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叱るは叱る人のためのものーミニ読書感想『〈叱る依存〉がとまらない』(村中直人さん)
臨床心理士・村中直人さんの『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店、2022年2月17日初版発行)が学びになりました。叱るという行為は、依存症を引き起こす。それが叱る依存です。その事実を知れることが、本書の一番の収穫。叱るとは、叱られる人のためではなく、「叱っている人を満たす」ためにある。だから戒めないといけない。
ネタバレじゃないか、という批判は当たりません。結論を知った上でも読む価値はある。なぜ、叱るは依存を引き起こすか。そのメカニズムを、学術的根拠を豊富に示してくれるからです。
たとえば、「自己治療仮説」。叱る人は、そもそもその人自身に何らかの「傷」を抱えていて、それを治すために叱るのだという理論です。
いま、有力だと考えられている仮説に「自己治療仮説」と呼ばれているものがあります。その説によれば、人は無意識のうちに自分自身の苦痛を和らげてくれるものに依存するようになるとされています。つまり依存症は、前提としてなんらかの苦痛を抱えている場合に起きやすくなるということです。
不安症を和らげるために麻薬や覚醒剤に手を出すように、何らかの原因的苦痛が叱る人には内在している。だとすれば、叱ることを止めるには、まず自分の中のストレスや苦痛に目を向けて、違う方法で緩和のやり方はないか、探る必要がある。
自己治療仮説を知るだけでも、叱らないように気をつけるとか、褒める教育こそ意味があるとか、精神論以外の解決方法を探す手立てになります。
叱ることを止めるとは、褒めることを意味しません。叱るの反対はむしろ、対話すること。つまり「自分が相手に与える」という権力的構造を手放すことです。それを意味するのが次の引用箇所で、とても胸に残りました。
「叱る人」「叱られる人」のそれぞれが、自分を主語として、お互いの望む未来を大切にし、そこをなんとかすり合わせようとしているかぎり、「叱らずにはいられない」という状態にはなりにくくなります。一方的な権力の行使という構造ではなくなるからです。大事なのは主語を明確にすること、そしてそれぞれの「望む未来」や「ありたい姿」を互いに理解することです。悩んだら「あなたはどうしたらいいと思う?」「この先どうなっていたら最高?」と相手に問いかけてみてください。明確な答えが返ってこなくてもかまいません。あなたがお互いの主語の世界を大切にしていることが、きっと伝わります。
叱るよりも、問い掛ける。これは実際の子育てでは難しい。でも、問い掛けた時、その課題は親だけのものじゃなくて、子どものものにもなることは、直観的に理解できます。課題のシェア。
どうして自分は子どもを叱ってばかりいるんだろう。そう悩む人には、きっとヒントになる一冊です。語りは易しく、悩む人が忙しいとしても、比較的短時間で読めます。
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