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ここまでわかった犬たちの内なる世界#27 犬の攻撃性③〜 犬/人 知りたくない報告
文字数 約3500字
犬が攻撃的な行動を示す理由は何ですか?
犬の飼い主が直面する最も重要な問題の1つです。答えを見つけられないと、 潜在的な虐待、ネグレクト、さらには飼育放棄されガス室送りになるといった悲痛な結果を招く可能性があります。
あなたが犬に関心があるなら、攻撃的な行動と反応的な行動の違いを理解することはmustです。まだお読みでない方はぜひ一読を。
今回のコラムでは、犬/人の攻撃性について、興味深い(そして恐ろしい)データを拾っていきます。 ぜひ最後までお読みください.。
4923
何の数字かわかりますか?
数字だけを投げられても難しいですよね。それではヒントです。
ヒント①日本国内で1年間に起きたあることの統計上の数字です。
ヒント②この統計は環境省のデータです。
察しがつきましたか?
話を展開するにあたり、 読者の皆さんと共有しておきたいのは、次のことです。
潜在的には、どんな犬も咬みつく危険性を持っている
環境省の統計資料によると、2022年度の犬による咬傷事故は全国で4923件発生しており、そのうち3019件が公共の場で起きています。
(このデータは、都道府県・指定都市・中核市の合算です)
というわけで、犬による咬みつき事故の件数です。
これはあくまでも環境省が把握している(行政に報告された)件数です。おそらく実際には、この数十倍起こっていることでしょう。
この統計データを見ると、人以外の動物に対する咬傷が相対的にずいぶん少ないことに気づくでしょう。これは動物同士の事故は報告されないから、と容易に想像できます。
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子育て中の母犬 に人が接近した場合、防御的攻撃行動を示す可能性は少なくない。
実際、 犬による咬傷 は、悩ましい問題です。
行政書士らで構成する「動物法務協議会」(関西支部)によれば、相談を受けるペット関連のトラブルの約半数は犬の咬傷 事件だといいます。
ありえないはありえない
咬傷事件で記憶に新しいのは、 ちょうど1年前に起きた群馬県伊勢崎市の事例です。報道によると、 市内の公園で、子どもから大人まで合わせて12人もの人が立て続けに犬に襲われ、そのうちの男性1人が全治1カ月の重傷を負っています。
咬んだのは2歳の雄の四国犬で、人だけでなくトイプードルも襲われ死亡したようです。マスコミの取材を受けた飼い主は、「なつっこい犬で、人間に対して咬むということはありえない」と話していたそうです。
庭のフェンスを乗り越えて外に出たようですが、 うちの犬が人に咬みつくことはないという飼い主の安易な思い込みが、災いを招いたとも言えるのではないでしょうか。「ありえない」はありえないのです。
犬に咬まれる確率
世界保健機関(WHO)のサイトでは次のような記述があります。
犬に咬まれた発生率の世界的な推定値はありませんが、研究によると、犬に咬まれたことが年間数千万人の怪我の原因になっていることが示唆されています。例えば、アメリカ合衆国では、毎年約450万人が犬に咬まれています。低所得国と中所得国のデータはより断片的ですが、いくつかの研究では、犬が動物の咬傷の76-94%を占めていることが明らかになりました。
米国では毎年50人に1人
DogsBite.org によれば、米国では毎日1000人近くが、犬に咬まれたために病院の緊急治療室で治療を受けています。1年間でアメリカ人が犬に咬まれる確率は、50分の1だと試算されています。
年間で何人の人が犬に殺されているのか
と疑問に思っているなら?
犬の咬傷事件を扱うロングアイランドの弁護士が、あなたの質問に答えるために、憂慮すべき統計をまとめています。
疾病予防管理センター(CDC)のデータベースによると、2018年から2022年にかけて、324人が犬の咬傷が原因で死亡しました。米国では、この5年間、毎年平均65人近くが犬に殺害されたということです。
CDCの統計は、乳児、子供、高齢者は致命的な犬の攻撃を受けるリスクが高いことを物語っています。
ニュースになった死亡事故: 日本の事例
日本では死亡事故に至るのは、統計を見る限り極めて稀ですが、 大きなニュースとしてマスコミにとり上げられることもあり、 飼い主の責任が問われています。
近年の事例では、 2020年富山市の住宅の敷地内で、生後11カ月の男児がグレート・デン2頭に咬まれて死亡しました。祖父がフードの皿を回収するために、男児を抱えて庭に出たところ、襲われたということです。死因は頭部骨折による出血性ショックだったそうです。
乳幼児の致命傷の事例に
警鐘を鳴らす日本の小児科医
米国と同様に乳児や子供の被害が目立っています。乳児が致命傷を負う事例について、 小児科医が警鐘を鳴らしています。日本小児救急医学会の報告によれば、救急搬送された4カ月齢の男児が輸血され、精巣の摘出手術を施されて26日間入院したという事例があります。咬みついたのは、 2歳の雌のミニチュアダックスフンドだということです。
他の事例も報告されていますので、詳細はリンク先をご覧ください。オーストラリアでのガイドラインも紹介されています。
誤解がないように補足しておきますが、 これまで蓄積されている研究によれば、子供への咬み付きは、一般的には顔と首に向けられます。
犬/人の攻撃性の背後にある要因とは?
