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【喰らう読書感想文】若い男/もうひとりの娘(アニー・エルノー)
*今回も大ネタバレで好きなところを好きなように書きます
・世の中には一生を費やしても決して読みきれない沢山の本がある。その中には、読んだ後に何かを感じ入る本もある。でも、そんな本に出会う確率って結構少ない気がしています。
・今回読書感想文を書く本は『若い男/もうひとりの娘』。2022年にノーベル文学賞を受賞している、フランスを代表する作家のアニー・エルノーの著作です。2024年5月に日本語翻訳されたものが出版されていたので読んでみました。
・『若い男』は40ページ程の短編で、54歳の女性作家(アニーエルノー本人のことです)と息子ほど歳の離れた大学生の恋愛を描いた作品でした。男女逆(男性が初老で女性が20歳前後とか)は良くあるのに私たちは世間的には異質なのねとデート中の周囲からの目線で感じつつも、若い彼の情熱と欲に溺れる女性。自身の過去をさらうような感覚に歳の差と経験値の差を感じつつ、この関係を終わらせるまでを書いています。クリエイトする人って激し目の恋しがち。人間にずっと興味があるからこそ物語が書けたりするのかしら。
・この本で私がうっ…と喰らってしまったのが後半に収録されている『もうひとりの娘』の方。『もうひとりの娘』も100ページ程なので集中したら1時間ほどで読めます。この作品も著者の身の回りにある出来事を書いている作品ですが、終始手紙形式になっています。誰から誰への手紙でしょうか?
・それは、自身(著者)から姉に対する手紙です(どっこいこちらもノンフィクション)。ですが、著者と姉の間には面識がありません。何故なら姉は自分が生まれる暫く前に流行り病によって6歳の若さで亡くなっているから。姉と自分の人生は1秒も重なっていない。
・両親はついぞ、姉について何も語ることはなくこの世を去りました。とはいえ、主人公が呑気に何も気づかずに成長していける訳もなく、母が近所のご婦人に死んでしまった娘がいたことを話している場面から自身に姉が‘いた‘ことを知るのです。
・ずっと一人っ子で両親の愛を一途に注がれていたものとばかり思っていた主人公は、そこでどうしても届かない両親の心の根底、大切な場所に姉という存在がいることを知るのです。こちらからは干渉できない両親の内側には流行り病(ジフテリア)で幼くして亡くなってしまった悲劇の娘がいる。ずっとそのままの姿で。良い子だった長女として。
・主人公はずっと姉だった人の影を気にするようになります。時にはこう考えることも。
「私がこの世に生まれたのは、あなたが死んで、私があなたの代わりになったからだった。」
なんかこの考え方凄すぎる。でもこの話の中では最もな考えです。両親が裕福ではないため、子どもを2人も育て上げることができる経済力はないだろう。ということは姉が居なくならなければ次(自分)は生まれてこなかっただろう。そんなこと考えたくなさすぎる。
・でも一読者としては本当かい!?とは思います。なんだか不気味な遠慮です。考えすぎな気がする。生まれたことに意味を見出すのって結構無駄。この両親の元でこの環境でこんな文化に影響を受けてこんな感じで育っていく、の中に、透明化された姉、が挟まる事で良くない方向に考えている気がする。
・でも、私が主人公の立場でも自分からは聞けない。この話の中では、両親は主人公の前では直接姉の話をすることは絶対にありませんでしたが、酔ったおばや知ったかぶりの従姉妹あたりからは何度も姉のことについてのお漏らしがあるから主人公は少しずつ知っていきます。そりゃそうか。
・この話のどこが私にブッ刺さったかと言いますと、家族ってこんな感じだよね、という温度感。絶対に自分から聞けないことがある。どんなに仲が良くても。家族って運命共同体かもしれないけど、心が一つになっている訳ではなく、起こったこと、知っていることをつぶさに共有する義務もない。
・姉がいたことを何で直接教えてくれないんだろうと思っても、怖くて聞けない。両親の意図が読みきれない中、突っ込んで大怪我したら終わりすぎる。聞く前には二度と戻れない。私のことを気遣って言わないのか?心の奥にしまい込んだ柔らかい部分に触れさせたくないのか?でも、聞けずに探り探りしている関係もあまり適切ではないでしょう。無知の知、とはよく言ったものですね。
・私も一度真夜中に落ち込んだ状態の母から聞いたものの、私から掘り返すことは一生無いだろうな、と思い当たる話が一つあります。実はあなたには姉がいたのよ、とかでは無いけど。誰と話す事でも無いので、思いだす頻度は少なくなっていたけど、この読書体験で完全に思い出しました。かつその時の自分の気持ちも思い出した。
え!?え・・・!?という驚きと、父からは聞くこと無いだろうし聞けないなあ・・・とその場で封印しようと素早く整理したこと。そんなこと教えてくれなくても、という気持ち。でも知らないまま死ぬのもなあという気持ち。ちなみに、父母弟(私には弟がおります)についての何かでは無いです。近しい親族の事。それでもびっくり祭りでしたがね!
・主人公が最後の方で書いている文章で私が好きな部分を引用してこの本についての感想は終わりにします。
「私はここで、ひとつの影を追いかけることしかしていない。自分の内側よりも、もしかすると私があなたを探すべきは自分の外の世界かもしれない、」
・外の世界、読書や映画観賞で知るの面白いですね。積読の量がそろそろ笑えない量になってきたのに、先週また本買っちゃった。ジョン・ウィリアムズの『STONER』。だって、ジュンク堂池袋本店限定の原宿さん(オモコロというWebメディアの編集長)の帯がついた本欲しかったから・・・。あんなに語っていたら読むしか無いわね。池袋遠かった。
・読んだら感想書きます!いつになるかな・・・。