ヨロイマイクロノベルその28
271.
白と赤の彼岸花がそれぞれ列をなして咲き誇る。真夜中、茎が曲がり、交差する。6本の雄蕊と1本の雌蕊も細く長く広がり、互いに交わる。白と赤の線によって浮かぶX、×、メ、乂。蕊の先はやがてほのかに光を帯びる。火、火、火、火と変わる。朝方に輝きは消えて、すべてが元に戻る。
272.
寺に見知らぬ犬といる。背後で音を立てて一粒の銀杏が落ちる。犬がくわえる寸前、慌てて握ってしまった。みるみる掌が赤く腫れていく。熱を持ち痛みもある。分厚くなった手を犬が舐める。少しずつ姿が変わる