長夜の長兵衛 菊花開 (きくのはなひらく)
菊酒
夜半に目が覚めてみれば隣に長兵衛が寝ておる。
そうだ、夕べ金兵衛の屋敷で馳走になり、千鳥足になったを送ってきてくれたのであった。
はて、布団を出したのは自分であろうか。
目が冴えてしまい、源兵衛は床を抜け出して表へ出ると、庵の脇にしつらえた木の台に腰を下ろす。
安兵衛のこさえた栗ご飯に、金兵衛の捌いた魚。酒は久兵衛が手に入れてくれた。菊の節句を共に過ごす酒は、この上なく旨く、ついつい。
南中に、高くまるまると月。あの色を染められるであろうか。隠居して、道楽の染め物にのめり込んでおる。反物屋の商いをしていた時分より、ずっと真摯に向き合うているのは、責任というものがないためか。
手を伸ばして、光に触れてみる。
慣れない酒が入ると、眠りが浅くなりまする。長兵衛が椀を手に、隣に腰を下ろす。
黄色い菊の花弁が二つばかり揺れて。たゆ、たゆと月の明かりが泳ぐ。
源兵衛は受け取ると、ぐい、と飲み干した。
なんとも甘い水であった。
<了>
illust AC by 八百屋
本年の菊花開は10月13日~17日頃。遅れなからも続きます!
こちらからは、ビューワー設定により縦書きでご覧いただけます。
また、以前に執筆しました二十四節気の物語と、今回の七十二候が順に並んで出てまいります。
長兵衛をお楽しみいただきやすくなっているかもしれません。
お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。