オーバース(NIDTプロジェクト)についてもやもやすること
『オーバース株を60%超保有するエンターバースの法人登記情報を調べてみた(NIDT)』の流れで色々書き出していたらだいぶ長文になってきたので、残りの内容はこちらに持ってきました。
法人登記情報のあれこれは前記事までとして、本記事ではオーバースのプロジェクトのより本質的な部分に対する、私の個人的な違和感を書きたいと思います。
IEO参加当初はワクワク感とノリが大きくここまで深掘りはできていなかったのですが、その後事業展開を見ていく中で「なんか素直にワクワクできないんだよなあ」というもやもやを蓄積しながら眺めている自分がいて、どこかのタイミングでこのもやもやの原因を深掘りして言語化したいと考えていたのです。
うるさいやつだなあとお思いでしょうが、一応これは期待の裏返しでもあるので(本気で失望して飽きていたらここまでの労力を掛けて書こうとは思いません)興味のある方は読んでいただけると嬉しいです。
ビジョンが感じられない
私がキーワードとして掲げたいのはずばり『ビジョン』です。
それはどういうことなのか?をちまちま書いていきますが、まずは以前聞いて興味深かったこちらのトークセッションを紹介します。
IEOとWeb3 (的) プロジェクト
2023年5月に開催されたカンファレンス『B Dash Camp 2023 Spring』での1セッションのようです。
国内のIEOの動きや中心にいる人たちが何を考えているのかという点で、とてもおもしろかったです。
特に、Web3やDAOのプロジェクトの場合は運営者(プロジェクト側)の信頼性や熱意が大事(29:46辺り〜)、Web3のコミュニティはファンと投資家が混じっている・融合されている(31:50辺り〜)という話は、NIDTを念頭に置いたときのピックアップポイントかなと思いました。
オーバースはDAOではなく従来的な株式会社ですし、NIDTはガバナンストークンではなく主眼はユーティリティトークンです。IDOL3.0プロジェクトに関しても、言ってしまえばファンサービス(ファン活動)の領域だけを限定的にトークンで革新していくような向きが強いです。
ただ、トークンによるエコシステムやコミュニティというものを掲げている以上、運営側の透明性や顔や熱量が見えること、あるいはアイドル・ファン・運営がそれぞれの言葉で語り合っていく未来というのは、もっと意識されてもいいんじゃないかと私は感じています。
従来の芸能事務所・放送局・広告代理店サイドからの直接の出資関係はないと言っても、結局運営側の動きや運営メンバーの素性がブラックボックスだったり旧態依然としたままでは、ただスタートの仕方が違うだけで今までの『アイドル+運営』と『ファンたち』という大きな2項構造が思考停止したまま持ち込まれているような感じがして、何もおもしろくないじゃんと思ってしまいます。
そこに ‘ビジョン’ はあるんか?
オーバースのプロジェクトに関しては、準備からIEO実施までのスピード感、事業開始前タイミングでの国内IEO初事例、複数の取引所での同時IEOの初事例など、冷静に考えるとすごいなと思うところはたくさんあります。
オーディションの実施や機能リリース・イベント開催・メディア露出・楽曲リリースなど、安定感をもってスケジュール通りに出してきていることも素晴らしいです。
ただ一方で、「着々とちゃんと進めているけど逆に言うとそれだけ」という(悪い意味での)大企業的スタンスも少なからず感じるのです。
IEOの際のホワイトペーパーにはこう書かれています。
活動領域を拡大します、世界に向けて発信します。
→『活動領域を拡大してワールドワイドに発信することによって、最終的にどんな世界を実現したいの?』従来のようなステークホルダーの色濃い影響を受けずに活動できるメリットがあります。
→『じゃあそのメリットを活かしてどういうアイドルやファン体験を生み出していきたいの?』
私はそこに対するワクワクする本質的な答えがほしい。熱いビジョンがほしいのです。
残念ながら私には今のところ、オーバース側から上記の点に関する明確なビジョンが伝わってきたという手応えはありません。
キングレコードに業務委託しました、
秋元康さんに総合プロデュースをお願いしました、
TAKAHIROさんに振り付けをお願いしました、
それ自体はいいんですよ別に。
