【字幕投稿報告】Kurzgesagt:This Virus Shouldn't Exist (But it Does)

Kurzgesagtの巨大ウイルス解説動画について、字幕を投稿した。巨大ウイルスについては関連書籍が積読になっており、ちょうどいい勉強の機会だった。

雑感

いや、巨大ウイルスめっちゃ面白い。

学生時代「ウイルスは生物の定義を満たしていないのでは」という話を聞いたときにもワクワクしたのだが「今度は生物の定義を満たしかねないデカいウイルスが出てきたかも」という神展開である。

しかも、巨大ウイルスはそこら中に存在している。これだけ科学が進歩し、ミクロの世界も観察され続けてきたのに見過ごされてきたのだ。
どうやらデカすぎて見た目が細菌っぽいので、顕微鏡に移りこんでも「いま観たい対象じゃないから」という感じでスルーされ続けてきたようだ。

面白い、面白すぎる。訳せてよかった。

---以下は字幕作成者目線の長いボヤキになる---

字幕製作の考え方について

今回、内容も少し難しめだったが、それ以上に字幕として整える難しさがあった。その話をしたいのだが、まずは文字数についての話から始めなくてはならない。

動画への日本語字幕作成は、ただの翻訳ではない。動画が主役となるよう、文字数を抑えることが鉄則なのだ。

理想は1秒あたり4文字らしいのだが、「出来るかボケェ!」といつも思っている。それはもうKurzgesagt側のテキストを理解したうえで、自分があらたに作文を行うというレベルにしなくてはならないだろう。

実際、ある時期までは凄腕の字幕製作者がついていたようで、相当な意訳によって文字数が見事に削られている。

たしかに、ここまで意訳すると字幕を読むことに意識を割きすぎずに済む。視聴者は美麗なアニメーションの世界により深く浸れるだろう。

しかし、独特の言い回しに込めたニュアンスだったり、たとえ話だったりがゴッソリそぎ落とされていることも少なくない。そういう字幕の付け方というのは、動画制作者から見れば傲慢ともとれるだろう。

自分の場合、やっぱりkurzgesagt側のテキストは可能な限り尊重したいなと思っている。だから、元の文意を維持しつつ文字数を削るという困難な挑戦にいつも四苦八苦している。有効な手段は以下の3つだろうか。

①主語が分かりきっているときはいちいち訳さない
②字幕の区切りを長めにとり、重複する語を1度だけしか訳さない
③文意を変えずに文字数を減らせる日本語をひたすら探す

今回の字幕について、冒頭2分ほどの秒あたり文字数をカウントすると以下の結果になり、平均は4.9秒だった。うーむこれが限界である。

キャプチャ

また、低頻度ながら秒間7文字ぐらいになってしまうこともある。そうなると字幕を読んでいる最中なのに表示が切り替わってしまったりもするだろう。申し訳ない。

また、映画の場合、字幕の表示時間の限界は6.5秒らしい。自分の場合、②の手法を活かすために8秒程度になっていることもある。うーむ難しい。

今回の字幕の苦労

やっと今回の苦労についてである。ウイルスに関わる単語が多く、それらが登場するたびに文字数が膨れ上がるのが辛かった。

特に酷かったのは以下の一文だ

スプートニクというヴィロファージは
ママウイルスというジャイルスを狩り

「ルー語かよ」と思いつつも、他に書きようがなく、直せなかった。

また、今回は聞き取れる発音とカタカナ表現の乖離というのも悩ましかった。

virusの発音をそのままカタカナに起こすなら「ヴァイルス」になるだろう。
しかし、一般的に「ウイルス」と表現されているので、字幕でも当然「ウイルス」と表記することになる。

一方、今回ウイルスに関係する用語も登場する。virocellとvirophageとviroplasmだ。「viro」がウイルスに関わる接頭語となっている。

これらの発音を聞いたままカタカナに起こすなら以下のように「ヴァイロ」で始まる語になるだろう。

virocell…ヴァイロセル
virophage…ヴァイロファージ
viroplasm…ヴァイロプラズム

しかし、日本語検索をすると、一般的に「ヴィロ」で始まるカタカナが定着しているようだ。なので、訳としてもそちらに合わせることになる。

このように、「一般にどうカタカナ表記されているか」を重視した結果、「ヴァイ」という一定の発音に対するカタカナのつけ方がチグハグになってしまったのだ。

virus→ヴァイルス→ウイルス
virocell→ヴァイロセル→ヴィロセル

というように。

また、巨大ウイルスは通称”gyrus”というのだが、これを「ジャイルス」とカタカナ表記すると、その文字列には「のび太をイジメる巨漢」のような雰囲気が漂っており、嫌だった。

「巨大ウイルス」と表記し続けることも考えたが、音声でジャイルスと聞こえているのに巨大ウイルスと書かれているのも気持ち悪いかと思い、断念した。


…などなど、延々とボヤいてしまったが、訳せてよかったのは本当です。