「大学の取材編」その３　（2000年代物書き盛衰記〜　ゼロ年代真っ最中に小説家商業デビューした私だがなぜか干されてしまって怪しい評論家もどきライター兼講師に？）

「大学の取材編」その３
（2000年代物書き盛衰記〜　ゼロ年代真っ最中に小説家商業デビューした私だがなぜか干されてしまって怪しい評論家もどきライター兼講師に？）

※前段
「大学の取材編」その２

２００５年４月２１日

　今日は、午後から音大に来ている。これから昔の友人を頼って、声楽のオペラの授業を見学するのだ。
　高校のときの同級生がこの音大でピアノの講師をしている、というのを以前同窓会で聞いていた。そこで久しぶりに連絡をとり、事情を話して頼むとすぐに了解してくれた。

　ちなみに、この音大の卒業生である高校時代の恩師にも、事前に相談してあった。この先生は高校教員でありながら、音楽の世界で半分プロのように活躍している人なので、筆者が小説家デビューしたことを話すと大いに喜んでくれた。その上で、小説取材と吹奏楽指導のレベルアップのために音大の授業を見学したいのだという趣旨を相談した。
　さすがに音大のOBだとはいっても現在は関係していないので、吹奏楽の指導をしている教授と親しいわけではないという。それでも、問い合わせて現在の音大の吹奏楽指導の責任者を聞いてくれた。そこで筆者は、あらかじめ手紙をその教授に出して、音大で科目履修生として学びながら吹奏楽の授業を見学させてほしい旨、お願いしてあったのだ。

　さて、音大の図書館の上にある広いレッスン室は、天井が高く壁面が鏡張りで劇団のレッスン場みたいな雰囲気だった。グランドピアノが２台あり、長机にパイプ椅子、フロアはニスを塗った板張りで、今練習中のオペラの装置がいくつか並べてある。
　この授業の学生は大学院生であり、談笑しつつレッスンが始まるのを待っている。オペラを研究発表するための授業で、プロの指揮者とピアノ伴奏２名、キャストを受け持つ大学院生が数人いて、プロ演出家の先生が指導するという仕組みだ。
　この演出家は激しい人で、歌が始まってすぐやめさせて「駄目だし」を繰り返す。演技指導でも、自ら演じてみせる。学生たちは、すっかり圧倒され小さくなっている。もしかして、この音大で一番力が入っている授業なのかもしれない。なんといっても、この大学の売りの一つであるオペラハウスで、研究発表の公演をやるのだ。
　感想をメモしつつ見学していると、休憩時間になった。高校の同級生だった講師に声をかけて、演出家の先生を紹介してもらった。そこで筆者の取材の目的を話すと、意外に興味をもってくれたようでぜひ続けて見学に来るよう誘ってくれた。
　興味津々なのは、このオペラは恋愛劇なので、学生キャストといえどもちゃんとラブシーンがあるという点だ。アマチュアでも劇団ならいざしらず、音大生たちは恋愛劇の「からみ」をどう練習しているのか？
　もちろん、プロのオペラ公演で昨今流行しているような、露出度の高い過激な演出を大学は許すはずはない。それでも、男子学生と女子学生のラブシーンをどう味付けして演じさせるのか。
　問題のラブシーン、結果から言うと確かにラブシーンには違いないが、いたって清純、一昔前の宝塚歌劇のような演出だった。このオペラのヒロインはソプラノの学生が演じており、役柄は結核でまもなく死ぬ運命にある少女だ。その恋人の貧乏詩人のみすぼらしい部屋で、彼氏のベッドに横たわって最期に愛の言葉を交わすのだが、それが長いアリアとなっている。女子学生のほうはベッドに模した台に仰向けに寝て、傍らに恋人役のテノールの男子学生が座る。ぎこちなく彼女の肩の横あたりに尻を据え、抱き起こすようにして支えている。その姿勢のままで延々と愛のアリアを歌い、最後に抱擁を交わす。
　稽古は実に力の入った場面の連続で、若々しいキャストが若者役をやるという演技無用の世界ながらも、真剣に役を演じながら、想像以上にすばらしい美声で歌う。もちろん歌はイタリア語だ。それだけでなく、台詞もイタリア語のようだ。

　そういえば、この授業を見学しながら、ふと遠い記憶が蘇った。筆者が大学生だったとき、そこは芸術系の大学で、筆者は文芸学科だったが他のジャンルの学生も一緒に同じキャンパスで学んでいた。語学で第２外国語をイタリア語にした筆者は、授業で大層難儀したが、同じイタリア語の授業を受けていた学生には、音楽学科の声楽専攻の学生が多かった。今にして、オペラ・声楽を学ぶ学生は当然、イタリア語をしっかり学ぶ必要があったのだ。

２００５年４月２２日