ただ、その意思決定の過程でビジョン(実現したい世界・価値)は念頭に置かれていますか?と問いたいのです。
なぜその人(会社)に依頼したのか、どのようなコンセプトを伝えて依頼したのか。仮にそこが曖昧だったり「実績やネームバリューがあるから」という安直な理由なのだとすれば、そのビジョンなき意思決定は ‘思考停止’ であり、ただの前例踏襲です。従来から資金提供者と発注元が変わっただけ、とも言えます。
もちろん私もがっつりすべての情報を追えているわけではないですし、オーディションやWHITE SCORPIONのイベントもそこまで参加できてはいません(12/2,3の「眼差しSniper」初披露イベント@池袋サンシャインは観にいきました)。キャッチアップできてないだけやん、という部分もあるかとは思います。
ただ、(ポジショントーク的にはなってしまいますが)IEOに参加して少なくともオーバースの事業をそれなりに認知している私にすら価値やビジョンが伝わっていなければ、その他大勢のマスに対して伝えることなど到底できませんよということだけは言っておきたいのです。
ビジョンが大事である理由
なぜビジョンが大事かというと、私がビジョン共感型人間で本質に迫る議論ができる人が好きというのもありますが、他人の言葉を借りて説明するとすれば以下のツイートが1つ参考になるかと思います。
テクノロジーが急速に発達し、コンテンツが溢れ、より細分化され、不確実性が上がり、変化のスピードが加速する現代において、本質的なビジョンを語れない/示せないプロジェクトに継続的に人やお金が集まり続けることはないと考えます。
より伝わりやすいように、別角度で情報を分解してみます。
以前読んだこのnote記事とイメージの作り方がちょっと似ているな(ボトムアップとトップダウンで矢印は違いますが)と後から気づいたのですが、私がNIDTに関して言いたいのは【ビジョン・戦略・機能】です。
ビジョン:最終的に実現したい世界/世に届けたい本質的な価値は何か
戦略:ビジョンを実現する上で有効な戦略/必要な戦略は何か
機能:その戦略において求められる機能は何か/重要な機能は何か
この1〜3の順で考えたときに、オーバースの事業はやはり決定的に1のビジョンが抜け落ちている(あるいは弱すぎる)ような気がするのです。
そこで、ホワイトペーパーや各種プレス、取材記事等から読み取れる内容をざっくりと分類してみました(実現されていないものも含む)。
※ビジョンと称されている内容であっても私の独断で振り分けなおしています。
このように、どちらかというとビジョンかな…? という内容もいくつかあるにはあるのですが、外形的というか表面的というか、正直「やりたいことリスト」に近いんですよね。
育てたアイドルグループで世界を獲りたいのか/日本国内のアイドル業界をより良く変革したいのか/アイドルを推すことの魅力を最大化するような唯一無二・前代未聞のエコシステムを築き上げたいのか?
また、それらによって実現される価値は何か?
ベクトルがどこを向いているのかが不明瞭で、最終ゴールや理想像が具体的に見えてこないんです。
もちろん打ち出している1つ1つの機能や戦略には興味深いものも多く、それもあって私も関心を持ちました。
一方で現状においては、おもしろいものを並べただけとも言え、それらが最終的にどこに収束していくのか(どんなビジョンに向かっているのか)という核というか束ねるものが欠落している感覚を覚えます。『新しいテクノロジーをフル活用すれば多様な人々とのアクセスポイントが増えて、これまで以上に良さが伝わるんじゃないか』止まりのような印象があるんです。
残念ながら、新しいものをただ「新しい取り組みです!」と提示したところで、人は振り向きません。その先にどんな世界があり、どんな価値が生まれるのかを熱や本質的な言葉を介して伝える必要があります。
最後にちょろっと触れおきたいのが、オーバースのミッション・ビジョン・バリュー。この記事を書くあたって改めて見てみましたが、やっぱり全体的にボワッと漠然としているし、MVVの整理がついていないし、本質を突いてる感が薄い気がしました。
手前味噌で恐縮ですが、私の過去記事の末尾に参考になるサイトを貼っているので、ぜひもう少し整理と深掘りをお願いしたいです。
※ただ、ここでのビジョンはMVVの形式に基づいた整理のため、私が前述したビジョンの概念とは完全にイコールにはならないと認識しています。
