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13年の時を超えた感動ーミニ読書感想『友が、消えた』(金城一紀さん)
◎金城一紀さん『友が、消えた』(KADOKAWA、2024年12月16日初版発行)
金城一紀さんの『ザ・ゾンビーズ・シリーズ』13年ぶりの続編。13年。青春時代に夢中になって読んだ第1作『レボリューションNo.3』。あの時の感動が甦った。全く色褪せないまま、同じように一気通読し、同じように胸が熱くなった。それが嬉しい。もう中年が迫るのに、自分は13年前と同じように心を燃やすことができた。
『レボリューションNo.3』は、父がくれた。今でも覚えている。冬の日だった。本好きな父は、読書が趣味になり始めた私に「きっと面白いと思うよ」と言って手渡してくれた。オイルストーブが点るキッチンダイニングで開いた。圧倒的に面白かった。食事中も読み続け、ほんの一晩、二晩で読み終えた。こんなにかっこいい文章と、こんなに魅力的な登場人物があるのかと驚いた。続編も全て読んだ。
本書『友が、消えた』は、通勤電車で開いた。父もこうやって、仕事の合間に本の世界に逃げ込んだのだろうか。それから先は、13年前と同じ。周りが見えなくなるくらい没入して、帰りの電車、そして子どもの寝かしつけをした後にクライマックスに辿り着いた。
何がそんなに、魅力的なのか。たとえばこんなワンセンテンス。
一メーターの距離を移動するあいだにも、沼口は志田の話を熱っぽく語り続けた。すでに二時間近く聞かされていてうんざりしていたが、志田にたどり着くまでは我慢をするしかなかった。二〇一〇年までには国民全員が志田さんの存在を知ることになるだろう。一メーターで語られた分の要約だ。タイムリミットはあと五年余り。一番手取り早いのは重罪犯罪者としてニュースに出ることだろう。
「失踪した友を探して欲しい」と依頼を受けた大学生の主人公。志田さんは、真相の鍵を握る巨大サークルのカリスマ。そのすごさを長々と子分から聞かされた要約が「あと5年で国民全員が志田さんを知ることになる」。なんとも乱暴で、笑っちゃうくらい適当。そして最後には「手っ取早いのは犯罪者としてニュースになること」とチクリと刺す。
ユーモアとアイロニー。でも、それに耽溺しないクールな文体。
13年経った今だから見えてきたこともある。本書はたぶん、レイモンド・チャンドラーの『長い別れ』に触発されている。失踪した友、友というには関係性が薄く、しかも良い奴なのか悪い奴なのか分からない男を主人公が捜すという筋書きも、『長い別れ』そっくりだ。
つまり、ザ・ゾンビーズ・シリーズはハードボイルドでもある。13年前は気付かなかった。
金城作品が大好きな理由は、口ずさみたくなる名台詞があるから。
「おまえが道の真ん中を歩いていけるのは、道を譲ってくれた人がいるからだ」言っても損するだけだったが、言っておきたかった。「道を譲ってくれたのは弱くて醜いからじゃない。優しいからだ。それを忘れるな」
おまえが道の真ん中を歩いていけるのは、道を譲ってくれた人がいるからだ。言ってみたい。こんな言葉を掛けられるようになるには、どう生きればいいんだろう?青春時代は本気で思った。主人公のように真っ直ぐ、かっこよくなりたい。
その気持ちは、憧れの灯火は、中年間近でもついた。ともることができた。それが嬉しい。
著者の金城一紀さんにありがとうと言いたい。さらに続編が出るのかは、分からない。その頃にはお爺さんになってるかもしれない。なる前に命を落として、冥土から心待ちにするかもしれない。なんにせよ、待っています。
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