渋皮ヨロイ

喧々諤々という言葉をこれまで口にしたことがありません。いつか声に出して言ってみたいような、そんな日が訪れなければいいような、複雑な心持ちで日々過ごしております。いつからかビールよりワインが好きになりました。ここでは短いお話を書いていきます。

渋皮ヨロイ

喧々諤々という言葉をこれまで口にしたことがありません。いつか声に出して言ってみたいような、そんな日が訪れなければいいような、複雑な心持ちで日々過ごしております。いつからかビールよりワインが好きになりました。ここでは短いお話を書いていきます。

マガジン

  • ヨロイマイクロノベル

    思いつくままツイッター上であげていた140字ほどのお話(あるいはその断片のようなもの)をまとめています。

  • うそ日記

    日々書いてきたうその日記をまとめたものです

最近の記事

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「自選の10」

渋皮ヨロイという筆名は、溜まった掌編のいくつかをnoteに公開するために、新しくつけたものです。ここで作品をあげるようになって、早いもので6年ほど経ちました(つまり、渋皮ヨロイとして6年目ということになります)。 その間に作品も溜まってきたので、はじめて私のことを知っていただく方に、どれを読んでもらいたいかなあ、と考えながら、10作、自選(自薦)のものをまとめてみたいと思います。 作品の中身をほとんど解説することはないと思いますが、どのような背景で(何向けに)書いたのかと

    • ヨロイマイクロノベルその36

      351. 泣きながら息子が帰って来る。レバーが背中から生えている。ずっとゲームをさせずに育ててきたのに。絶望的な気持ちになる。レバーを握る。息子が泣き止む。上に傾ける。背が伸びる。効果音すら鳴る。息子はまた泣く。右に入れた途端、「真の保守というのは」などと聞こえ、手を離す。 352. おにく祭が開かれていると聞いて行ってみたら太った人たちが集まっていた。わたしもそうだから歓迎された。外は開放的でぎゅうぎゅう詰めでも息苦しくない。ただ暑い。ビールとかサイダーが回って来る。お肉

      • 「愛のパチュポッポオルタナティヴ」

        「愛のパチュポッポ」  裸のまま椅子の背もたれに上半身を縛りつけられていた。両脚をできる限り広げた状態で顔を上げる。  頬を上気させて恋人は鉈を握り締める。こんなもの一体どこにあったんだろう。記憶もあやふやだけれど、見た目からしてとにかく重そうだ。刃の幅は広く、表面は濁っていた。光沢すらない。  この凶悪な刃物が目標を外さずに正しく振られるかどうか、不安でならなかった。 「さようなら、パチュポッポ」  恋人は平然とした様子で俺の性器に別れを告げた。    はじめは別の名前が

        • 「音楽」

           CDはよく燃える。かすかに音を立てて。  炎は内側から放射線状に広がる。円盤の形がゆっくりと失われていく。  娘とそれを眺める。燃える音を一緒に聴く。ちちちちち。ハイハットみたいに規則正しく鳴る。うすピンクの耳が震える。こんなのはよくない、と妻が言う。  オーディオ機器はなくなった。それでもCDは残していた。ケースだけ捨てて専用のラックにしまった。それがいくつも積み上げられる。灰色の一画に妻が鬱陶しげな視線を向ける。 「そういうコレクションって、普通、レコードじゃないの?