Openness、そして共に成長していく世界
何かの関連記事で読んだように、やはり法令遵守やエンターテイメント業界特有の告知ルール等で難しい部分はあるかもしれませんが、今のオーバースにはオープンな姿勢が足りないと思います。
プロジェクトを応援している立場としては、つまづいていることも悩んでいることも、プロジェクトで得た気づきも今後やりたいことも、もっとオープンにシェアしてほしいです。
新しいチャレンジなんだから最初から完璧じゃなくていいんです。アイドルも運営もファンも、プロジェクトに巻き込まれたみんなが失敗しながらもそれぞれに成長していく世界がおもしろい。だからきれいな面・順調な面だけじゃなく、時には迷いや失敗も共有してほしい。
そういう人間的な揺れ動きや「人柄」みたいなところって、わりと現代の人は ‘魅力’ として捉えてくれると思いますけどね。
秋元氏のネームバリューと実力はどこまで通用するのか
Opennessの切り口で捉えるとき、無視できないのが総合プロデューサーである秋元康氏の存在です。
アイドルに詳しくない私でもさすがに、AKB48や坂道グループや秋元さんの存在は知っています。オーバースが彼から総合プロデューサー就任の承諾を得た当初は、すごい大物を引っ張ってきたなと思いました。
ただ心配な(不満に感じている)ことがあります。みんなに、秋元さんに頼めば間違いないと安堵している雰囲気があることです。
でも本当にそうですか? オーバースはなぜ秋元さんに依頼し、彼はどんなアイドル像をプロデュースしようとしていて、彼にそれを実現できる見込みはありますか? その辺りは誰も触れませんよね。
私はアイドル業界に詳しくないので門外漢ではありますが、『カリスマを ‘カリスマだよね’ で終わらせずにちゃんと言語化して一緒に未来を目指す姿勢』がもっと必要なのではないかと感じています。そして話は戻りますが、彼がこのプロジェクトに不可欠な存在であるか否かを判断するには、まずオーバースのビジョンが明確である必要があるんです。
(私が記事などを見落としていたらあれなのですが)秋元さんって表に出てこないですよね、総合プロデューサーなのに。
彼のプロデューサーとしてのスタイルや美学があるのかもしれませんし、これまでのグループプロデュースもそういったスタイルであったと、素人の私もなんとなく認識しています。それに、アイドルプロデュース自体が元々こういうものなのかもしれません。主役のアイドル以外は前に出るべきではない、的な。
ただ、総合プロデューサーが表で何も語らない、プロジェクトオーナー(オーバース)も明確なビジョンを発信していない状態でプロジェクトが成功するとは思えませんし、何より応援する気持ちにはなれません。
秋元さんの総合プロデューサー就任が、名義貸しならぬただのネームバリュー貸しにならないことを祈ります。
マーケット分析とロードマップの必要性
ビットコインなどの草の根で高度に分散化されたものとは違い、アイドルプロジェクトの場合、やはりある程度ファンやユーザーを塊(集団)で捉えていかざるを得ないと思います。
私の素人目ですら、日本国内だけでも数えきれないほどのアイドルたちが活動し凌ぎを削っていることが分かります。そしてホワイトペーパーにもある通り、日本は人口減少がすでに着実に進行しており市場規模は縮小していく一方です。
飽和状態 + 縮小傾向の中で、国内にどれだけの市場余地が残されているのでしょうか、あるいは新しい層の潜在需要を取り込むなどの戦略はあるのでしょうか。
国内でまずは地に足をつけてやっていくとオーバースは言っていますが、国内にどれくらいの市場余地があり、どれくらいまでユーザー(ファンコミュニティ)規模を拡大できる見込みがあり、それによって何が培われ、その培われたものは本当に海外進出に活かせますか? また「海外」とは具体的にどこを指しているのでしょうか。アジア圏? 北米圏? ヨーロッパ圏? どこをターゲットとして考えているのでしょう。
もし、各地域地域で「推し活」の概念やニーズが異なるのであれば(というかピタリと一致するはずがないと思いますが)、国内と国外で攻め方を大きく変えないといけないことは想像に難くありません。
