こんなに感動してるのに笑っちゃうのはなんでだろうーミニ読書感想『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(岸田奈美さん)
作家・岸田奈美さんの『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』(小学館文庫、2023年4月11日初版発行)を読んで、笑って、泣きました。こんなに感動してるのに、笑っちゃうのはなんでなんだろう。抱腹絶倒っという言葉はあるけれど、笑って泣いちゃうのは熟語はないんだろうか。
解説で一穂ミチさんが「令和はディズニー、ハワイ、岸田奈美」が鉄板になるのでは、と語られているけれど、頷ける。というか、そうなってほしい。この優しさとユーモアが、象徴される時代になってくれたら嬉しい。
著者の家族は、たくさんの困難にぶつかって生きてきた。お母さんは、病の後遺症で下半身が不自由になった。その後、また別の病も経験されてる。お父さんは、著者が10代のときに急逝した。弟さんは、ダウン症と共に生きている(ダウン症=困難かはいろんな考えがあるにせよ、少なくとも社会モデルに立った時の障害の一つの類型ではある)。
著者は、たくさん傷付いてきたし、絶望してきたと語っている。その経験は、本当に胸を打つ。その経験の語りが。端的に言って感動するのです。でも不思議なことに、自分がドッグイヤーしたところを見返すと、こんなところなんです。
弟さんがお母さんから1000円を持たされて行った買い物先のコンビニ。店員さんにヘルプしてもらい、自分の好きなものも含め998円まで購入し、母にお釣りを返す弟さん。そのギリギリさを、B'zの稲葉さんが生まれなかったら〜で例える。
フッと、思わず笑ってしまう。
あるいは、「嵐」の櫻井翔さんを見た時の衝撃(とあるオチがあるけど、それは伏せるとして)。
甘酒を「飲む点滴」と言ったりする。なるほど、目で見るタイプの点滴かあ。
繰り返すけれど、本書は本当に感動するエッセイなんです。胸に残る。だけど思い返すのは、ほんとに、それだけ紹介したらただのギャグエッセイじゃないか、という部分。
それが革命的だと思うのです。
病気の話。家族の死の話。障害の話。たぶん多くの人にとっては、「遠くの誰かの不幸」でしかない話。それが、「ほんとに面白い話」として、胸に刻まれる。そんな本に出会ったことはない。
私の子どもには、障害がある。また、病もある。私は私なりの(親としての)地獄を体験してきて、だからこそ、本書に出会えたことが嬉しい。困難を乗り越えたとか、そういうのじゃなくて。困難と共に生きた人が、そのことを語っているのに、むちゃくちゃ面白いことに、なぜだか救われる。
たぶん意味が分からないし、私自身も分かっていない。
たぶん、たぶんだけれど、「ああ、笑っていいんだ」と思えたから。本書の中に、お父さんの死から月日が経ち、お母さんがお父さんの命日について、LINEで軽いスタンプ付きでメッセージを送る場面が出てくる。著者はそこで「え、そんなに軽い感じで話して良かった?」と衝撃を受ける。そんな感じの衝撃と、爽快感が、障害者家族の自分にはあった。
私には岸田奈美さんほどのユーモアはもちろんないけれど。でも、もしかしたら、笑っていいんだな。笑い話にしても、いいんだな。
だから私は感動して泣いて、そして笑った。そしてそして、全く何に感動したか伝わらない名文を引用して、感想エントリーを書いている。
家族のことを心配して、思い悩んで、もしかしたら絶望の淵にいる人に、読んで欲しい本です。届いと欲しい本です。
私は、本書を子どもが眠る病室で読みました。たぶん看護師さんは、子どもを心配して泣いてると思ったんじゃないかな。違うんです、「かぞかぞ」を読んでいたんですよ。全然違う涙だったんです。
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岸田奈美さんが解説を寄せている『弟は僕のヒーロー』もおすすめです。岸田さん同様、弟さんがダウン症というイタリアのエッセイストの名文です。