
Yeah! (遺影)
父方の祖母が亡くなったとき、その遺影が、親戚一同をざわつかせた。
「誰なの、あの写真?」
「ぜんぜん雰囲気が違うよね」
「知らない人みたい」
「本当にうちのおばあちゃんなの?」
するとついに誰かが「宮沢りえにそっくり!」と言うのであきれてみんなで笑ってしまった。それぐらい、遺影の中の祖母は別人の顔をしていたーー。
生前の祖母は、畑や海女の仕事で真っ黒に日焼けして、髪は真っ白で、化粧などは生まれて一度もしたことなかっただろうし、貧しさのために服装もなんとなく民族的で、極めて現代的でない人だった。背が高く、痩せてたくましく、畑の向こうで立ち上がる姿は、野性的で、どこか日本人離れして見えた。奴隷のような雰囲気を持った人だった。祖母の中には強さとあきらめが同居していた。理不尽を生ききった人だ。苦痛が顔面ににじみ出ているような人だった。楽など一度も経験せずに、幸せがなんだかも知らずに死んでいったーー。
そんな祖母の人生を、全否定するような遺影だった。センスもくそもない田舎の葬儀屋の加工サービスで、あっさりと美人化 (宮沢りえ化) されてしまったのである。遺族にとってはじつにショッキングな出来事であった。(笑ってたろが)
根本に、「歳をとることを認めない」というルッキズムがある。白髪染めや厚化粧をして若作りに精を出すだけでなく、死んだ老婆の白髪をもフォトショップで真っ黒に塗りつぶして、それで人生「めでたし、めでたし」というわけだ。女優さんのように別人加工を「して差し上げる」のが死者への弔いだなんて、勘違いもどすこいだな。
私が死んだらどうなるだろう。最近、写真など撮ったことがないから、遺影用に自撮りしてスマホに残しておこうか。やはり葬儀屋なんかがしゃしゃり出てきて大盛り加工するんだろうか。
「まだ45歳ですもの、娘さん、キレイにして送ってあげましょうよ」
「明るい口紅が似合いそうですわ。それからピンクのチークで血色を出して」
「シミとしわは消しますね。たるみもちょっと気になりますね」
「白髪は塗りつぶしておきますねー。はーい」
「色白つや肌加工は別料金になりますが。やりましょう! お父さん、お母さん、是非やりましょう!」
たまらんな。死後整形だな。なんの権利があって私のこの奇跡のようにかっこいい白髪ヘアをおまえらのセンスで塗りつぶすのか。呪っちゃうぞ。
ーーまぁ、いっか。どうせ死人には関係ない。葬式なんて生きてる者の気が済めばそれでいいんだろう。