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頭が悪いは褒め言葉ーミニ読書感想『バッタを倒すぜアフリカで』(前野ウルド浩太郎さん)
前野ウルド浩太郎さんの『バッタを倒すぜアフリカで』(光文社新書、2024年4月30日初版発行)が面白かったです。圧巻の500ページ。新書サイズの鈍器本。前作『バッタを倒しにアフリカへ』をしのぐ、バッタだらけの内容。まさにバッタまみれになれる本でした。
前作の特徴は、悲哀でした。なかなか研究資金が獲得できず、しかもバッタの研究成果は公表前につき、なかなか詳しく書き込めない。その悲哀をユーモラスに綴り、反響を得たのが前作でした(過去記事は以下。前のブログ時代に読みました)
それに比べて今回は、気合いがみなぎっている。なにせ、著者はついに研究成果を論文報告し、満を持してその内容を本書にまとめたのだから。
そんな本書の核心は「産みの苦しみ」。著者はアフリカのモーリタニアでバッタ研究を本格化してから、論文発表までには10年の歳月を要した。10年。一本の論文を生み出すのはなんと大変かを知ります。
だけど、その苦しみを真顔で語りはしないのが前野流です。とにかく面白い。自虐に溢れている。なかなかバッタに出会えない、研究資金が降りる期間が終わってしまう、論文に落とし込むには経験が足りない、肝心の論文がなかなか採用されない…。普通なら憂鬱に押しつぶされそうな事態なのに、とにかく面白く書いていく。
だから500ページ読めてしまう。
このユーモア。実は著者の心情であったことが、最終盤で明かされます。
同じことを証明するにしても、クスリと笑えるような実験を考案したいし、面白い経緯があったほうが、後々話をするときに喜んでもらえる。私の中では、「頭が悪い」という言葉が最上級の褒め言葉となっている。考えに考え抜いて頭の悪いことをして、友人たちが笑ってくれるときの快感がたまらないのだ。
頭が悪い、は褒め言葉。パンチラインです。
たしかに頭が良いと褒められたい人間だったら、バッタというニッチ分野にフォーカスしないかもしれない。著者がユーモラスで、最高の天邪鬼だったからこそ、知の境界線は思わぬ拡張を遂げた。
本書は脱線が多いのも特徴。論文執筆のために経験を積んだ米国やフランスの様子も描かれるし、そこで堪能した美味しいご飯の話も多い。中心的舞台・アフリカのモーリタニアで右腕となっている助手のサイドストーリーも楽しい。コロナ禍で支援した数百万円を2、3ヶ月で溶かしちゃったりする。
バッタについて学び、読み進めながら、なぜか人生のヒントを得られるのが前作でした。本書もまさにそう。アハハと笑って人生が潤う本です。
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