        • 固定された記事

        「自選の10」

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        • ヨロイマイクロノベル
          37本
        • うそ日記
          2本

        記事

          うそ日記 2024年10月

          10月1日 黒いカレー、白いカレーと食べたあと、今度は違う色のカレーにしよう、と言って緑色の野菜を中心に煮る。それはもうカレーではなかった。ただ、できあがりは言うほど緑ではなかった。しょうゆの味がした。次は何色のカレー(煮物)がいいかな、と言って、ごちそうさまをした。 10月2日 洗濯物を取り込もうと窓を開けたら怖いくらいに蚊がぞろぞろ入って来て、まだ夏じゃないの、と思う。すでに蚊取り関連のものはしまってあったのだけれど、慌てて薬局へ。新たに30日用と120日用をそれぞれセ

          うそ日記 2024年10月

          ヨロイマイクロノベルその35

          341. コーヒーフロートのアイスが溶けない。ストローでコーヒーだけ飲む。水になった氷も吸い上げる。半球の塊が沈んでいく。フロート部分が底に嵌る。稜線は尚も形を崩さない。ミントの葉が所在なさげに白い表面を滑り、グラスの内側に貼りつく。ドアベルが鳴り、秋の風が吹き込んでくる。 342. 行列ができている。最後尾の人に、何があるんですか、と尋ねる。まともな返事はない。とりあえず少し離れた位置をキープして前に行く。突然、大きな門みたいなものが現れる。「この先から秋なんで」。誰かの

          ヨロイマイクロノベルその35

          「なめると甘い」

           こんばんは、ジョーイ・ラモーンです。あのですね、僕、今日、みんなとおしゃべりしたいな、って思ってます、うん、思念だよね、思念。これってすっごくパンクじゃない?   でさあ、何がパンクか、って言ったら、wikiを勝手に変えちゃうことだと僕は思うな。でも、その変え方が大切だよね、うん、わかる。ねえ、wikiって誰でも変えられるんだよね、その開かれてる感じ、すごくいいじゃない? あ、寄付とか求められるんだ。ふうん、パンクじゃん。  ごめん、一旦、革ジャン脱ぐね。  あー、CGBG

          「なめると甘い」

          うそ日記 2024年9月

          9月1日 揚げ玉を求めてひたすらスーパーをはしごする。どこに行っても見当たらない。力尽きてうどん屋に入る。注文したのは冷やしきつねうどん(揚げ玉無し)。食べ終えてもまだ空腹だ。家までが遠い。途中で空からぱらぱら降ってくる。一瞬、揚げ玉かな? と思って自らの空想を恥じた。 9月2日 月頭なのに誕生日おめでとうメールが鬼のように届き、受信箱がぱんぱんになる。全部確認したわけではないけれど、半分以上はショップからだ。知らないところからも真顔で送られてくる。墓石屋さんからも届く。特

          うそ日記 2024年9月

          「届いたらびっくり、ゴリラでした」

          桃田  あれ、すみません、なんか、ちいさくてかわいい、って聞いてたんですけど、これ、ゴリラじゃないですかね。違います? なんか、ウホ、とか言ってますけど、大丈夫ですかね、全然、こっちの勘違いだったらいいんですけど、なんか、暴れ回ってます、とりあえず、今、祖母とにらみ合ってます、あ、逃げました、祖母が。  ねえ、胸とかばんばん叩いてるんですけど、これって、ドラミングっていうんじゃないですか? こういうのがかわいいんですかね、なんか、ちいさくてかわいい、って聞いてたから、もっと

          「届いたらびっくり、ゴリラでした」

          ヨロイマイクロノベルその34

          331. 80歳になっても母は「かたたたきけん(えいきゅう)」を使用する。通知が届くと十分かけて原付で実家に戻る。すでに母はうつらうつらしている。わが家の近況を報告しつつ首周りを揉み、右、左、とんとんと叩く。やがて母は完全な眠りに落ち、私はバイクで来たことを忘れて歩いて帰る。 332. 暑さで自動販売機もおかしくなった。当たりつきでもないのに音楽が鳴る。ボタンが光る。押すとまた当たる。違うメロディーが流れる。少し長い。怖くなってきてホットのおしるこを押す。それも当たり、もう

