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小説「私の望む静かな生活」(ジョジョの奇妙な冒険パスティーシュ)第五回 8

第五回

コミケで販売したジョジョの奇妙な冒険パスティーシュの「私の望む静かな生活」を週一ペースで公開しようと思います。
ジョジョの奇妙な冒険を知らなくても楽しめる作品になっているかと思いますので、是非よろしくお願いします。
派手なことは起こりませんが、私なりのジョジョを表現したと思っております。

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 街灯のまばらな暗い杜王町をS市に向かって車を走らせる。カズマの能力も、カズマとともに深い眠りについているらしい。ルームミラーに時折映るミユキの顔は不安そうだがとりあえずは平静を保っていた。ユウの穏やかな寝息が聞こえる。
あの後、すぐに準備を整えて出発したのだが、ミユキの荷物は驚くほどに少なかった。彼女の持ち物はあの家にはほとんど無かったのだろう。
すべては計画通りだった。あとはこのまま、S駅までミユキを送り届けるだけだ。そこから先のことはどうなるのか?それは私の問題じゃないだろう。後、二つの川を超えれば杜王町を出ることができる。街と街の間にある暗闇が近づいてくる。
私は再度自分に問いかける。私はどうしてここまで他人の家族のことに関わっているのだろうか。ユウにとってはある意味では家族を離れ離れにする悪役とも言えるだろう。ミユキだって住み慣れた土地と家を失ってしまうのだ。これからの苦労を考えれば服従が一番良い選択肢とも言える。
これはもはや、正義感とも違う、歪な自分勝手な感情だ。私はとにかく理不尽なことが、私の知らないところで繰り広げられているのが気に食わないのだろう。私の及ぶ世界は私の望む静かな世界であって欲しい。私の単純な怒りが全てを無茶苦茶にする。私こそが真の悪なのだ。
それでもかまわない。
 
「んっ……。」
後部座席から微かな苦痛の声が漏れた。ユウの声だった。それからミユキが驚愕の声をあげた。
「鎖が、また始まった!」
そこで私は全てを悟った。やつのスタンドが発動してしまった。
「どういうことなの!あの人が起きてしまったってこと!?」
「そんなはずはない。」
「じゃあこの跡は一体?!」
思わず舌打ちをしてしまう。一体これはどういうことなんだ。
「あ、ああ…ママ!」
後部座席でユウの声が弾ける。ルームミラーにスタンドの帯びる燐光が見え始める。どうしてスタンドは鏡に映るのだろう。こんな時に私は一体何を考えているのか。
「これからどうするの?私たちはどうなるの!?」
ミユキが前に乗り出してきたのを感じる。
「分からない。」
「分からないって、そんな!」
「分からないから、考えるんだよ!」
 
落ち着いて。落ち着いて観察しなければ。後部座席の鎖は苦痛に悶える蛇のように大きく乱雑に動きながら長さを増し、ユウとミユキを縛り上げようとする。以前見た時よりも随分と荒々しい動きで、鎖自身が捕縛対象をうまく把握できていないように見える。スタンドの存在感もどこかおぼろげだ。つまり……。
 
「これは眠りについている彼の深層心理による自動的な能力の発現だろう。言わば執念だ!本人はきっと気付いてすらいない。」
「逃げられないってこと?」
「能力には限界がある。もっと遠くに離れれば……。」
私は車の速度を上げた。できるだけ遠くへ行かなければ。
「痛いよ!痛いよママ!」
「大丈夫、大丈夫だからね、ユウ……くっ……」
今度はミユキが鈍い苦悶の声を上げる。ルームミラーにはミユキの体をぐるぐると包み始めた半透明の鎖が見える。ミユキの体を全て覆い隠そうとしているのが分かる。嫉妬深い蛇だ。しかし鎖は以前よりも明らかにか細く、末端の方は虚無に消えかけている。私は私の推測の正しさを確信する。もっと遠くへ、いち早く。
「ママ!苦しい!ママ!助けて!」
「だい…じょうぶ…すぐ楽に、うっ、なるから……。」
一つ目の橋を渡る。鎖はその長さを増していき、後部座席の全て覆いつくしていく。ミユキとユウはもはや言葉を発することができないようで悲痛な唸り声が聞こえてくる。私はただがむしゃらにスピードを出す。
 
鎖は変わらぬ勢いで増殖を続けて、後部座席を覆いつくし運転席にもあふれ出してきていた。社内には後部座席の二人の苦悶の声と荒い呼吸だけが響く。私の見立ては本当に合っているのだろうか?私は疑念に取りつかれながら祈るように強くハンドルを握っていた。
「もう少しだから。」
心にもないことが口から出てくる。もう少し我慢すれば本当に逃げ切れるのか?鎖にこのまま車ごと絡めとられてしまうのではないか?私に戦う力があればよかったのだが。
「もう少し。」

[続く]

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