台湾という鏡ーミニ読書感想『台湾対抗文化紀行』(神田桂一さん)
フリーライター神田桂一さんの『台湾対抗文化紀行』(晶文社、2021年11月25日初版発行)が面白かったです。インディーズ音楽など、台湾のカウンターカルチャーを追いかける珍しい紀行文。若者文化とその担い手の飾り気のない言葉を丁寧に拾っていて、知られざる台湾の姿が浮かんできました。
台湾の名所とか、気候とか、そういったものは描かれない。なのだけど、なんだか街の様子がふわーっと立ち上がってくるのが不思議です。
台湾の、いわゆる最先端の街はコロコロ変わるそう。ではどうすれば面白い街になるのか、とある人物のこんな語りが印象に残る。
たとえばスタバのような大資本チェーンが、最先端の街だと気付いて出店しようものなら「終わり」だそう。著者も触れている通り、これは日本(東京)とは異なって見えます。たとえば高円寺はずっと昔からカルチャーの街で、今も同じでしょう。原宿もそう。巣鴨もいつまで経っても巣鴨です。
「でもいい人たちにバレないように」という在り方は、どことなく台湾と中国の関係を感じなくもない。実際、別のパートである台湾人は、台湾文化と政治は切っても切れないと語る。
これも日本とは逆のような気もする。原宿や渋谷を思い浮かべると、政治的には漂白された感じの方が強い。むしろ政治の方が、それらを「クールジャパン」として利用しているように感じます。
台湾という日本に近い場所。アジアの一角だけど、「一国」とはやはり異なる複雑な政治背景を抱えた島。そのカルチャーに目を向けると、日本の姿が鏡のように映し出される。
もし台湾を旅することがあれば、本書に描かれるようなカルチャーや政治性を、街角に探したくなる気がします。
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