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「悪気はない」から、余計ヤバい

「善意で言っているのに、なぜ怒るの?」
「相手のためを思ってやったことなのに...」

このような言葉を聞いたことはありませんか?
職場やプライベートで、善意から始まった行動が思わぬトラブルを引き起こすことがあります。この時に難しいのは、トラブルを起こしている本人に悪意がないため、問題提起すること自体が難しくなってしまうという点です。

なにより大変なのが、当事者以外からは「あの人は悪気があるわけじゃないから…」と、なぜか被害にあった方がたしなめられるという人間関係の地獄です。そしてこの地獄の一番大変なところは「周囲の人がそう思うことはどうしようもない」ことです…。

このnoteでは、そんな地獄の中にあって、なるべく平和を保つべく「悪気のないやべーやつ」から距離をとるための戦略と具体策について解説していきます。


「悪気のない」人の要注意パターン

まずは典型的な「悪気のないやべーやつ」のパターンを理解することから始めましょう。警戒をするためには、敵のことをよく知らなければなりません。

職場でよくいる「やべーやつ」には、以下の特徴があります。

1.業務範囲や指揮系統を飛び越えていることに自覚がない

こういう人は、上司でもないのに業務の指示を出したり、他部署の仕事に首を突っ込んだりします。
「チームのため」「会社のため」という大義名分のもと、権限も責任も超えた行動を取ります。
自分の役割を超えた「善意の越権行為」が日常的に起こり、あなたの仕事にカオスを持ち込んでくるのです…

困るポイント:
 ・勝手に決定事項を変更される
 ・指示系統が乱れる
 ・責任の所在が不明確になる
 ・「せっかく手伝ってあげたのに」と逆ギレされる

2.「みんなで」が口癖

「みんなで共有しましょう」「みんなで決めましょう」が口癖で、些細な決定にも必要以上に人を巻き込もうとします。
一見、組織のことを思った行動に見えることが厄介。
必要以上に話を広げるため、会議の肥大化や意思決定の遅延を引き起こしています。
本来不要な関係者まで巻き込むため、単純だったはずの作業もなぜかレビューワーや相談先の部署が増え、どんどん複雑化していきます

困るポイント:
 ・無駄な会議が増える
 ・簡単な決定に時間がかかる
 ・責任が分散する
 ・反対すると「チームワークを乱す人」とレッテルを貼られる

3.コミュニケーションという名の公開強要

「風通しの良い職場づくり」や「チームビルディング」を盾に、必要以上のコミュニケーションを強要します。
プライベートな情報まで「共有」を求められ、家族のことなどどうしても言いにくいことすら、話さずにおこうとするともう大変
「あいつは協調性がない」「組織の仕事を分かっていない」と好き放題言われまくってしまう。
何度、ぶん殴ってやろうと思ったことか…。

困るポイント:
 ・無駄な情報共有が増える
 ・プライバシーが守れない
 ・業務外の負担が増える(謎のお土産かってこい圧力)
 ・断ると人事評価に影響しそうで怖い

これらの特徴を持つ人に共通するのは、「組織のため」「チームのため」という大義名分を持ち出すことです。
そして最も厄介なのは、そのやべーやつと直接関わったことのない人達からは「熱心な社員」「コミュニケーション上手な人」と評価されがちな点です。

ですので、彼らと戦ってはいけません。
闘わずに勝利を得る。そう、ここでは「孫氏の兵法」を用いるのです。

この後の章では、これらの行動から自分を守るための具体的な対策を解説していきます。

基本戦略「なるべく関わらず、遠ざける」

「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。 戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」という孫子の言葉があります。
百戦百勝は一見最善に見えるかもしれないが、勝った方にも被害が出るため、戦わず勝つのが最善だと言うことばです。

そう、「悪気のない」相手との戦いで最も重要なのは、戦わずして勝つための環境作りなのです。

あなたが仕事のできる人であれば、「悪気のないやべーやつ」と戦っても、おそらく組織内で勝利を収めることができます。一方で、少なくない被害を受けるでしょう。

例えば…
 「あいつは仕事はできるけど、ダメな奴には攻撃的になる」
 「あいつは昔、○○さんっていう、ちょっとおせっかいな人だったけど、彼を追い出したことがあるんだよ」
こういった評判を、被害として残すことになってしまうのです。
 ※どうしても組織で生き残るのは生存競争なので、相手を落としたがる人がやべーやつ当人以外にもたくさんいるからです。

ですので、このnoteでは、徹底的に「戦わずして勝つ」具体策を考えていきます。
このときの「勝利条件」は、やべーやつに邪魔されなくなること、です。

ちなみに、それ以上は望むのは無謀だと覚えて置いてください。組織から追い出すとか、査定でマイナスにしてやろうとか、攻撃的な目標を設定するには、「後のの悪評」という被害が大きすぎるからです。

「戦わずして勝つ」ための3原則

1.「虚実」を使いこなす


孫子曰わく 凡そ先きに戦地処りて敵を待つ者は佚し
(先に戦地におもむき、敵を待つのは楽である。)
後れて戦地に処りて戦いに趨く者は労す
(遅れて戦地に行き、戦闘に入るのは骨が折れる。)
故に善く戦う者は 人を致して人に致されず
(いくさ上手は自分が主導権を握り、相手に主導権を握らせない。)
能く敵人をして自ら至らしむる者はこれを利すればなり
(敵を自分から来させるのは、彼らに利益があると思わせるからだ。)
能く敵人をして至るを得ざらしむる者はこれを害すればなり
(敵が自分から動かないのは、動けば害になるとおもわせるからだ。)

