元気で帰って良かったね ありがとうございます”
(ナレ)病院に入院していた感染者も回復して戻ってきました。
(職員:会話)”お部屋に行きます お帰りなさい お帰りなさいってみんなで言って”
(ナレ)ようやく帰ってきた入所者たちを介護の責任者の鈴木さんが明るく出迎えていました
(鈴木さん:会話)”うん、アカシアに帰ってきたよ。”
(入所者:会話)”良かったぁ”
(鈴木さん:会話)”良かったね、嬉しかったね。”
(レポーター)職員や鈴木さんにも笑顔が見られるんですが
(鈴木さん)最初から暗い雰囲気ではいけないと思います。こういう所なので、元気よく入ったほうが良いんじゃないですか。
(ナレ)施設を運営する法人は2か月余り続いた集団感染の終息を宣言しました。
(伊東理事:ミーティング)”改めてですね、今日を区切りにクラスターの終息ということを宣言させていただきます 一歩一歩 急には元の形に戻らないと思いますがまた新たなニューアカシアハイツとしてですね 今後も皆さんの ご協力をお願いしたいと思っております”
(ナレ)もう一度安心して暮らせる介護施設に。鈴木さんは決意を新たにしていました。
(鈴木さん)この仕事は決して辛い仕事ではないんです。私にとってもそうなんですけど楽しい仕事なんですよね 私は一瞬でもいいからその人がここで生活していて良かったなとかご家族がここで良かったなって思ってもらいたいなと思ってやってるだけなんです。 忘れずにやるしかないなって やるしかないと言うか 私たちは生きているので 少なくとも私は生きているので 忘れてはいけないことだって思っていますから そういう意味では抱えていくという風に一緒に歩くと言うか そういう風に思ってます。
(職員:会話)”お部屋行くからね”
(ナレ)入所者71人が感染し17人が死亡した茨戸アカシアハイツ。得られた教訓を生かすことが私たち一人一人に求められています
(職員:会話)”良かったね 久しぶりに帰ってきたからね”
感想
初めにUHBの特集を見たときは、正直、全く心に刺さらなかった。ニュースで見たことの総まとめで、新しい情報らしきものが無く、
なぜ、こんなことになったのか、憤りに対する答えが見つからず、見終わってからもずっとモヤモヤが収まらず、感想のツイートも出来なかった。
今、改めて見直してみると、そこまで内容が薄いわけではないのに…。
寧ろNHKの特集のほうが、トーンダウンしている。ただ、2か月が経過して、詳しい経過に加えて、職員への詳細な聞き取り調査の結果が公表されたことや、一部の管理職職員が顔出しでインタビューに応じたことで、強く共感することができた。
毎日新聞の報道によれば、
https://mainichi.jp/articles/20200808/k00/00m/040/022000c
インタビューに答えた課長職の看護師は、もともと5/5に同じ法人の別施設から応援に入った職員とのことで、それだけ体制が壊滅的だったのだろうと想像される。
そして、結局は市は全く入院受け入れを行う気が無かったことと、厚労省からの派遣調査が入ってようやく、しぶしぶ重い腰を上げたということが浮き彫りとなった取材だったと思う。