テキストの川へーミニ読書感想『本は読めないものだから心配するな』(管啓次郎さん)
本が好きな人なら、これほど惹かれるタイトルもない。管啓次郎さん『本は読めないものだから心配するな』(ちくま文庫、2021年9月10日初版発行)がとても、胸に残りました。
変わった本です。エッセイ集というか散文集というか。本書に出てくるスケッチという言葉も相応しいかもしれない。さまざまな媒体に著者が発表した文章が、章もなにもなく、ひとつなぎに並べられている。それは川を連想させる。
著者の読書論も、川が一つのメタファーになっている。本を「冊」で考えない、と。本とは、広大なテクストの一部でしかないのだ、と。
著者が本は読めなくてもいいし、忘れてもいいというのは、「テクストに触れる」という営みは本を読むことに限らないからです。本はテクストと私たちが交差するその瞬間とも言える。あるいは、小舟に喩えてみてもいいかもしれない。本という船に乗り、テクストの川を行く時、感じられる水のきらめきや風の涼しさが、読書である。
本を読んで、頭が沸騰して、散歩に出る時。日々があまりに忙しくて、「本が読めないなあ」と思う時。そんな時も、ある種、読んでいる。本を通じて触れたテクストが、私たちの心の中にある時、私たちは異なった形で読んでいる。
本書は、積読も肯定しています。
川の向こうには多くの場合、海がある。海を目指す意志を川と言ってもいいのかもしれない。本を読もうとすることは、心をここではないどこかへ、遠いどこかへ運んで行くという、決意宣言でもある。
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