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数学ギョウザ


 中華料理店の若旦那が誘拐された。
「レシピをネットで公開しろ」
 ライバル店の仕業だろうか。五十店舗はあるが。

「何でも出します。でもそれで店が潰れたら、倅に譲ってやれなくなっちまう」
 男泣きに泣く店主。
 犯人から着電。
「サイン、コサイン、タンジェント!」息子の絶叫。
 電話は切れた。

 ポアロに憧れる警部は、規則正しく刻まれた葱をつまむ。
「息子さんはサインを送ったのですな」
 真っ白い脳細胞には酢醤油が合うかもしれない。

 ウエーブした黒髪を白い頭巾に押し込みつつ、一人の女が厨房へ入ってきた。
 拐われる直前まで息子が仕込んでいた料理が数品。
「これがメッセージですわ」
 餃子のひだを指差す。
「三角関数をグラフに書くと波の形。ひだを波に例えたのですわ」
 朱塗りの箸を取り出し、餃子を裂く。
 中から、ライバル店の名刺が現れた。

「では、ごきげんよう」
 女は右の第五肋骨を引き抜くと、洗った箸をしまって元に戻した。

 彼女の名は、名探偵コスティーナ。


 <了>

(403字)



「名探偵コスティーナ」でお題十本、何とか完走できました!

 ご覧くださってありがとうございます。読み切りなので、どこからでもお楽しみいただけます。けれどけれど、順番にご覧いただくと、「登場人物のおかしみ」が感じやすいかもしれません。また、「コロコロ変わる名探偵」は、最終がオススメでございます! 

1.アナログバイリンガル  
2.しゃべるピアノ 
3.金持ちジュリエット
4.数学ギョウザ
5.君に贈る火星の 
6.空飛ぶストレート
7.1億円の低カロリー
8.違法の冷蔵庫
9.株式会社リストラ 
10.コロコロ変わる名探偵