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ここまでわかった犬たちの内なる世界 #21 忠誠心と英雄的行動

割引あり

最終更新 2024/10/22

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イヌには忠誠心があるに違いない。
ときには自己犠牲的なふるまいをして飼い主を救い出すこともある。

こんなふうなイメージで、イヌをとらえている人は少なくないようです。
このコラムを読み始めたあなたも、そのうちの一人でしょうか?

これには、「忠犬ハチ公」の物語や、日本でも繰り返し放映されたテレビの人気ドラマ「名犬ラッシー」が影響しているのではないでしょうか。
亡くなった主人を渋谷の駅前でいつまでも待ち続けたという秋田犬ハチ。離れ離れになった家族のいる故郷を目指し、何百マイルもの家路を辿ったり、 身体からだ を張って主人を守ったりするコリーのラッシー。いずれも “犬の忠誠心 “を鮮やかに印象づけたキャラクターといえます。

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昨今はラフ・コリーより小ぶりなシェットランド・シープドッグがポピュラーだが、
1960年代の日本ではラフ・コリーの人気は高く、筆者の近所でもよく見かけた。
一般に「コリー」と呼ばれることが多いが、正式な犬種名はラフ・コリーである。 

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犬の「忠誠心」は私たちを励ます

 
イヌが忠誠心を発揮し、飼い主を助けたという話は、数世紀前から数多あまた 報告されています。窮地の飼い主を救い出した近年の事例の中でも、機転を利かせた見事さで際立っているのが、アラスカのアンカレジに住むジャーマン・シェパードのバディーでしょう。

Source :Raw Video: Dog Leads Police to Fire | Associated Press

パトカーに取り付けられたビデオカメラの映像には、暗闇の雪道を疾走するバディーが、パトカーがついてくるのを確認した上で火事の現場にたどりつくまでの様子が収められていました。

2010年冬のある日、ベン・ ハインリッヒさんが自宅でくつろいでいると、火の手が上がっていることに気付きました。ベンさんはすぐに警察と消防に通報しましたが、なかなかやって来ません。火はメラメラと燃え広がっていきます。

困り果てたベンさんは、「助けが要るんだ!」とバディーに向かって叫びました。バディーは一目散に家を飛び出し、通りに出ました。

同じ頃、ベンさんの隣人からの救助要請の電話を受けたものの、約75マイル(1マイルは、1,609m)の裏道があるキャズウェル湖地域で火事の現場を見つけるのに苦労していた1台のパトカーが、通りを走っていました。

番地確認のために警察官のビル・アンダーソンがパトカーを停車させると、大きなイヌが駆け寄ってきました。目の前のイヌは激しく吠え立てます。

吠えた後にクーンと鼻声を上げたかと思うと、訴えるような目つきでビルを見つめました。イヌはそれから一声吠えると、もと来た道を引き返し始めました。

パトカーは止まったまま動きません。バディは再び、ビルの近くに行き、いっそう激しく吠え立て、鼻声で啼きました。ビルの目には、その様子が「ボクといっしょに来て!」とイヌが訴えているように写りました。

(ひょっとしたら、このイヌは火事の現場から来たんじゃないのか。家の中に残された人が窮地に置かれているので、助けを求めているのかもしれない)

そんな考えがよぎったビルは、パトカーでイヌを追尾し始めました。

数分後。燃えている自宅で悪戦苦闘していたベンさんの目に飛び込んで来たのは、パトカーを引き連れた頼もしいバディーの姿でした。

パトカーが到着して間もなく消防車が現れました。火は消し止められ、ベンさんは手に軽いやけどをした程度ですみました。

 バディー はとても勇敢なイヌで、ベンさんが釣りをしている際に2回クマを追い払ったという武勇伝の持ち主ですが、 特別な訓練は受けていなかったそうです。

この話はニュースになり、「飼い主の危機を救った英雄」として全米で大々的に報道されました。バディーは、警察から表彰を受け、ごほうびとして特大の骨を贈られています。

いやはや、思わず拍手喝采したくなるような活躍ぶりです。

こうした飼い主の命を救うイヌの話は、人々を魅了します。 マスコミも嬉々として報道します。つい先日もガーディアンが‘Good girl and true hero’と銘打って”犬のお手柄話”を配信しています。

「当局によると」という注釈付きながら、 この記事によれば、ギタ(Gita)というイヌは ワシントン州の田舎の自宅で転んで何時間も起き上がれなかった飼い主を救っています。ギタは通りまでひとりで行き、地元の保安官代理がやって来るまで道の真ん中に居座り続け、 保安官代理を負傷した飼い主がいる自宅まで導いたということです。

とっさの判断で機転を利せた犬の頭の中には、どんな発想があったのだろうか?


さて、イヌが飼い主を救ったという英雄譚 えいゆうたんを紹介するに留まらず、そのときイヌの”内側”で何が起こっていたのか。 それを考えてみようというのが、当コラムのコンセプトです。このニュースについては、 次の点が気になります。

イヌが「この緊急事態は誰も見ていないから、誰かに知らせなければならない」と認識していたか

イヌは「知らせればその人が協力して助けてくれるかもしれない」と推測していたか

バディーの場合は、「助けが必要なんだ」と言われて、外に飛び出しパトカーを見つけて先導しています。

バディーが「助け(help)」という言葉の意味を知っていたかどうかは不明ですが、 着目すべきは、言葉の意味を知っていたか知っていなかったかにかかわらず、「誰かに知らせなくちゃ。そうしないとこの緊急事態を乗り切れないぞ」と直感し、事態打開のために頼りになると思われるパトカーを選択したという点です。

ところで忠誠心って何だろう?


忠誠心という言葉が発するイメージは、人によってとらえ方が違います。

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