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ここまでわかった犬たちの内なる世界 #29  犬の攻撃性⑤〜見知らぬ人への攻撃性〈後編〉

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最終更新 2025/02/24 〘犬たちの感情生活 : 自分の感情への対処の難しさ〙の項 見出しタイトルの変更と内容の修正。

前編では、見知らぬ人への攻撃性はどんな行動で表現されるか、その根本原因は何か、について科学的研究も紹介しながら探りました。
この後編では、犬の感情生活についてフォーカスしつつ、見知らぬ人への攻撃性にどう対処するか、そのヒントをご紹介します。

↓前回のコラム↓



💁🏼きょうは長文を読むスタミナがないぞという方は、最初を飛ばして、目次の中盤の【犬のボディランゲージを学ぶ】をクリックしてそこからお読みください。

犬たちの感情生活 : 自分の感情への対処の難しさ

シリーズ『ここまでわかった犬たちの内なる世界』 では、犬が知性的な生き物で あること、 その感情生活は 一般に考えられている以上に豊かであることを筆者なりにつまび らかにしてきました。

見知らぬ人への攻撃性の「対処法」についてお話する前に、その感情生活にこれまでとは少し違った角度からスポットを当ててみたいと思います。
今回は、犬の感情生活の中のギャップ (のようなもの)について考察します。

「何も怖がる必要はない」と

自分に言い聞かせて、気持ちを落ち着かせることができない犬たち


犬と暮らしていれば、その感情生活の中に、 おおらかさや寛容性を垣間見ることができる一方で、衝動性や反応性が浮き彫りになるような場面を見かけることがある。 筆者にはそんな実感があるのですが、皆さんはいかがでしょうか?

↓ 反応性について解説した記事 ↓

この点に関連して、ジョン・ブラッドショーが『 犬はあなたはこうを見ている』(西田美緒子訳、河出書房新社)の中で興味深い記述をしています(太字は筆者による)。

「 犬の感情を読み取って理解するのが苦手なのは、飼い主だけではない。犬自身も、自分の感じていることを冷静に振り返る力がないので、自分の感情にうまく対処できない。感情が洗練されていないために、感情の種類が乏しいばかりか、恐怖のような単純な感情でさえ理由をつけて沈めることができない。人間とは違い、何も怖がる必要はないと「自分に言い聞かせ」、 気を落ち着けることができないのだ」
さらに続けます。
「感情的な自制がよくきかないことは、犬の幸福に現実的な結果をもたらす。犬は「自分で気をとりなおす」ということができない。経験のない出来事が突然起こると怖がる本能を持っているので、出来事を自分なりに理解できないと、その出来事は自分に無関係だとみなして、見すごしてしまうことができないのだ

「 本能」 という言葉をここで安易に使っているのは気になりますが、それはさておき、以上のくだりは、 かなり核心をついているように思います。
犬には著しい個体差があるので、一概には言えませんが、自分の感情をコントロールするのが、人間よりも苦手なようです。 特に、いったん 恐怖に取り付かれると、それを払拭するのが難しくなる犬は少なくありません。

(一部の)犬たちの感情生活には、自分の感情の抑制がきかないという” 脆さ”が潜んでいるのです。 さらに言うと、犬によって強弱はあるものの、 経験のない出来事が突然起こると怖がる傾向は、かなり顕著に現れます

未経験の出来事が突然起こると

小さなことでも怖がる犬

 筆者の観察例をあげておきますね。

攻撃性をテーマにした最初のコラム#25で、デビーという暴れん坊の犬が引き起こした事件について書きました。 あの記述からは信じがたいかもしれませんが、このデビーについてはこんなエピソードがあります。

ある時、知人にプレゼントされた(かなりリアルな) トラのぬいぐるみを使って、ちょっとした実験を試みたことがあります。 豆柴くらいの大きさです。

前提として、牧草地の犬たちは 「ぬいぐるみ」になじみはなく、かれらにとっては” 新奇なもの”です。その” 新奇なもの”を中空に掲げて、勢いをつけ、 犬から2メートルほど離れた位置で、トラの顔が犬に正対するような感じで振ったことがあるんです。

