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長夜の長兵衛 七十二候シリーズ <短編小説>

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長夜の長兵衛 二十四節気シリーズに続き、七十二候のシリーズです。 短編の連作です。読み切りですので、どこからでも、お読みいただけます。全部地の文で出来ているこの世界は、一体いつ、…
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記事一覧

淡麗でも、ぶっとんでる

 みなさまごめんくださいまし。    先日、「長夜の長兵衛」を完走いたしました。詳細はこち…

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長夜の長兵衛 山茶始開(つばきはじめてひらく)

  留紺  峠の向こうで、日が傾き始めた。この調子なら、翳るまでに帰りつけることだろう。…

長夜の長兵衛 地始凍(ちはじめてこおる)

  霜柱  縄を結び終え、軒先に下げた。  壮麗でございますね。長兵衛が言うと、お内儀は…

長夜の長兵衛 金盞香(きんせんかさく)

  小春日  幹にくるり、銀兵衛は慣れた手つきで菰を巻き、縄をかける。長兵衛がもう一本縄…

長夜の長兵衛 虹蔵不見(にじかくれてみえず)

  銀杏羽  白い月の前を、ぼんやりと鱗雲が流れてゆく。ちと、鱗が大きい。雨になるのやも…

長夜の長兵衛 朔風払葉(きたかぜこのはをはらう)

  落葉衣  長兵衛っ、と、がなるのはまだ声変わりしておらぬ、男子子である。斜面に、坊が…

長夜の長兵衛 橘始黄(たちばなはじめてきばむ)

  常世草  一滴の水も出ぬほど雑巾を絞ると、目に沿って畳を拭く。  支度がはかどって、助かるぞ。久兵衛に礼を言われ、滅相もございませんと長兵衛は手をとめることなくこたえる。お相伴にあずかり、かたじけのうございます。  長兵衛の大家である金兵衛と、久兵衛は幼馴染。住まいも近く、男やもめ同士、度々酌み交わしておる。小宴の準備に駆り出されるは、むしろ愉しみである。  終いに庭へ回り、落ち葉などを掃いて整える。  橙色の夕陽に、鴉が数羽吸い込まれるように戻ってゆく。  みゃあ

長夜の長兵衛 閉塞成冬(そらさむくふゆとなる)

  寒禽 (上)    吹き降りてくるもの、舞い上がるもの、渦をまくもの。  風は様々な…

長夜の長兵衛 熊蟄穴(くまあなにこもる)

寒禽 (上) 寒禽 (下)    風が、土が、水が動くと、気、が変わる。  だからこうし…

長夜の長兵衛 鱖魚群(さけのうおむらがる)

裏白   雪に隠れていた土の色が、ほつほつと見えはじめる。  大家の金兵衛に連れられ、一…

長夜の長兵衛 乃東生(なつかれくさしょうず)

冬至芽   遠国で食うたは、これか。安兵衛は大福を差し出した。  おお、かような翠であっ…

長夜の長兵衛 麋角解(さわしかつのおつる)

除夜   囲炉裏でこんがりと炙った葱が、汁の中へ放たれた。大家の金兵衛、御自慢の晦日蕎麦…

長夜の長兵衛 雪下出麦(ゆきわたりてむぎのびる)

福寿草   お社さんへ一礼すると、鳥居をあとにした。  小さな川のあちら岸を鴨が、てぼて…

長夜の長兵衛 芹乃栄(せりすなわちさかう)

寒芹  たらふく食うて寝たのであるが、粥はとっくにこなれてしもうた。  いつもの朝より一つ余計に餅を焼く。大家の金兵衛が、店子にと振る舞ってくれたものが、これで終いになる。  ぷううと膨れた餅の脇に、七草の残りをたいたものを刻み、醤油をたらす。粥のときより、ひときわ力強い香りに、長兵衛は大きく息を吸い込む。   長兵衛さんあのな、ことづてを預かってきたよ。銅十郎が駆けこんできてつむじ風のように出ていった。そのあとに何やらとてもいいにおいがする。  長兵衛は銀兵衛に声をかけ