孫氏の兵法 虚実篇

第一の戦術「虚実」は、「やべーヤツが口出ししてきそうなところを、先読みして準備しておく」ということです。

やべー奴が善意で絡んでくるのは、その方が「彼にとって利益があるから」です

ということは、そのような「横やりを入れること」について、利益が出ないような場づくりを進めていくことが効果的です。

例えば…
 ・何かの施策を行うにあたって「勉強の一環で!」という前向きな態度を上司やチームに対して示しておく
これだけで、横やりが入る確率は一気に下がります。なぜなら、そこに口をはさむことは「彼の勉強やチャレンジをを邪魔する行為だ」と映るからです。
そして、周囲にも「色々やってみたいけれど、○○さんが正解っぽいことを教えてくれるもんで、ちょっとどうしたらいいかなぁ…」と、本人とではなく、周囲を使った謀略を展開するきっかけにもできるからです。

徹底的にやべーヤツ本人とは戦わない。
そのために手を出させないのが、第一の戦術「虚実」です。

2.「兵勢」を理解する

孫子曰わく 善く戰う者は、これを勢に求めて人に責めず
(戦さ上手は組織で動き、個人に依存せず、)
故に能く人を択びて勢に任ぜしむ
(適材適所で勢いの形に乗せられる。)
勢に任ずる者は、其の人を戦わしむるや木石を転ずるが如し
(勢いに乗れば、木石が転がるように兵は戦う)

孫氏の兵法 兵勢篇

「兵勢」の極意は、一人では戦わないための心構えです。
ようは、勢いをつければ周囲は自然と味方になるということです。

例えば…
 ・上司に「やり方は自分で考えたいのですが、アドバイスをいただけますか?」と、やべーヤツが口をはさむ前に提案する
ことです。

これらの策は、すべて「やべーヤツから見た自分を、上司や同僚と一体の状態にしておく」ということです。
イワシの群れが大きな魚群を作って捕食者を遠ざけるように、「やべーヤツ個人の善意」に対して、より大きな「みんなの善意」で対抗するわけです。

重要なのは、これらの施策があなた個人のためではなく、組織全体のためでもあるという体裁を取っていることです。

「やべーヤツ」の最大の武器は「善意」という大義名分です。だからこそ、それを上回る大義名分という「勢」を作り出し、その力を借りることが効果的なのです。

これが、第二の戦術「兵勢」の本質です。
第一の戦術「虚実」にも通じますね。

3.「水の如く」であれ

それ兵の形は水に象る
(兵の形は水にたとえられる。)
水の形は高きをさけて下に赴く。
(水は高い所を避けて、低い所へ流れる。)
兵の形は実を避けて虚を撃つ。
(ゆえに兵も実を避けて、虚を撃つ。)
水は地に因りて流れを制し 兵は敵に因りてを制す。
(水は地形によって流れがかわり、兵は敵に応じて変化して勝ちを制する。)
故に敵に常勢なく 水に常形なし。
(だから兵には一定不変の型ではなく、水には一定不変の形がない。)
よく敵に因りて変化し を取る者、これ神と賜う。
(よく敵の陣容も変え、勝利を得るものを神という。)

孫氏の兵法 兵勢篇

そして、孫氏は、それらの戦術を状況に応じて使いこなす柔軟性を持つように伝えています。

水が山から海へ、地形に沿って流れていくように。
組織の形に逆らわず、やべーヤツが立ちふさがればそれを回り込んで避け。「虚実」と「兵勢」を使い分けて立ち回っていきましょう。

こちらの振る舞いが変われば、周囲の見る目も変わってきます。
それがいい方向に流れているか、逆に、悪影響を及ぼしそうか。
地形を見るように、やべーヤツ本人との関係だけでなく、周囲との関係性の中で「自分のベストポジション」を見つけていきましょう。

おわりに:あなたの心の平安のために

ここまで「悪気のないやべーヤツ」との付き合い方について、孫氏の兵法を参考に解説してきました。

最後に皆さんに伝えたいことがあります。

「悪気のない」人との関係に悩むとき、多くの人は自分を責めてしまいます。
「もっと上手く対応できれば…」
「自分のコミュニケーション能力が足りないから…」
「相手は善意でやってるのに、私が気にしすぎなのかも…」

そうではありません。

あなたには、心の平安を守る権利があります。
相手の善意を受け止めながらも、自分の領域を守ること。
それは、決して身勝手でも、協調性がないわけでもありません。

むしろ、適切な距離感を保つことは、健全な組織づくりの第一歩です。
なぜなら、一人一人の境界線が守られてこそ、本当の意味での協力関係が築けるからです。

今日から、あなたも水のように。 時には静かに流れ、時には大きな流れを作り出し。
けれど決して本質は失わず、自分の道を進んでいってください。

相手の善意も大切です。 でも、あなたの心の平安はもっと大切なのです。

さあ、今日からは少し違った視点で、職場の人間関係を見つめ直してみませんか? きっと、新しい景色が見えてくるはずです。

参考文献

『なるほど!「孫子の兵法」がイチからわかる本』現代ビジネス兵法研究会著


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