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三十連発、やけどするぜ! <前半> #創作大賞感想

 お暑うございます。
 って、創作大賞のこの熱気が一因じゃないかと思ったりします。

 すごいですね、すごい! っていう作品のオンパレード。
 今年はできるだけたくさん、読みたいなと思っておりました。お仕事でもモニターと睨めっこ、という方、多いと思いますけれども、私もご多分にもれず。これは本業に支障をきたすぞ、というレベルで眼精疲労が半端ない。老眼鏡とハヅキルーペと、あずきのチカラ(商品名)とストレッチで乗り切りました。
 読了した小説、三十作品+自分の作品を、ご紹介いたします。エッセイも結構読んだのですが、ピックアップしてなくて。
 知らないところにも、たくさん傑作があるんだろうと思いながら、相互フォローとか、私の作品を読了してくださった方とかが主になります。これはもう、noteの宿命というか、しようがないところがありますね。そんな中でも、はじめましての方と巡り合えたのは幸せなことでした。もし、この目次から、誰かが誰かの作品を読む、っていうことになったら嬉しいなあと思います。

 さあ、やけどしそうに熱い作品の数々、いってみよう!
 作者名五十音順です。長くなったので二つに分けまして、今回は前半をご紹介。




青豆ノノさん

 バンドとかライブ、というのは私にとってキラーワードです。それを青豆さんが書かれるというなら、もう読まないわけにはまいりません。バンドのヴォーカルに惹かれる主人公の心の内、葛藤が、声帯を手術するというヴォーカリストの一大事を挟んで、主人公の中に住まう「友人」とのせめぎ合いとして語られていきます。愛っていうのは信頼ってやつが基盤にあると思っているのですが、その観点からすれば、二人の間に流れているのはもう十分に……。
 ヴォーカリストはきっと、歌を取り戻すと私は信じています。その時二人に何が起こるでしょうね。

岩月すみかさん

 あらすじ最初の三行で、引き返せなくなります。宝石病、ですって。主人公の作文から始まる本文最初の三行でもう、吸い込まれてしまいます。設定はどれだけ奇抜であっても、描写がこれだけ丁寧で、主人公の心理のリアリティが半端なくて。こういう時、私はアリジゴクの巣を思います。この世界からもう出られない。世代を跨いでいく巧みな構成と、最後に見えた光、泣いている自分に気づきます。
 そして現実に戻ると呆然とするのです。こんなすごい作家さんおるん。

ヱリさん

 ヱリさんの筆は伸縮自在、と作品を拝読するたびに思います。このたびの応募作は、あまりにも切なくて、主人公の女性も、主人公が指名する風俗のキャストの男性も。丁寧な筆致に、レースのカーテン越しに見せられているように感情が浮かび上がってきます。エモい、ってはっきりと前面に押し出すとかえってエモさは消えますもんね。淡々と、でも確実に、波のように押し寄せる言葉に翻弄されて、大きな河に流されてしまうのです。
 これは純文学、だと私なんかは思うんですよ。

駒井かやさん

 ジャンルの得意、不得意、ってあります。書く側としても、読む側としても。でもそんなことがどうでも良くなって、没頭してしまうのが駒井さんの世界です。主人公が生を受けた背景。兄弟の中で、一人だけ通い合うことのできる姉。ファンタジーにはいくつもの暗喩があると思います。世界を丸ごと呑み込むも良し、暗喩の中に自分だけの答えを見つけるも良し。どちらも醍醐味となるでしょう。
 キツネノテブクロ、は植物の名前ですが、別名は……。これを選ぶ作者のセンスには脱帽です。

小牧幸助さん

 涙が流せないのは、どういうときなのでしょう、なぜあの時、泣くことができなかったのでしょう。主人公の抱える思いは切実です。たくさんの夕焼けの絵が飾られたカフェ、涙にかかわる仕事をするオーナー。主人公との世界軸が交わるのは、天上から誰かが見えない糸で結んだとしか思えません。癒し癒されるというのは、決して簡単なことではなく、互いが鍵と鍵穴のようになって初めて成し遂げられることなのか、と思ったりします。
 あなたはちゃんと泣いていますか。見ている絵は夕焼けだと思い込んでいませんか。

皐月まうさん

 ドラマを見ているかのように、瀬戸内の街が眼前に広がり、海の風が吹きます。食べる、というのは、身体だけではなくて心も一緒に支えてくれる。このパン屋にたどり着いた人々は、そのことを無意識のうちに知るんだと思います。そして、パンを焼くのは人なのですから、つまるところ人が人を癒していくのだと。パン屋で働きながら、主人公は気づいたのではないでしょうか、自分もいつかそういう存在となれるかもしれないことに。

