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身にしむ色の秋風ぞ吹く
白妙の袖の別れに露落ちて身にしむ色の秋風ぞ吹く
定家
白妙(しろたへ)は白い布という意味だけど、ただ白けりゃいいわけじゃない。その繊細なテクスチャーをたとえばこの例文から想像してほしい:「白雪降りて地をうづみ、山上、洛中、おしなべて常葉の山の梢まで、皆白妙になりにけり」(平家物語)。
愛する人と別れる場面。いや別れた後の、追憶の場面かもしれない。ついさっきまで一緒にいたのか、それとも時が経って思い出しているのか。いやもしかすると、まだ別れていないのか。君はいま想像さえしていないだろうけど、あと一時間後に夜が明けてこの袖と別れていく。そして僕は悲しみ色の風に吹かれて帰っていくのだろう。
本歌は万葉集のこの歌だそうだ。
白妙の袖の別れは惜しけども思ひ乱れてゆるしつるかも 読み人知らず
別れたくなかったけど心が乱れて許してしまったの... と彼女が一人称でたぶん彼氏宛てに届けた、感情そのままの歌だ。
言わなくてもいいよ。分かれる袖に落ちた露は僕の身体中に染みて秋風が冷たい。