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言葉の剣聖の刀さばきーミニ読書感想『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん)

切れ味のある書評を書くにはどうすればよいのか?ーーそのお手本と言える一冊が作家・宮部みゆきさんの『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』(宮部みゆきさん、中公新書ラクレ、2023年11月10日初版発行)でした。読売新聞の書評面「本よみうり堂」をまとめた本書。長いもので見開き2ページ、短いものでは1ページちょっとの分量で、その本の魅力を伝える。簡にして要を得るとは、まさにこのこと。剣聖の刀さばきを味わいました。


たとえば『日本ノンフィクション史』(武田徹さん)の書評では、ノンフィクションを「内部がいつのまにか外部になり、外部がいつのまにか内部になっているクラインの壺」とした武田さんのメタファーを踏まえ、こんな風に表現している。

ルポルタージュと呼ばれれば硬派で、実話小説と呼ばれれば胡散臭く、ノンフィクションノベルというぬえみたいなジャンルを生み出し、いつのまにか「非・フィクション」という出版界の一大産業になった報道・記録文学の歴史は、事実を物語化したいという人々の欲望の歴史でもあるのだ。

『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』p135

「事実を物語化したいという人々の欲望の歴史」。ミステリー作家として、まさにそうした欲望に対応してきた著者だからこその重みがあります。本来相いれないはずの「事実」と「物語」が、だけども人間の心の奥底では不可分なことにも気付かされる。

「これという専門もなく、ただミステリーが大好きなだけで作家になった典型的なファンライター」(p4)というスタンスによる、「間合い」も絶妙です。『間違いだらけの少年サッカー』(林壮一さん)の紹介では、こんなふうの間合いの取り方をしている。

 本書を実用書として必要とする方には、きっと参考になる一書なので、余計な説明はない方がいい。
 それ以外の読者である私は、読み進んでいくうちにつらつら考えた。真面目で勤勉な日本人は、学ぶことに熱心である。常に「師」を見つけようとしている。技能の世界ではしばしば「教わるのではなくよく見て盗め」と言われるのも、学ぶ側こそが主体で、師は弟子に見出されるものだという考え方があるからだろう。

『宮部みゆきが「本よみうり堂」でおすすめした本2015-2019』p70

サッカー少年少女や、その親、コーチら「実用書として必要とする方」には、もう何も説明がないほど使える本だと断言する。その上で、「それ以外の読者」、すなわちサッカーとは無縁である素人だと断って、少年サッカーに関する本を「師と弟子」「教わると学ぶ」の話だと捉え直す。

鮮やかだなあと思います。

作家のすごさというのは、個性的な表現ができるとか誰も思いつかない文章を編み出せるとかではなく、言葉の使い方が正確で無駄がないということなのかもなと思わされます。

余談。発達障害がある子の親としては、序盤で紹介された『障害のある子の家族が知っておきたい「親なきあと」』(渡部伸さん、主婦の友社)はぜひ読んでみたいなと感じました。

https://books.shufunotomo.co.jp/book/b186006.html


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