ここまでわかった犬たちの内なる世界#02補足〜野良犬も人間の意図を見抜く?
一般に「野良犬」と呼ばれるイヌたちの中には、実に巧妙に人間の近くに住みつき、食料を確保しているものたちがいる。写真はインドのケララ州トリヴァンドラムで撮影
世界には、 そこに訪れた者に、人間社会に溶け込んでいるかのような印象を与える 野良犬たちの姿を垣間見られる地域があります。それが最も顕著な国のひとつが、インドです。これは、筆者の体験的実感です。
筆者は、野生のトラの撮影を主な目的として、2000年以来、インドを頻繁に訪問してきました。 その過程でインドの至るところに赴き、イヌを観察し撮影もしています。 おびただしい数の野良犬にも遭遇しました。
インドのアーグラの世界遺産タージ=マハールで撮影。まるで静かに祈りを捧げているかのようなイヌたちの佇まいが印象的だった
▼このツイートでは、インドの野良犬の日常の一コマを見ることができます。
多くの人々の共感を呼んでいるようです。
しかし、インドの野良犬たちの現実には、交通事故に遭うリスクが高いというネガティブな側面もあります。
南インドのケララ州で活動するインターナショナル・アニマルレスキューのイギリス人スタッフから直接聞いた話では、交通事故により重体になったり歩行障害が出たりしても、 治療を受けることなく、死ぬまで苦しむイヌも少なくないということです。この団体は野良犬を減らすために、不妊手術に取り組んでいるといいます。
世界には3億匹ほどの野良犬がいるといわれ、そのうちの10パーセントに当たる約3000万匹がインドにいると推定されています。このイヌたちの多くは、あるときはゴミ箱をあさり、またあるときは人に食べ物をねだって生きています。
野良犬も人間のジェスチャーを理解する
最近、このインドの野良犬についての興味深い研究が報告されました。
結論から先に言いましょう。人に飼われたことのない野良犬にも人間のジェスチャーを読みとる能力があることが実験で示されたのです。
研究チームは、インドの西ベンガル州の数都市で、単独行動の野良犬160匹を対象に実験を行ないました。あらましは以下の通りです。
【動画】実験の様子を撮影したデモビデオ。素早く実験者のハンドサインに従って食べ物を確保している|アップロード元: Debottam Bhattacharjee
【動画】どうすべきか判断がつきかねて逡巡し、容器に近づけない野良犬もいるSouse : A free-ranging dog showing fearful behaviour towards an stranger human providing dynamic distal cue
この実験は、野良犬が、指差しをする人間の意図を察したことを示唆しています。
さらに注目すべきは、瞬間的な指差しのときも、ずっと指差しがされていたときも、イヌたちは同じように指示された器の方に近づいて行った点です。指差し時間の長短はイヌたちの行動に影響を与えなかったということです。
個体によって、人のジェスチャーへの対応が大きく異なるのは、普段の人間との距離感の違いが影響しているのではないでしょうか。
たとえば、人から食べ物を日常的にもらっているイヌなら指差しのようなハンドサインを読み取る確率はグッと増すことでしょう。
この実験をもって、イヌたちは「生まれつき」人間のハンドサインを読みとる能力を持っていると評価する意見もありますが、それは短絡的な見方と言わざるを得ません。
少なくないインドの野良犬は、いわば人々と「共生」して生きています。
その個体の日常的な人間との接触の程度がどうなのかという社会化を考慮して、この研究結果をとらえるべきでしょう。
参考画像:ベトナム中部のホイアンで撮影。民家の玄関先で休息する野良犬と思しきイヌたち。文字通り街に溶け込んで生活している
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ここまでわかった犬たちの内なる世界 第1期
127匹のイヌたちと寝食を共にするように暮らし、6万㎡の牧草地をフィールドに“半放し飼い“のイヌの群れをつぶさに観察した筆者が、イヌをめぐ…
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