連載小説★M&A春風 第59話 社内事情
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証券会社からの提案を受けたのが4月8日木曜日。
その日以降、真奈美はパワーロボティクス事業本部やIWBC証券へと走り回った。
(とにかく、意向表明書の大枠だけでも来週初めまでに作らなきゃ……)
真奈美がここまで急ぐ理由は、白馬機工の経営会議の日程にあった。
経営会議は原則毎月15日に開催される。
本来、価格無し意向表明であれば、鈴木部長の決裁で出すことは可能。
ただし『重要案件は執行役への確認が必要』となっている。
今回は、元財閥系の上場企業への買収提案だ。
しかもボトムアップ案件なので、まだ執行役員たちは知り得ていない。
鈴木部長が自身のみで決裁を出すとは考えにくい。
そうなると、15日の経営会議の確認議題に入れる必要がある。
「最近、一緒に飲みに行ってくれないわね」
「そう思うなら、手伝ってよね」
「いやいや、法的拘束力のない意向表明はそちらにお任せするわ」
「……好き嫌いの多いリーガルね」
「私、イケメンしか相手にしないタイプなの」
「もう……」
こういうモードのときの小巻は頼りにならない。
土曜日も費やすことで、やっと意向表明書のドラフトが完成。
日曜日はなんとか休みは取れたが、逆に彼氏は仕事で予定が会わず。
(まあ、彼は弁護士だから忙しいのは仕方はないわね。お互い様なところもあるし……ジョギングでもしようかな)
元バスケ部の真奈美。体を動かすことは好きな方だ。
公園に行き、ジョギングしながら次週の戦略を整理する真奈美であった。