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コヒブレ30回目:国家公務員(キャリア官僚)のお仕事(宿命の子)Part1

国家公務員の仕事内容をノンフィクションのドキュメンタリーで知るには、1番オススメなのが、岩波新書の軽部氏の「アベノミクス3部作」です。

そして、安倍首相の自伝の「安倍晋三回顧録」も必読です。

てなことを、


以前、「コヒブレ14回目:国家公務員(キャリア官僚)のお仕事Part1」で紹介しました。

この度、外交、防衛、通商、財政に関わる人の必読本にもう1冊(正確には2冊)が追加されました。

その名も、「宿命の子(安倍晋三政権クロニカル)」です。

な~んと、上下の2冊で合計1200ページもあります。


船橋洋一氏の力作中の力作です。克明な情景描写とグングン引き込まれるストーリー構成に圧巻されます。

アベノミクス、靖国参拝、尖閣問題、TPP、戦後70年談話、平和安全法制。次々に浮上する政治課題に、安倍と彼のスタッフはいかに立ち向かったか?

安倍本人をはじめ、菅義偉、麻生太郎、岸田文雄などの閣僚、官邸スタッフなどに徹底取材、政治の奥に迫る第一級のノンフィクション

なぜ読みやすいのか?

なぜ読みやすいのか?、と思ったら、
密室の会話であっても、読者がそこに立ち会うごとく描かれる、米国のニュージャーナリズムという手法を採用しているからのようです!

私は特段、安倍元首相のファンではありませんでしたが、むしろ、安倍ファンではない人こそ、読むべきだと思います。彼がどういう思想の元に、政策を実施し、どのような制約があったのか、わかります。

特に、官僚は、政治家の選挙民や選挙対策の観点を意識することが乏しいので、政治家は物事をこのように見て、このような意思決定をしているということが、各テーマに応じて発見できます♪



上下巻の目次

上下巻の目次になります。
上巻は内政(国内政治)、下巻は外交を扱っています。

(上)
プロローグ
1 再登場
2 アベノミクス
3 靖国神社
4 尖閣諸島
5 TPP
6 慰安婦問題
7 戦後70年首相談話
8 平和安全法制
9 ヒロシマ/パールハーバー
10 消費税増税

(下)
11 プーチン
12 習近平
13 トランプ・タワー
14 金正恩
15 アメリカ・ファースト
16 インド太平洋
17 G7対ユーラシア
18 天皇退位/改元
19 パンデミックと官邸危機
20 退陣
21 戦後終章
エピローグ


安倍2次政権の最側近

安倍2次政権の最側近は、経産省出身の今井氏と、警察庁出身の北村氏で、2人の献身的な貢献により、安倍総理は支えられていたことがわかります。

この2冊を読破して、個人的に印象的だったのが以下です。


日銀の黒田総裁

アベノミクス実行のために、安倍首相が任命した黒田日銀総裁!

その黒田氏に対して、安倍が気づいたことが、黒田も消費税増税を常に追求していたことでした。

「最後のところでは消費税を上げるほうに振ってきた。黒田さんは、リフレ派ではなかったのか。やはり黒田さんも財務省の血が流れているんだな」

財務省の増税爆弾は、世の中の至る所に仕掛けられているということです。



日本外交の変化

安倍2次政権の下、日本外交は、外務省のごく限られた人に閉じた外交から、官邸外交に大きく舵を切ったようです。

安倍は退任後、国際政治学者の田中明彦のインタビューに答えた。

田中「かつて外務省のOBから、日本の外交政策というのは、課長と局長と次官の3人の合意のことなのだと聞いたことがあります。それが安倍政権で大きく変わりました」

安倍「NSC(国家安全保障会議)がなければ官邸外交は成り立たなかったと思います」


財務省のNSCへの介入

このNSC(国家安全保障会議)というのは、外務、防衛、警察を中心とする組織ですが、そこに実は、財務省が入ろうとしていたというのです!!!