であれば、IEOをやった手前国内を無視するわけにはいかないとはいえ、「とりあえず国内で地盤固め」という発想は悪手かもしれません。もちろんこれも、ビジョン(最終ゴール)が何かによりますが。
現経営陣のアウトプットに関して
はっきり言いますがオーバース代表の佐藤氏に関しては、これまで何度かAMA(Ask Me Anythingの略でカジュアルにプロジェクト説明・質疑応答を行う配信などを指す)や前出のトークセッション等を拝聴しましたが、トークンエコシステムやWeb3的なコミュニティ等に対する理解や素養はほとんど感じられませんでした。
佐藤氏はSBI証券の専務なんかも歴任されていますし(私もSBI証券お世話になっております…)経験値はすごい方なんだろうなと思います。ただ、すでに大きな事業が何本も走っている大企業の経営陣と、事業を始めたばかりのスタートアップ(この呼び方が適切かは分かりませんが)の経営陣に求められる能力やコミュニケーションは異なります。加えて、トークンを活用したWeb3的事業の発信の仕方は、従来の株式会社の事業とは異なる部分が少なからずあると思います。
いいんです、別に代表が全方位的に能力値が高くてコミュニケーションが上手くなくても。でもその代わり、「この領域はこの人にがっつり取り組んでもらってますんで」という人がいれば表に出してほしい。その人にちゃんとビジョンを語らせてほしい。
そして、佐藤氏はご自身に推し活を熱心にしていた経験があると仰っていました。であれば、その部分をもっと深掘りして語ってほしいのです。
推し活の本質は何か、アイドルを推すことは私たちの何に響き/何を変え/どう生きる力となっていくのか。ご自身は本質的にどういう価値を感じているのか、このプロジェクトを通してステークホルダーにどんな価値を届けたいのか/どんな景色を見せたいのか/どんな世界を実現したいのか。
もっともっと本質に迫る言葉が必要です。
もし『我々は完全にコンテンツを提供する側であり、提供される側(ファンやNIDT保有者)は提供されたものを見守ってくれればいい』という大手然とした一方通行の事業展開を想定しているのであれば、それは非常に残念です。そうではなく、熱や悩みや喜びや迷いや未来への希望を、相互に共有し相互にわいわいできるような、そんな取り組み姿勢を期待しています。
そのためにも、メディアの取材を散発的に受けるだけではなくて、運営メンバーによる継続的なブログ運営や対談企画や、そういった挑戦している運営側のストーリーがほしい気がします。
できれば文字よりも音声・動画の方が、熱量や情報の ‘生’ 感が伝わってきていいかもしれません。
ユーティリティ(ユーザビリティ)を考えたときの今後
最後に、オーバースが切り拓く “推し活の新境地” と密接に関連する、推し活のユーティリティについて考えてみます。
テクノロジーを積極的に取り入れて「推し活をアップデートする」というのはIEO当初からオーバースが掲げていましたし、プロジェクトに関わる多くの人たちから期待されている部分でもあると思います。特に、Nippon Idol Tokenという暗号資産およびブロックチェーン技術をどう取り入れるのかは、重要なポイントです。
言葉のイメージがずれているとイメージを共有しづらいので、参考までにユーティリティとユーザビリティの意味も載せておきます。ユーティリティがわりと大枠での有用性を指すのに対し、ユーザビリティはより局所的・具体的なサービスの使い勝手等を指すと認識しています。
※国内カタカナ業界用語としての独自ニュアンスが別にある可能性もありますが、長くなりそうなのでここでは省略。
現行のクーポンコード方式への課題感
結論から言うと、ウォレット一体型の推し活アプリを開発してファンに使ってもらうのが最適解ではないだろうか、と現時点で私は考えています。
この思考の出発点としてまず共有しておきたいのが、クーポンコード方式まだ続けるの?という問いです。
オーバースはIEOから今に至るまで、限定NFTの付与・オーディションのファン投票・限定イベントの申し込み等でIEO申込者を区別する手法として「判定用クーポンコード」を用いています。手順イメージは以下をご覧ください。
例:NFT付与の際のDMM Bitcoinのお知らせ
オーバースが定める判定条件に応じて、取引所が対象者にクーポンコードを発行する(NIDTの売買や保管は取引所が所管している)
取引所が「1」の対象者に宛てて、クーポンコードをメール通知する
