夜の鳴き声
夜中、キツネの鳴き声がうるさくて飛び起きる。なぜ鳴くんだろうね? 狩りをするにしても静かに遂行した方がよかろうに。仲間を呼び寄せてでもいるんだろうか。
窓の外を見ると、街灯にぼんやり照らされて猫の姿が見える。キツネの声にすっかり怯えてそそくさと影にまぎれてゆく。
発情した猫の声もかなりうるさいものだが、キツネの鳴き声とは比べ物にならない。キツネというのは華奢な体つきのわりに、驚くほど大音量で鳴く。かわいい声、ではない。
昔々、泣き叫ぶ我が子を母親がフライパンで焼いて食った、というサイコな事件があった。その赤ん坊の泣き声を聞いた人が「キツネだと思った」らしい。キツネの声はそんなだ。
子供の頃ウサギを飼っていたけれど、彼らは「ぷーぷー」鳴く。鳴くというほどじゃない、空気がもれる、といった程度だ。がんばっても「ぶーぶー」だ。
ネズミやタヌキの鳴き声もほとんど聞いたことがない。あまり声を出さない生き物なんだろう。いつでも仲間と離れずにいて、きっと鼻をこすり付けたりしてコミュニケーションをとるのだ。
私は、子供の頃から声を殺して泣いていた。泣いているのがバレると父親に怒鳴られるから。人のいないところに隠れて、無言でぽろぽろと涙を流すクセがついた。
今でも、びゃーびゃー声を出して駄々をこねる子供を見ると、何か別の生き物のように思える。私にはそれは許されていなかったから。
子供が泣けるということは健全なことだ。子供が泣かない家庭は一見、円満のようでいて、じつはひどく歪んでいたりする。
昔、ネットで「つぼ」を買った。プラスチック製のものであるが、内側がおそらく車のマフラーのような構造になっていて、中に向かって叫ぶと消音してくれるという代物である。「王様の耳はロバの耳!」方式である。
我ながらバカバカしい買い物をしてしまったものだとあきれているが、ときどき、キツネのように大声を出して、発狂してしまいそうになるのだ。
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