そのさみしさは、とてもすてきなさみしさ
12月11日になりました。
森野きのこさんのアドベントカレンダー企画、本日は穂音がお届けいたします。
さて、今日は何の日?
MWDCの日!
白いお犬、14歳になりました。ニンゲンだと72歳にあたるのだそうで、もう私などより一回りも先に行かれているのでございます。
そりゃあ、足元に及ぶべくもない。
この子は「売れ残り」だったんですが、今となっては出会いを待っていてくれたのではないか、と思います。
血統書の上では名前を「Danae」と言います。ペルセウスを産んだ女神さま。
女神さまと遊んでいたら「穂音」がうまれました。
それがもう14歳ですって。
ときどき、とてもさみしくなります。
でもそれって、
とてもすてきなさみしさ。
いいこと言うなあ、私。
と思っていたら、とっくの昔にユーミンが歌ってるんですよ。
では最後に、掌編をお一つ。お楽しみいただけたなら幸甚です。
みなさま、どうぞ良いクリスマスを。
🎄 🎄 🎄 🎄 🎄
えっちらおっちら。モミの木のてっぺんに登ったら星に手が届くかと思ったのだが。
サンタクロースがため息をひとつつくと、粉雪が舞った。
あいつのひくそりは、それはそれは早く、手を伸ばせば星に届くほどに高く走ったものだ。
サンタクロースが星を楽器にご機嫌なメロディーを奏でると、トナカイはリズムにのって更に軽やかに駈け、二人してノリノリでプレゼントを届けてまわった。
トナカイはもうすっかり老いてしまい、暖炉の前で丸くなって寝てばかりいる。せめて星のかけらでも見せてやったなら、元気が出るかもしれないのに。
サンタクロースはまた、えっちらおっちら、木を降りる。小屋から愛用のそりを出して、準備をしていると、
「お手伝いしましょうか」
ふさふさした尻尾をなびかせながらキツネが声をかけてきた。
「今年は一人で出かけようかと思ってたところさ。一緒に行ってくれたら助かるよ」
「及ばずながら、私がそりをひきます」
キツネはなかなか達者にそりを操ってくれて、おかげでサンタクロースは無事にプレゼントを配り終えることができた。
お礼にと、とっておきのミルクとクッキーを振る舞いながら、口からポロリと言葉がこぼれ出る。
「ああ、さみしいな。とても」
キツネはクッキーを食べるのをやめ、すっと背筋を伸ばして見事なお座りの姿勢をとると、言った。
「それは、すてきなさみしさ」
すてきな
さみしさ。
トナカイの、ビロードのような手触りの角。毎日ブラシをかける大きな背中、音楽に合わせて軽やかに風を切ったひづめ。
一緒に駆け回った空の向こうから響き渡る子どもたちの歓声。
キツネはキラキラ光るものをサンタクロースに渡す。
「私はトナカイさんほど、高くは走れなかったけれど。こぼれてきた星のかけらを拾うことはできました」
「なんてこった。なんてクリスマスプレゼントだ」
サンタクロースが、受け取ったかけらをトナカイの前に置くと、短いメロディーが鳴った。鼻面がそっと手に押し当てられる。とても温かくて柔らかい真っ赤な鼻面が二回、三回と。
とても幸せなさみしさ。
そう、呟いて、サンタクロースは空いている方の手でトナカイの背中をぽんぽん、とたたいてやる。
ぱちぱち、暖炉の火がはぜて。
キツネはまた、クッキーを食べはじめる。
メリークリスマス。
<了>
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pixabay by thommas68