【推測です】「1」で発行したクーポンコードと判定情報(IEOの申込口数など)の対照リストを、取引所がオーバースに提供する
「2」でクーポンコードを受け取った対象者が各自でNIDTのサイトにログインし、画面上でコードを入力・登録する
【推測です】「3」で提供されたリストと「4」で登録されたクーポンコードを元に、対象者が特典付与条件をクリアしているかをオーバースが判定し、実際の特典付与を行う
いかがでしょう。率直に申し上げますが、この方式はファン(ユーザー)/取引所/オーバースの三者のいずれにとっても『クソ面倒くさい』方法であると言わざるを得ません。
ファンは受信メールを確認し、届いていなければ取引所に問い合わせ、ファンサイトにログインし、パスワードを忘れたら再設定操作をし、クーポンコードを登録し、登録だけで特典をもらえると思ったら「これただの判定用かい!」と憤り、最終的に特典付与を確認して初めて安堵しここまでの自分の苦労を噛み締める
取引所は毎回オーバースから依頼連絡を受け、公式サイトにお知らせを掲載し、IEO申込者やNIDT保有者をピックアップし、発行したクーポンコードをメールで連絡し、メールが届かないという問い合わせに逐一対応し、クーポンコードと判定情報をオーバースに渡す
オーバースは特典プログラムを企画し、判定条件などの情報とともに取引所にクーポンコード発行依頼を行い、取引所から受け取ったリストを元にサイト上に登録されたクーポンコードを識別・特定し、特典付与の処理を行う
この過程のどこかで誰かが1つでもミスをすれば、ファンが心待ちにしていた特典付与が行われないことになります。イケてないにもほどがあるシステムです。
もしかすると様々な規制法令を鑑みてのやむを得ない仕組みなのかもしれませんが、正直ブロックチェーン的エコシステムからは掛け離れたやり方と言わざるを得ません。
また、IEOに関わったDMM Bitcoin・coinbook以外の取引所へのリスティング(上場)を考えたとき、流動性もなく(つまり取引手数料収入が見込めない)将来性もまだ不透明な暗号資産を取り扱うだけでも勇気がいるのに、それに加えてクーポンコードの発行作業も押し付けられるなんて、デメリットかつコストでしかないです。
私がもし取引所の経営者ならNOと言いますし、この煩雑さを解消しない限り新たなリスティング交渉は無理だと思います。
ウォレット一体型の推し活アプリしかないのでは?
もちろん、クーポンコード方式の限界についてはきっとオーバース側でも当初から想定しており、あくまでもシステムが整うまでの暫定手法として取り入れているだけだと、私は想像しています。なので、そのうちもっと良い方法に移行するだろうと。
その1つの方法として、クリプト・ネイティブ? な人であれば「MetaMask繋げさせろや」となるかと思うのですが、私はそれはあまり良い手ではないと考えています。
※ファンクラブマイページのウォレットの秘密鍵を取得してMetaMaskにインポートする方法はすでに提供されているようです。
なぜなら、MetaMaskは使い方が難しいから。ユーザービリティが良いとは決して言えないからです。
私はIT業界でto B, to Cのカスタマーサポートを何年もしていた経験があり、何種類もプロダクトを触ってきましたが、そんな私ですらMetaMaskは当初そこそこ苦戦しました。ブロックチェーンに関する基礎知識 + 一定程度のITリテラシーが求められるので、ぶっちゃけ今のMetaMaskは万人向きではないです。
トラストレス・パーミッションレスな本来的なクリプト指向からするとセルフカストディ・ウォレットは重要な意味を持ちますが、推し活を盛り上げるというオーバースのプロジェクトにとってはそこまで優先されるポイントではないし、「MetaMask使ってね、ヘルプサイトもあるよ」と言ってアイドルファン層に広く受け入れてもらうことは、まずもって無理ゲーと言わざるを得ません。
となると残りは独自アプリではないか、という考えに至ったわけです。
最近読んだこちらの記事が少し興味深かったのですが、WHITE SCORPIONのシステム全般の開発はどうやら東京通信グループが担っているようです。
