あえて現実に接近するS F小説ーミニ読書感想『マン・カインド』(藤井太洋さん)
◎藤井太洋さん『マン・カインド』(2024年9月25日初版発行、早川書房)
作者藤井太洋さんの作品は、具体的な近未来を設定している点がすごい。リアリティがある。でもそのリアリティは、ともすれば「あれ、嘘っぽいな」という違和感と紙一重だと思う。現実に近いからこそ、ご都合主義的な設定は読者に見破られる。でも藤井作品にはそういう感覚がない。
『マン・カインド』のタイトルが本書の核心で考えさせられるけど、ネタバレを考慮すると語れない。ここでは「あらすじ」で紹介されている内容をはみ出ないようにする。
主人公はジャーナリスト。ゲリラ組織と正規軍の衝突を取材中、ゲリラが正規軍を「虐殺」する場面に出くわす。しかし、それを報じようとすると、フェイクニュースを事前排除するシステムに引っかかってしまった。「虐殺」が「フェイク」だと判断されてしまった。なぜ?その核心を突き止めようとする物語です。
作中では、ニュースは「自動生成」される。目の前の事実、撮影した映像から文章がつくられる。つまり人の主観が排除される。主人公が目にした事実は脚色しようがないのに、嘘と断じられる。システム=AIによって。そのとき、人間である主人公になすすべはない。事実だと知るのは人間であるという矛盾。
そんな主人公は、謎を突き止めようとする道中、自動生成ではなく「自分の言葉」を書き留めようとする。
示唆的だと思う。いま、自動生成がものすごい勢いで発展している。だけど、そうやって便利に任せている間に失われるのは自分の言葉じゃないか。
これが藤井作品のリアリティ。SFなのに、あえて現実に接近する世界観が好きです。
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