筆者の単なる好奇心から 試みたことなんですが、 その場に数頭いた犬の中で、意外なことにデビーがいちばん「ビビって」いました。吠えることはなかったのですが、その反応たるや、吠えることも「忘れるほど」 驚きおののいた表情としぐさを見せたのです。

ちなみに、その場にいた当時1歳に満たないロンドは、平然としていました。はあ、お兄さん何やってるの?という反応でした (笑)

この2頭の犬の反応の違いは、 それぞれの性格の違いもありますが、筆者との絆の 強さの違いが反映していると思います。 生まれ落ちた瞬間から見守り、”手塩にかけて” 育てていたのが、ロンドです。 筆者が突飛なことをしても(新奇なもので 「脅かし」ても)、何ら脅威を感じなかったのでしょう。

ここで、筆者が強調したいのは次の点です。

✅攻撃性や反応性を考える場合も、 犬の感情生活の様々な側面を考慮に入れる(よくわからなくても探ってみる)、 不用意に単純化しない。

✅未経験の出来事に突然遭遇すると非常に怖がる犬がいる、という点を押さえておくことは特に重要だ。これは攻撃性の対処法にも関わってくる。

見知らぬ人への攻撃性にどう向き合うべきか、について話を進めます。

犬のボディランゲージを学ぶ


まず必要なことは、犬たちのボディランゲージを学ぶことです。
本来、見知らぬ人に対して攻撃性を示す示さないにかかわらず、 犬と付き合う上で、 最も大切なことの1つは、かれらのボディランゲージを読む(読もうと努力する)ことなのです。

以下は、筆者がリスト化した攻撃性に関連したボディランゲージの基本形です。
理解の一助になれば幸いです。

                                                                 『 図解雑学 イヌの行動 定説はウソだらけ』p179 より転載

解説をしておきますね。

犬は恐怖感や攻撃的な気分を抱いたとき、 被毛を逆立てることがあります。 自分を大きく見せ、視覚的に相手を威嚇する効果があるのです。

  • 首と背筋の毛が逆立っている→威嚇の段階です。

  • 背中全体と尻尾の毛を逆立てる→怒りがピークに達したサインです。 目の前の相手が退散しない場合、実際に攻撃を仕掛ける可能性があります。

上のイラストで示した2つのパターンを見比べてください。

✅体をこわばらせたまま、四肢を踏ん張り、尻尾を上げる
「あなたの出方しだいでは咬み付く用意がありますよ」というサインです。
体は直立させるか、やや前に乗り出します。静止したまま相手を睨みつける、または凝視したままゆっくりと前に進みます。
自信のある犬は、相手が攻撃的な応対をしない限り、たいてい威嚇だけで終わらせます。

✅体を低くして、尻尾を両脚の間にたくし込む
強い恐怖を感じる特定の相手が近くにいるときに見せるしぐさです。
体を極端に低くして、耳を後ろに引き、鼻の下にしわを寄せます。犬歯を見せることもあります。このしぐさは「服従」を示しているわけではありません。
できることなら逃げたいが、逃げると逆に攻撃されてしまう恐れがあるので、どうすべきか混乱している(or戸惑いながら威嚇している)葛藤した心理状態を反映したしぐさです。

🔻詳しく学ぶためのリンク
犬のボディランゲージについて、 信頼性があって、詳細かつわかりやすく解説されているのが、以下のサイトです(英文)。

肯定的な連想を作り出すテクニック

見知らぬ人(あるいは見知らぬ犬)への攻撃性を示す場合の対処法として、ポジティブトレーニングを実践するドッグトレーナーがほとんど例外なく推奨するのが、 カウンターコンディショニング(Counter-Conditioning)と呼ばれるテクニックです。特に、恐怖に関連した攻撃性に効果があるといわれています。

カウンターコンディショニングは、 犬の行動を変えるのではなく、感情を変えるためのテクニックです。

攻撃性を示すトリガー(見知らぬ人)に肯定的な関連付け行なうことで、トリガー(見知らぬ人)に抱く犬の感情を変えるのです。いわば”逆条件付け”です。 

具体的に何をするのか? 
ポイントを述べます。

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