種と始まり
雨を飲み干した大地が歌いだすように
新しい草が伸びて
僕らを青く眩しい次の季節へと運ぶ物語が
幕を開ける。
僕らは色んなものを
手に入れてきたと思っていたけれど
本当は色んなものを手放し失くして
忘れてきたんじゃないのかな。
もう二度と手に入れられないかもしれない
とても大切なものを僕らは見失い
細かく刻まれたみたいに立ちすくむ。
*
街の灯りがともると
夜の間に僕らは新しい夢を育て
そいつを忘れないようにと
そっと目を閉じ歩きだす、
目覚めても消えない夢の道を。
もう二度と手に入れられない
とても大事なものを僕らは
退屈片手に俯いている間に
すっかり忘れてしまった。
*
僕らが失くした空や
畑や種や、収穫の喜びなど
くだらないゴシップや雑事さえ棚上げにすれば
いつだって取り戻せるんだ。
朝の陽を浴びて目を覚ましたように
大地が呼吸をして
白い幕が上がる、
僕らを次の物語に連れていく朝だ。
白い幕が上がる、
僕らを次の物語に連れていく
朝だ。
(2017年8月6日〜9月9日)