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”気分”で流される世論~民王第2作を読んで~

政策は正しいはずなのに、世の中は”気分”で流されていく。果たしてそれが世論なのだろうか。(文中より)

菅首相退陣の状況と私の頭の中では重なった。

政治という観点だけでなく、自身のマスコミやSNSとの関わりを見つめ直すきっかけに読んでみるというのも面白いかもしれない。

どんな本?

本書は、半沢直樹シリーズでも有名な池井潤氏によって書かれた民王シリーズの2021年9月28日に発売された第2作だ。

前回の記事で本シリーズ第1作についても取り上げているので、そちらもぜひ見てほしい。

第二次内閣を発足したばかりの武藤泰山を、正体不明の「マドンナ・ウイルス」が襲い掛かる。事態の終息に緊急事態宣言を発令するも、世論の逆風が吹き荒れる。

武藤泰山とバカ息子の武藤翔を中心に、彼らを支える個性豊かな人々を巻き込みながら、ウイルスの謎に迫っていく。日本はこの未知のウイルスに打ち勝つことができるのか?笑いあり、涙ありの痛快政治エンタメである。

読んでみて

とにかく面白い!

第1作以上に作りこまれたストーリーにのめり込んで一気に読破した。そしてその勢いそのままに、初めからさらにもう一度読んだ。一度食べ始めたら止められないチップスターのように(私の場合です笑)、本書のページをめくる手を止められなかった。

まず、前作の入れ替わりというSF要素と異なり、今回は背景や展開が今の日本のそれと酷似していた。

突然の新型ウイルスの登場と蔓延、そして国民の批判的な声に戸惑いながら、あーでもない、でもこーでもないと悩みながらも立ち向かう武藤内閣の様子は、本書の個性豊かな登場人物のやりとり描写も手伝って驚くほどの臨場感があった。

そしてそれは「実際の政府内のやりとりもこんな感じだったんじゃないだろうか」と思わせるほどのリアル感でもあることに、読み終わって気づいた。

私が最も関心を引いたのは、冒頭の引用にもつながる「"気分"に流される世論」の描き方が、現実世界における世論そのものだったことだ。

政策は正しいはずなのに、世の中は”気分”で流されていく。果たしてそれが世論なのだろうか。(文中より)

これは、未知のウイルスに立ち向かうために、日本政府が緊急事態宣言の発令をはじめ様々な対策を講じているものの、できていないこと、揚げ足取りばかりが行われていることに対する率直な感想を現した一言である。

感情的になり、泰山の政策をひたすら批判することだけを目的とするソーシャル・メディアのコメント。そうした潮流に乗って批判的な論調で煽る、視聴率ありきのテレビ局。(文中より) *泰山=本書における主人公であり総理大臣

酷似している。菅内閣の退陣前の世の中のそれと。

退陣につながった支持率の低下に理由として、発信力が足りてない、コロナ対策が甘かったなどが、後付けのようにマスコミ報道では取り上げられた。

しかし実際は、論理的、且つ具体的な理由などではなく、ただ”なんとなく”の批判から拡がっていったことを真っ向から「違う」と否定することはできるだろうか?

菅内閣のよい政策やこれまでの実績、強みなどに焦点が当てらず、緊急事態宣言などの長い自粛生活を強いられたことで、嫌気がさしていたことが大きく影響していたのではないか。

それらが本書と同じく、SNSの中でなんとなくの”気分”で拡がり、それを面白おかしくメディアが取り上げてさらに加速する。

一度批判路線で走り出した”気分”は、流される一方で簡単には止まらない。実際に退陣に至るまで駆け抜けた。

いま一度考えたい

「果たしてそれが世論なのだろうか。」

世の中のなんとなくの”気分”に流されて、口だけの批評家になっていたことを、私は深く反省しよう。

終わりに

と、本書の内容と現実世界と照らし合わせて考えたことを書いてみた。

造られた世界観にどっぷり浸ることができる小説も好きだが、現実世界と照らし合わせて気づきを得たり考えを深めることのできる本書のような小説もいいなと改めて感じた。

コロナ禍で行動することが減り、一見すべてを網羅した上で正しく整理してまとめられているようで実はそうではない偏った情報ソースからいろいろと判断してしまっていた私のような人にも、ぜひ進めたい一冊だ。



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