ようこそ! 犬たちの内なる世界へ
noteマガジン『ここまでわかった犬たちの内なる世界』の扉を叩いてくださり、ありがとうございます。
最初におことわりしておきますが、このnoteマガジンは、犬の飼い方やトレーニングのガイドブックではありません。
筆者なりに重ねた観察に基づき、動物心理学の今日の知見も視野に入れながら、ときに仮説を交えつつ、タイトルに示したとおり、イヌの意識や心理を探ろうというものです。
飼い主にとっての共通の謎
手始めに、次のチェックシートをご覧ください。
項目ごとに「NO」と思う場合は、チェックを外してください。
何個チェックが外れましたか?
獣医師やドッグトレーナー、あるいは科学者が何を言うかにかかわらず、このnoteマガジンに関心を持つあなたのような人なら、おそらく一つもチェックを外すことなく、読み進めていらっしゃることでしょう。
しかし多くの飼い主にとっての共通の謎は、次のことです。
イヌはどのようにして世界を見て、何を考えているのだろうか?
謎は広がっていきます。
イヌは何を知っていて、何を知らないのか?
こんな疑問を抱けば、たちまち私たちは壁に突き当たります。
私たちには、決してイヌの心の中を覗くことができない。
イヌたちの生きている世界は私たちの側にだけあるのではない......
しかし幸いにも、私たち人間は、自分以外の者に自分を置きかえて考える能力を持っています。
犬の心で考えるために必要だった『少し特異な体験』
筆者は以前、6万平方メートルの敷地を有する八ヶ岳山麓の牧草地をフィールドに「半放し飼い」のイヌの群れに密着しました。127匹のイヌたちとともに寝食を共にするように暮らし、少なくとも4000時間にわたってその行動をつぶさに観察することができました。
大部分がゴールデンレトリーバーで、他にラブラドールレトリーバー、アイリッシュ・セター、コッカー・スパニエル、ビーグルなどが混在した群れです。
広大な牧草地の周囲4km四方には、民家が1軒も存在せず、「半放し飼い」状態も可能だった
牧草地で生まれた子イヌたちが初めて見る雪の中で遊ぶ
牧草地のゴールデンレトリバーの幼犬がミニチュアシュナイザーとあいさつを交わす。牧草地の一角はドッグパークになっていて、いろんな犬種の訪問客がやってきた。このフィールドで80犬種、3000匹近くのイヌの行動を観察することになった
自由になったイヌたちが見せる様々な行動から、自分の想像をはるかに超えた多くのことを学ぶことができました。
イヌはどんなふうに時間を過ごすのか。イヌは何がしたくて、何をしたくないのか。仲間とどのように交流するのか。
また、イヌたちにはそれぞれ豊かな個性があり、個体差がすこぶる大きいことを知りました(今のところ筆者は犬種差より個体差のほうが大きいと思っています)。
この体験を通して強く感じたのが、イヌであるとは、どのようなことかを学ぶには、自分自身がイヌになろうとしなければならないということです。
言い換えれば、イヌの視点を取り入れるということです。
八ヶ岳の牧草地で見聞したことは、幸いにも『犬は「しつけ」で育てるな!』(築地書館)という本にまとめることができました。
「擬人化」のポジ要素
その後、ドイツやオーストラリア、インドなど海外でも観察を重ね、『 そうだったんだ! イヌの心理学 』(日本文芸社)などイヌの心理や行動についての本をのべ5冊、写文集を2冊上梓しました(📙著作リストは、こちらを)。
南インドのアラビア海の浜辺で、当地に移り住んだドイツ人の伴侶犬(左)と元 ストリートドッグの保護犬(右)が楽しそうに遊んでいた。 保護犬はカメラ目線だ。ケララ州コヴァーラム・ビーチで撮影
イヌが何を考え、何を感じているかを理解するのに、観察に代わるものはないというのが、筆者のスタンスです。ここ数年、撮影を兼ねて意識的にイヌたちの“社交場”へ向かい(パンデミック以降は、控えていますが)、観察を続けています。
イヌたちにはそれぞれの物語がある。この2匹のイングリッシュ・セターは元猟犬。ハンターに用済みにされ山に置き去りにされたところをレスキューされた。