古屋氏はこのようにコメントしています。東京通信さんに関して詳しくは存じ上げないのですが、すでに推し活をテーマにしたアプリ開発の経験もあるとのことなので、アプリ領域に本格的に手を付けるんじゃないかなという期待はより高まりました。
※握手会参加用アプリはすでにリリースされています。
取引所で買ったNIDTをアプリ内に送金・保持・ステーキング等をできるようにすれば、わざわざ取引所に依頼する手間なく、直接保有量や保有期間等の判定も可能です。特典のNFT受け取りもコミュニティ機能もワンストップに組み込めば、とてもおもしろいアプリになるのではないかなと想像しています。
“ビジョンがなくて「やりたいことリスト」になっている” と述べた件とも繋がるのですが、今は機能が全体的にぶつ切れなんですよね。単発でポン!ポン!と出てきているイメージで、何か1つのビジョンに向かっている感触や、エコシステム形成に向かっている感じがしない。
もちろんすべてを1つのアプリ内で完結させる必要はありませんが、新しい推し活を繰り広げる上でアプリは重要なハブになってくれる予感がしています。
一つだけ懸念点を挙げておくとすれば、各種ライセンスとの兼ね合いですかね。ウォレットを兼ねたアプリをオーバース自身が作るにあたって、暗号資産交換業等が必要となる恐れはあるのか、あるいはIEOのトークン発行体に対する制限規定に違反しないかなど。
でも、理想の世界(ビジョン)の実現に向けて避けられないのであればライセンスは大変だろうが何だろうが最速で取るしかないし、関係法令が追いついていないのなら「ここに課題があります!変えたい!」とアピールしないとダメだよねと。Astarの創太さんではないですが、ロビー活動を含めあらゆる手を尽くすくらいの熱量はほしい気がします。
あと、なかなか良いアイデアがないのなら、アイデアソンでもハッカソンでもどんどんやればいいと思います。すべてを自分たちのみで考えつく必要は一切ないのですから。
そうそう、特典NFT付与等のユースケースで連想したのがAvacusというWeb3コミュニティアプリです。ファンとアドレスとコミュニティと推し活実績と特典付与等が良い感じに融合した世界を創出するには、とても参考になるプロダクトなのではないでしょうか。
アイドル人気に先行するくらいの勢いでユーティリティを固めよ
さて、ここまで「やり方」について語ってきたわけですが、「やる順序」についても触れたいと思います。
オーバース代表の佐藤氏は以下のような方針を示しています。
どんなに推し活体験のユーティリティが揃っていても、肝心のアイドルに人気がなければ使ってもらえないだろう、という考えは分かります。アイドルというコンテンツの性質上、アイドル自身がパフォーマンスや発信ですべて体現する・切り開いていくのが理想像かもしれません。
ただ、ぶっちゃけそれはかなり高難度なことだと思います。このアイドルが群雄割拠する世の中で、実力と魅力と従来的なアプローチ発想だけでファンを増やしていくのは容易なことではないでしょう。
あと、わざわざNIDTというトークンを発行してエコシステムを創り出すことを掲げているのに、そのユーティリティ性がアイドルプロデュースよりも後回しにされるのは理解に苦しみます。
それよりも、従来的なファン(ユーザー)の増やし方とは別に、いくつかのアプローチ手法(その1つがWeb3に興味のある層の取り込みでしょう)を組み合わせ、相乗効果として最終的にプロジェクト全体が盛り上がっていく/彼女らのパフォーマンスがより輝きを放つような状態に持っていくことが必要ではないでしょうか。
最初からアイドルに興味を持ってくれた従来的なユーザーに関しても、アイドルの魅力だけではなく、NIDT等を絡めた抜群のユーティリティ性でがっちりHOLDするくらいの意識が必要だと思います。
トークンを活用したユーティリティ性はそれくらい大事で、せっかく資金があるんだから大事なコアな部分にはがっつり資金投入して、スピード感を持って強みを打ち出していく姿勢であってほしいです。少なくとも、メールで届いたクーポンコードをマイページに登録し直すみたいな状況は、一刻も早く脱しないといけません。
そうしないと、NIDTを軸としたエコシステム形成に力を入れないと、(非常に辛辣な表現になることを承知の上であえて書きますが)「他人の金でアイドルグループを立ち上げただけ」のプロジェクトになるんですよ。
日プ等の他のプロジェクトとの差別化という意味においても、自らの強みを研究し磨くチャレンジをしていくことは重要です。
