障害と生活を丁寧に掬うーミニ読書感想『サンショウウオの四十九日』(朝比奈秋さん)
芥川賞を受賞した朝比奈秋さんの『サンショウウオの四十九日』(新潮社、2024年7月10日初版発行)が心に残りました。2人の人間が、生まれながらに結合している「結合双生児」。主人公は、腰も胸部も、そして頭部も結合し、まさに一つの身体を2人で生きる結合双生児の姉妹です。でも、この物語は、2人が歩く日常こそ丁寧に掬う。それがとても心地よく、美しかった。
私は発達障害のある子を育てていて、そんな身からすると、姉妹のこんな語りが胸に刺さった。
なるほど、完全に結合した結合双生児の主人公姉妹は、ある意味で「見えない障害」である発達障害や知的障害と似通うのだな、と感じました。
もしも、頭だけ二つあるのなら、「ああ、2人の人間がくっついているのだな」と分かる。見た目に分かる。でも主人公は、頭部は一つ。しかし顔を見ると、趣の違う顔が半分ずつくっついている。それを見て、顔つきに何らかの特異さを抱える「そういう障害」と感じる人はきっといるだろう。
それに良し悪しはない。ある意味で、自然な反応でしょうし、もしも姉妹が結合双生児でなかったら、自分たちの姿を見てそう感じたとしても不思議はない。でも、ここには悲しさがあります。主人公たちは絶えず誤解される状況にある。2人を2人として見ることを、妨げる何かがある。
これが障害の、一つの本質だと思う。
でも、この後に、こんな文章が現れる。
そう、そうだよね。膝を打った。
結合双生児として認識されず、顔貌の障害と勘違いされることは、障害の表れ方の一つの形ではあるだろう。けど、その全てではない。
当たり前ですが、障害があろうとなかろうと、生活がある。だから障害に向き合う家族としてまず思うことは、税金のことだし、補助金のことだし、スイミングの月謝のことです。真っ先に、自然に、頭に浮かぶのは、きっとそう。
本作は、あくまで生活から目を逸らさない。そしてその描写や、世界が醸す空気感が、なんだか良いリズムを刻むのです。
本作を面白いと感じた理由。素敵だと感じた理由。それは障害を障害としてじゃなくて、その先にある人間の生活もひっくるめて、物語にしてくれたからなんだろうなと思います。
全然違う話ですが、本作からは冬の空気の匂いがして、それもすごく気に入りました。舞台の季節が冬だから、というだけじゃなくて、肌を刺す寒さ、その凛とした空気感が文章から立ち上がってくる。内面も、季節も、作者は実に丁寧に切り取る。