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支援のあんドーナツをつくるーミニ読書感想『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する』(野口晃菜さん・陶貴行さん編著)
野口晃菜さん・陶貴行さん編著『発達障害のある子どもと周囲との関係性を支援する』(中央法規、2020年7月10日初版発行)が、実際の子育て(家庭内外の療育)を考えるにあたってとても参考になりました。明確な指針と、豊富なケーススタディが紹介されています。
「はじめに」でまず胸を打たれます。編著者のお一人は、発達障害児「だけ」が変わることを求められやすい支援の現実に疑問を呈する。
コミュニケーションが双方向のものならば、一方の主張や考えを最初から正しいものとして取り出し、もう一方に教えるのではなく、本来「お互いに学びあうもの」ではないでしょうか。
これは親としても感じる。自分もそうしてしまう。定型発達者のコミュニケーションを「正解」として、それに合わせる行動を求めてしまう。でも、本来コミュニケーションは双方向ではなかったか。障害児を変えるのではなく、周囲も歩み寄る、お互いの「あいだ」を変えるという発想は、たしかに大切にしたいなと思いました。
その上で、具体的に次のようなポイントを挙げる。
コミュニケーション支援のポイント
①「わからないから知りたい」からスタートする
②「不適応行動」は本人からしたら「適応行動」
③誰かに原因を求めても解決しない
④キラキラポイントに目を向ける
⑤コミュニケーションを取りたくなる環境をつくる
⑥チームで支援する
たとえば、②の不適応行動は本人からしたら適応行動とは、どういうことか。
周りから見たら一見「問題行動」に思えるものは、その子が発しているメッセージと考えることができます。はじめから「不適切な行動だからやめさせる」のではなく、その子が発しているなにかしらのサインと捉えてみることをおすすめします。
ストレスのある環境になんとか適応しようと、たとえばカーテンにくるまってみたり、奇声をあげたりする。その問題性にだけ目を向けるのではなく、場との関係性に目を向ける。
あるいは、④のキラキラポイントに目を向けるのも大切。それは「できないこと探しに陥らない」という言い換えもできます。
もちろんできないことをできるようにすることはとても大切なことですが、一歩間違えると「できないこと探し」や「問題探し」になってしまいます。そして、その、「できないこと探し」は子どもと支援者の関係性や子どもと保護者など、子どもと周りの人との関係性をあまりよくはしません。
これらの指針は、支援を受ける本人にフォーカスする。周囲の支援者や保護者がフォーカスされ、本人が不在になる「ドーナツ化」を防ぎ、中身がぎっしり詰まった「あんドーナツ」を目指す。こういうメタファーが出て来て、納得しました。
たとえば、発話を促すセッションのあり方を、関係性の喜びに目を向ける形にシフトチェンジしたケーススタディがありました。そこでの以下の文章が胸に残っている。
まず、子どもの興味・関心を示すものを見定め、そこに大人が注意を向ける。一緒に注意を向けているものに対して、大人が働きかけ、子どもとポジティブな感情を共有する。このようにして、心地よい・楽しい気持ちを与えたり一緒に感じてくれる大人の存在に子ども自身が気付いていくことが、関係性を作る第一歩なのだと感じます。自分の思いが明確になり、人に働きかける気持ちが高まり、わかり合える体験を積み重ねていくことが、人と関わる力につながっていくのだと思います。
発話を引き出すというのは、やはり支援者目線。あんドーナツは、発話を求められる障害児の、関心や喜びに目を向ける。
この発想の転換を、自分も大事にしたいと感じました。なかなか難しいのですが。
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