椎名ピザさん

 この作品を映像化するとしたら、わたせせいぞうさんは如何でしょうか、と思いました。キーワードのリフレインが、この作品の軽妙洒脱な空気を作り出しています。太陽を緑に描いた少年時代、それを評価する大人があり、貶す大人があり、傷つけられて、でも自分も誰かを傷つけて。そのリフレインの中で主人公はらせんを描いて回っているようなのですが、それは本当はらせん階段で、確実に変化していくのです。
 ラストで、キーワードが光り輝きます。

SHIGE姐さん

 軽快で、何なら明るい笑い声が聞こえてきそうな女子高生の生活。お父さんが浮気をしているかもしれない、と探偵事務所へ乗り込んできます。ちょっとお父さん、しっかりしなさいよ! と発破をかけたくもなりますが、事態は思っているより深刻。こんな事件があったらすごく怖い、いやもしかしたら本当にあった話かもしれない、と思うと憤りにかられます。その緩急に、いい意味ですっかり騙されて、最後にほっとして。
 主人公の人生はまだまだ、これから。プリンもクッキーもいくらだって食べられる!

さわきゆりさん

 自分が生きてきた中で、山あり谷ありの部分は記憶に残りやすくて、まるでそれが人生を支配してきたような錯覚に囚われてしまいます。けれども本当は、もっと小さな揺らぎが、ほんの少しのでこぼこ道が、日常を作ってきたはずで、それが本当の自分なんじゃないか、と思ってみたりします。要らない力を抜いてあたりを見回してみると、木漏れ日のような優しい光がある。そんなことを思ってしまうのは、圧倒的な作者の筆力によるところが大きいような気がします。

水月さん

 ワープ、時間旅行、ではなくて、次元を越えていくのです。SFのようなファンタジー。別の次元に、別の自分がいたなら、会ってみたいですか。どんな生活をしているのか興味があるような、怖いような。友人はどうなっているのかしら。想像を思い切りかきたてられて、ずっと脳内無限ワープしていけそうです。連作も、無限に続いて欲しい。こんな仕掛けを考えつけるなんて、すごい。

涼雨零音さん

 心が震えるんですよ、本当に。特に音楽好きの人は倍音鳴りまくり、だと思います。別途、感想記事を書かせていただきましたので、詳しくはそちらから。

たらはかに(田原にか)さん

 犬、がタイトルに入っていたのでつい読んでしまいました。怖いです、怖いです。犬がどうなるのかしら、と思っていたら犬ってば……もう震えそうになって、怖すぎてやめようとしましたが、最後を知らないともっと怖くなるぞ、と自分を叱咤激励しながら読みました。
 でも、あそこで止めておいたのと、最後まで読んだのと、今となってはどちらが怖かったのか、わからないのです。

dekoさん

 のっけから「世界の蝶番のような場所」に掴まれて、駆け出してしまいます。空を泳ぐ魚、をいつの間にか上を見上げて探しています。自分のことを一人ぼっち、と思っていた主人公の周りに、仲間が集まってくる様は自然の摂理のようで、あるいは、昔見たアニメの、パーツが合体して生まれるヒーローのようでもあります。タイトルの「リュート」が示唆するもの、何とも心憎いです。
 なかなか解決しない問題にハラハラさせられ、ああっ! と声をあげそうになりながらのエンディング。エンタメの王道を押さえたSFファンタジー、このアイディアとスケールのデカさは、一体どこから生まれてくるのでしょうか。

トガシテツヤさん

 恋文供養人。主人公は、不思議なバーで、自分の意思とは無関係にそういうもの、になるのです。今の古紙リサイクルという仕事が、本気で望んでついたものではないのと同様に。供養人を続けていくうちに、何通りもの人生を目の当たりにした主人公は、手紙に、文字に宿るエネルギーに翻弄されながらも変化していきます。
 幻想譚のようでいて、遭難しそうな誰かを陸地へと引っ張り上げてくれるような力強さが背景を貫いているような気がします。

とき子さん

 物語の中には深刻さの要素がたくさんあって、例えばお母さんの病状、夫婦のあり方、このままいけば無神経オトコに育ちそうな弟。主人公には、フラダンスから逃げた過去がある。でもフラッシュ・モブでフラッシュ・フラダンス! 重たくなりそうなテーマを、時に笑わせ、こっちでは泣かせながら、雨上がりの陽光のような大円団の予感が漂います。フラダンスのシーンは圧巻で、目の前にダンサーがいるかのような描写に心を奪われてしまうのです。
 私にはとき子さんの筆が軽やかに踊っているように思えました。


<後半>へ続く