          ヨロイマイクロノベルその34

          「青を産む」

           僕はトイレで地球を産んだ。二十九回目の誕生日だった。  いきむことなく、それはちゅるんと出てきた。はう。思わず声が漏れる。経験したことがない感触に便器内の様子を確認する。  青い球体がぷかぷか浮いていた。グレープフルーツ大で表面は艶やかだ。映像や写真でよく見かける、けれど実際にはこの目で全体像を捉えたことのない、地球そのものの外観をしていた。  少しも汚く見えないし、興奮もしていたから、手ですくうことに抵抗はなかった。ずっしりと重みを感じる。指の間から水滴が垂れる。それでも

          「青を産む」

          海2編

          「海になる」  痛みはなかった。おへその辺りに小さな水たまりができた。皮膚を青い水面が覆う。いくら拭き取っても消えない。ずっと立っていても垂れ落ちない。鏡に映すと知らない島の地図みたいだった。  それは少しずつ広がっていく。お腹の表面も水になる。指を突っ込むとくすぐったい。同時に冷ややかさを感じた。手の匂いを嗅ぐ。海の香りがした。小さく波の音が聞こえる。   「海、俺は好きだよ、カニもいるし」  離れて暮らす恋人から返事が届く。会いに来てもらう約束を取り付ける。胸の奥が少し

          ヨロイマイクロノベルその33

          321. あるもの出せよ。路地裏に連れてきたブルボンを脅す。何も持ってない、と涙を浮かべる。まあ、みんなそう言う。ほら、ジャンプしてみろよ。おどおどしつつ高く飛ぶ。五度目で濁点が落ちた。あるじゃねえの。俺はにやつき濁点を拾う。それは生暖かい涙で濡れ、少しだけ甘い匂いがした。 322. 小雨降る中、停止した時計台の前に小指が落ちている。黒い男たちが集まってきた。小指の周りを囲んで立つ。「北だな」。「いや南東だろう」。思い思いの方角を口にする。雨粒が男たちの帽子のつばから垂れる

          ヨロイマイクロノベルその33

          「石褒め」(改)

           大事な顧客と飲んだあと、どうも気が重く、そのまま一人で別の店に入る。このまま帰りたくなかった。よく知らない町だったが、ぷらりと立ち寄れそうな飲み屋も多い。  今日の感触はあまりよくなかった。悪い予感がする。まあ、そういうときもある、とは思うが、やはりすっきりしない。何がどうこう、というより、なんだかずっと波長が合わなかった。俺の、いいっすね、すごいっすね、さすがっすね、に対して、先方の眉間の皺がどんどん深くなっていく。最後のほうは、もう鬼じゃん、と思うくらいだった。まあ、そ

          「石褒め」(改)

          「石褒め」

           大事な顧客と飲んだあと、どうも気が重く、そのまま一人で別の店に入る。このまま帰りたくなかった。よく知らない町だったが、ぷらりと立ち寄れそうな飲み屋も多い。  今日の感触はあまりよくなかった。悪い予感がする。まあ、そういうときもある、とは思うが、やはりすっきりしない。何がどうこう、というより、なんだかずっと波長が合わなかった。俺の、いいっすね、すごいっすね、さすがっすね、に対して、先方の眉間の皺が深くなる。最後のほうは、もう鬼じゃん、と思った。まあ、そういうときもある。  

          ヨロイマイクロノベルその32

          311. ミモザの花がこぼれるように咲き誇る。その下で小さな女が口を開けて立っていた。わたしは回り込み、女の背後から父が遺した古いカメラを構えた。黒い髪がさらりと縦に垂れる。強い春の風が吹くたび、女の頭上で黄色いふわふわとした花が揺れる。だがそれは一粒たりとも落ちてこない。 312. 遠くで鐘が鳴る。耳にしたことがない音色なのに鐘だとわかる。どこかで鳥が鳴く。聞いたことがない鳴き声なのに蒼い鳥だとわかる。知らない女がすすり泣く声が聞こえる。知らない女なのにどうして泣いている

          ヨロイマイクロノベルその32