東京都内のドッグランで撮影
ここまで読んで「観察の大切さはわかるが、結局、イヌを擬人化したいのでは?」と受け止める人もいることでしょう。
この点については、以前上梓した本の中でも述べましたが、イヌのような知性を備えた動物の意識について書こうと思えば、ある程度の「擬人化」は避けられないのです。人間の経験に引きつけて動物のことを考える態度こそ、実は、動物を理解する道を切り拓いてきたのではないでしょうか。
もちろんイヌには、人間とは異なるイヌ特有の心の動きがあります。人間の心の動きを安易にイヌに当てはめてイヌを理解しようとするような態度は慎まなければなりません。
イヌが科学を虜にする時代
イヌの心にまつわる科学の到達点にも目を向ける必要があります。
2000年代に入り科学者たちはイヌについて本格的に研究し始めました。従来は類人猿を対象にしていたものの、イヌの内的世界が彼らの想像以上に奥深いことに気づき、イヌの意識の研究をライフワークにしている科学者もいるくらいです。
2005年あたりからイヌの意識や認知に関する科学論文が増え始め、イヌの脳機能には人間と似た部分が少なくないことも明らかになっています。
イヌにMRIを受けるように訓練し、脳をスキャンしてイヌの考え方を理解しようとする科学者も現れています。
このような試みも含め、注目すべき研究も少なくありません。
しかし科学者たちの研究の大部分は、「研究室」という特殊な空間での限られた個体を対象にした実験に基づいたものです。動物にはそれぞれの種の特性や行動レパートリーがあります。科学者が動物の意識を調べようとするなら、その特性や行動レパートリーに配慮した方法で研究を行なうべきです。
ところが、イヌの行動レパートリーにそぐわない「無茶振り」ともいえる実験が行なわれている場合もあり、そうした研究「成果」を鵜呑みにするのは危険です。
情報を分析し、適切に評価することが求められます。
このNoteマガジンでは、取り上げるテーマに沿った科学的な研究については、随時ピックアップしていきますが、「こんな研究があるんです」的な紹介を極力避け、必要に応じて筆者なりの評価や見解も明らかにしていきます。
心の探究へのナビゲーション
Noteマガジン『ここまでわかった犬たちの内なる世界』のコンテンツは、以下のような並びになります。
各コンテンツは順次投稿していきます。
事前のことわりなくコンテンツの題目を変更したり、順序を入れ替えたりすることがあるかもしれませんが、大筋はこの線で行きます。
まだまだ謎だらけですが、イヌの心の探究は、20年前に比べればアプローチしやすくなったことは確かです。このテーマで文章化するには、今がちょうどいいタイミングかもしれません。
とはいうものの、正直な話、Noteマガジン『ここまでわかった犬たちの内なる世界』の執筆に挑むことは、筆者にとって簡単なことではありませんでした。
何度も中断し、挫けそうになることもありました。おそらくこれからもそうでしょう。
書くからには、できるだけ完成度の高いものを目指しますが、完璧なものはもちろん書けません。時には修正を余儀なくされることもあるでしょう。
イラストは今回も片岡朋子さんが書いてくださりました。この場を借りて感謝の言葉を述べさせていただきます。
このNoteマガジン『ここまでわかった犬たちの内なる世界』がイヌという生き物の面白さをますます実感する一助になれば、筆者にとってそれに勝る喜びはありません。
さあ、イヌの魂を探す旅に出かけましょう。
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ここまでわかった犬たちの内なる世界 第1期
127匹のイヌたちと寝食を共にするように暮らし、6万㎡の牧草地をフィールドに“半放し飼い“のイヌの群れをつぶさに観察した筆者が、イヌをめぐ…
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