麻生(財務大臣)は、「カネなくして戦争はできませんし、戦争をさせないための抑止力の軍備もできません。だからそこは間違いなく財務大臣はきちんと入っておくべきだと思いますけどね」と安倍を促したが、「安倍さんは何となく財政問題による議論の制約を外したいというお気持ちが強かった。」

(中略)

麻生は、財務相を4大臣会合に加え、最初から利害関係者(ステークホルダー)とすることがそれこそ「実質的で動的なシビリアンコントロール」にプラスになると考えたのである。一方、安倍は、財務省をこのプロセスに組み込むと「形式的で静的なシビリアンコントロール」に逆戻りしてしまうことを恐れたのだった。


消費税増税

「消費税、嫌いなんだよね」
2012年12月。永田町・自民党本部総裁室。安倍晋三自民党総裁は、表敬に訪れた財務省の幹部に向かって、ボソッとそう言った。

真砂靖事務次官(1978年大蔵省入省)、木下康司主計局長(1979年入省)、香川俊介官房長(1979年入省)、佐藤慎一大臣官房総括審議官(1980年入省)の4人とも神妙な顔をしたまま、一言も発さない。

木下が民主党野田佳彦政権の「社会保障と税の一体改革」政策の意味をその継続性の必要性、要するに消費税増税の必要性について説明して10分ほど経ったところだった。安倍は、露骨に不快そうな表情を浮かべていた。

そして、安倍は言った。
「政権というのは経済に失敗したら政権を失うが、財務省に役人はやめなくていいからね」

安倍総理が、いかに財務省の行為や行動を嫌っていたかわかります!!!

また、財務省が消費税を仕掛ける別のシーンがあります。

菅(官房長官)は、香川(財務事務次官)を官邸に呼んだ。
「消費税の引き上げはしない。おまえが引き上げに動くと政局になるから困る。あきらめてくれ」

香川は、反論した。
「長官。決まったことには必ず従います。これまでもそうしてきました。ですが、法律に決められているどおりやってほしいと言って何で悪いんですか。法律で定められているプロセスについてはやらせてください」

菅は、言い放った。
「いや、総理が決めるんだから」

結局、安倍政権では、2014年4月と2019年10月の2回にわたって消費税を増税しています。

「社会保障と税の一体改革」の立役者だった野田佳彦は、安倍政権の消費税引き上げを次のように評価している。

「2回上げるということは相当大きな苦労を伴うんですよ。こっちは法律をつくっちゃうとしても、上げるときの政権って、ましてや一つの政権で2回上げるなんてちょっと考えられなかった。1回上げたら、その政権は飛んじゃう

それだけに「この10年で2回やったというのはね、すごいことだと思います。それはだからリアリズムだと思いますよね」。

安倍は、こと相手が財務省だと物言いが感情的になる。

「2回も(消費税を)上げているんですよ。で、全体の税収も28兆円、増やしているんですから。文句を言われる筋合いはないんだよ」


財務省の政策立案能力の低下

財務省の政策提案力の欠如について、記載があります。
最強官庁と呼ばれる財務省ですが、実は、徐々に政策立案能力が落ちているのは驚きです。

古谷一之官房副長官補(内政担当で財務省出身)は、肝心の財務省からこれはというアイデアも代案も出てこないことに苛立っていた。それは太田理財局長も痛感するところだった。太田は、使途変更作業を進めるに当たって、実態調査、理論的枠組み、政策選択肢抽出、それらの費用対効果分析、それぞれの政治的意味合い、その対応策なども踏まえた政策立案力において財務省から上がって来るどの案よりも「残念ながら新原(官邸官僚で経産省出身)の案のほうがすぐれていることを認めないわけにはいかなかった」。

主計局は他から出て来る要求の問題点を指摘するのは上手だが、それではどうすればよいのかという代案を提案するのは苦手である。かつてはそれで済んでいたのかもしれない。しかし、いまは官邸が各省にアイデアと代案を求める要求主体になるにつれ、財務省、なかでも主計局の提案力の欠如が、財務省の地盤沈下をもたらしている。その空白を新原が埋めている。

以上、上巻のほんの一部を紹介しました。

上巻は内政(国内政治)ですが、下巻は外交になります。

長くなりましたので、次回、下巻を紹介します♪


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