2024年に入り、各種企業・プロジェクトの取り組みの本格化/暗号資産市場の盛り上がり/規制面でのさらなる進展/政治的パワーバランスの変化/TradFi(伝統的金融)からの資金流入/Web3界隈における各国・各都市の台頭などなど、世界が大きく動くことが見込まれている中、ぼさっとしていたらあっという間に他のプロジェクトに先を越されて、先陣を切ったアドバンテージなどすぐに消えてなくなります。
あれもこれも100%はもちろん無理ですが、何が大事かを見極めてスピード感を持って仕掛けていかないと明るい未来はないということは、間違い無く言えると思います。
先行プロジェクトの事例は気になる
私自身そこまで情報収集したり参加できているわけではないので、「気になるなあ」と書きっぱなしで終わるのをご容赦ください。
推し活エコシステムを考える上で、例えばなんですが、プロスポーツチームのファントークンプラットフォームを仕掛けた『Chiliz』や、トークン発行型クラウドファンディングプラットフォームを仕掛けた『FiNANCiE』などが思い浮かびます。
どちらも私は使ったことがないので具体的に語れず申し訳ないのですが、ファンコミュニティの形成という意味では共通する部分も多く、すでに多数の失敗と成功を積み重ねて来られていると想像します。きっと貴重なヒントだらけです。
その辺り、オーバースのプロジェクト関係者で分析している方がいれば、なんか教えてほしいですねえ(他力本願)。R&Dという言葉がありますが、オーバースが ‘R’ つまりResearchにどれくらい力を入れているのかは、正直気になるところです。
あと直前の章の話と多少繋がるのですが、個人的な欲を言えば、オーディションの段階からユーティリティ性のあるアプリ等が展開されていてほしかったという思いがあります。
別に、アイドルだからデビュー後が本番だよねという価値観に囚われる必要はなくて、ファンコミュニティの強みの最大化を考えるのであれば、オーディション段階から仕掛けていけるものはもっとあったはずです。まあIEOで資金調達して事業スタートという段取りなので致し方ないと言えばそうなのですが、心残りな部分です。
余談:「上場」という表現について
本題はここまで。以降は、オーバースやNIDTとは直接関係のない話です。
暗号資産における「上場」という言葉の使い方について、やや違和感があるというお話。
まず株式の上場に関しては、それまで創業メンバーやVC(ベンチャーキャピタル)やエンジェル投資家など、限られた特定少数の間でのみ保有されていたものが、一気に拡張され「不特定多数」へとアクセスするイメージがあります。
特徴を挙げるとすれば、以下のようになるでしょうか。
関わる人間の範囲を一気に拡張するアクセスポイントができる
流動性が生まれる
マーケットが形成される
一方で、暗号資産に関して言うと、そもそもがワールドワイドにやり取りできる設計だし(規制上の話は別として)、取引所も東証やNYSEのような代表性というか唯一性はあまりなく、1つの国・地域にどんぐりの背比べのようにポコポコと取引所が複数あることは珍しくありません。
エアドロップ・ICO後の初リスティングやIDO・IEO等であればたしかに ‘上場’ 感はあるんだけども、正直初回以外のCEX・DEXでの取り扱い開始はカジュアルに「リスティング」と呼んだ方がしっくりくる気がします。毎回「上場」と呼ぶのは仰々しすぎる(もちろんリスティングに際して関係者は水面下でたくさんのステップをクリアすべく汗を流しているわけだけども)。
いや、英語のListingを日本語で上場と訳してるんだから同じことでしょと言われるかもしれませんが、なんか語感は大事にしたいんですよね。言葉狩りはいらないけど言葉練りは必要だよね派なので。
あと、(普遍的な話として)異なる言語同士は絶対にきれいに1対1で完全に同じ意味を持つことはないと考えているので、そういう観点においてもListingを ‘上場’ と表現するときと ‘リスティング’ と表現するときがあっても良いのでは?と思います。
'24/01/08 更新(本文全般)
'24/02/18 最終更新(一部文言修正、リンク追加など)
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