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PASSAGEのシオランたち PASSAGE日記 #7

エマニエル・シオランというルーマニアの哲学者がいる。

デカルト、カント、ハイデガー、デリダ、ドゥルーズに比べれば、マイナーといっていい哲学者だろう。
19歳の時にはじめて手にしたのは『悪しき造物主』。その後シオランにハマって、結局卒論もシオランで書くことになった。
これを若気の至りと呼ぶのか、私の人生をかたどった出来事と呼ぶべきか、私は今でもわからない。

とうの昔に記憶の彼方に葬り去った筈なのに、PASSAGEではシオラン好きたちが春の訪れとともにニョキニョキ発生しており、どんな反応をすればよいかわからない私はしどろもどろしている。

最初はPASSAGE bisで、オーナーのユイさんとスタッフのK君とコーヒーを飲みながら話しているうちに、どうやら日本人の若手研究者が書いたシオラン本があるらしいという情報を入手。そんな本が発刊されていたことすら知らなかった。知らなかった自分を恥じて、早速その場で買いました。(ちなみにこの本『生まれてきたことが苦しいあなたに 最強のペシミスト・シオランの思想』)

次は、圧巻の読書量と、書棚に搬入する本が骨太で重厚でありながらもセンスがあるため、「ジューシー」な本たちを持ってきてくれると評判の棚主Tさん。Tさんの書棚に『絶望のきわみで』の新装版を発見した時、「新装版が出たんだー」と歳月の経過を思いながら、Tさんが『絶望のきわみで』を読んでいたこと、そして旧版は手放せなく、手元に置いてあるという話を聞き、ますます嬉しくなってしまった。先日のユイさんとK君の会話すら、奇跡のようなものだと思っている私からしたら、こんな素晴らしいおまけがあるなんて。

さらに三度目。先日スタッフのKさん(一番よくお店で会うしお世話になっている方)とお話した時「Twitterでシオランのお話しされてましたよね。自分も好きで…」とこっそり教えてくれ、シオランの本の著作をスラスラと言っていた。
シオランの本は『悪しき造物主』『四つ裂きの刑』『欺瞞の書』となかなか薦めにくいタイトルのオンパレードだ。
「シオランって作家が好きで…」
「どんな本書いているの?」
「『生誕の厄災』『悪しき造物主』『四つ裂きの刑』とか…」
「呪いとか宗教系?」
「いや、そうではないんだけ…」
それ以上の会話を進めるスキルと熱量が私には足りないらしく、長年シオラン好きは表明せず、ひっそり息を潜めていたが、PASSAGE界隈にこれほどシオラン好きがいたとは。
一ヶ月以内に三名以上のシオラン好きに出会える、今までそんな場所があっただろうか。
いや、本当に。みんな一体どうやって生活して、何を読んでるのだろう(自分のことを棚に上げている)?
こんな会話ができる場所を人生に持つことができるなんて、学生の自分は想像していなかった。

PASSAGEでする他愛ない会話が好きだ。
仕事をして凍り切った心が、PASSAGEの他愛ない会話で溶けていくような、そんな気がする。
私は本について話せる人が、本当に大切なんだと思う。

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