~ 9000匹以上の大規模リサーチでわかったこと
次に紹介するのは、有名な研究なので、ご存知の方も少なくないと思いますが、犬の人に対する攻撃性の背後にある最も一般的な要因が特定された研究として、押さえておくのがmustだと思いますので、ふり返っておきます。
フィンランドのヘルシンキ大学の科学者たちは、攻撃的な行動を評価するために、9,270匹の純血種の犬の行動をオンラインアンケートをもとにリサーチしました。
これまで行われた同類の研究の中では、最大規模のリサーチです。
この調査は、犬/ 人の攻撃性に限定しているのが特徴です。
この研究では、「頻繁なうなり声、 咬もうとする、 実際に咬む」を「攻撃的な行動」とみなしています。この基準にもとづいて、犬の約5分の1(1,791匹)が人に対して頻繁に攻撃的であると分類されました。犬の平均年齢は4.6歳で、2カ月齢から17歳の範囲でした。
特定された要因をリストにすると、以下のようなもの。
恐怖。怖がりな性質の犬は、そうでない犬よりもはるかに攻撃的に行動する傾向が強い(5倍以上の確率)。
痛み。攻撃的な犬の中には、股関節形成不全などの病状を持っている犬がいる。痛みを抱え、健康を損なっている。
年齢。 年配の犬は、若い犬よりも攻撃的な行動を示す傾向が強かった。
性別。オスの犬はメスよりも攻撃的であることが判明した(これと矛盾した 以前の研究もある)。
サイズ。研究では、小型犬は中型犬や大型犬よりも攻撃的な 行動を示す傾向が強い。中型犬と大型犬に目立った違いはない。
環境要因。他の犬がいない家庭に住んでいる犬、および飼い主が以前に犬を飼ったことがない犬は、同居犬や経験豊富な飼い主がいる犬よりも攻撃的行動を示す機会が多い。
皆さんならこの要因をどう説明されるでしょうか?
恐怖を感じていたり健康上問題があって苦しんでいる犬が、健常な犬より攻撃的な行動を示しやすいのは、説明不要でしょう。
年配の犬が若い犬より攻撃的な行動を示すのは、なぜでしょうか?
痛みを引き起こす病気に苦しんでいるからではないか。 これも察しがつくでしょう
多頭飼いの犬より単独で飼われている犬の方が、攻撃的行動を多く示すのはなぜでしょうか?
自宅に先住犬がいれば、その先住犬を見習うことはよくあります。 社会化がされやすくなるのです。 経験豊富な飼い主は、おそらく社会化の重要性をより理解して犬と付き合うのではないでしょうか。また、身近に犬仲間がいることで 精神的に安定しやすい(仲が悪ければそうはいきませんが)という要素もあるでしょう。
あるいは、研究者が考えているように、複数の犬で、飼い主の注意を引こうと競い合い、行儀の良い犬が、より多くの注目を集めるという要因も考えられます。
裏返しの原因もあるかもしれません。
攻撃的な行動を起こしやすい犬と暮らしている飼い主は、他の犬と衝突するリスクを冒したくない。 だから2頭めは考えないという可能性もあります。
しかし、なぜ小型犬が中型・大型犬よりも攻撃性を示す割合が高いのでしょう?
興味深い謎解きですが、この点については、他の データも読み解いた上で考えたいと思います。
☞続編があります。近々に投稿します。
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参考文献
The changing epidemiology of dog bite injuries in the United States,
How Many People Are Killed By Dogs Each Year?|ROSENBERG & GLUCK, LLP
Aggressive behaviour is affected by demographic, environmental and behavioural factors in purebred dogs|scientific reports 2021
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ここまでわかった犬たちの内なる世界 第3期
全10話 + α(まだ完結していません) 逸話的証拠と科学的データを統合させるというコンセプトは、 従来(第1期、第2期)と同様ですが、 …
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