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第18話| 心の習慣をひとつ、やめる。
ひまな時,兄ちゃんと半世界ゲームをやる。
ゲームっていっても、アプリじゃない。スマホもなんにも使わない。この世界はじつは本当の世界の半分で、あとの半分を知ってるのは僕と兄ちゃんしかいないっていうゲーム。びっくりすること考えた方が勝ちなんだけど、勝ち負けが決まったことがない。飽きたらおしまい。半分ていってもすごい広いわけで、兄ちゃんはそのまた西半分、僕が東半分を担当してる。
これまでわかったところだと、西半世界はずっと氷河期が続いてて、生物はスケートが上手い種ほど生き残ってる。マンモスとかバイソンだって、ふつうに上手くて、4回転はできてあたりまえ。そういう動物の群を率いてるのが羽生なんだ。だから時々リアル半世界に来てメダル取ったりするのは朝飯前なんだ ––– っていう兄ちゃんの報告。
一方、こちらの東半世界はいつも20度くらいで過ごしやすい。そうなるとサッカーの上手い種が生き残る。右サイドのチータが一旦球を持ったらどんなディフェンダーも振り切られる。速さならフォワードのガゼルも負けてない。ルックスもいいし。あとヘッディングの天才はシャチ。ただしピッチに十分水を入れてやらないと活躍できない。水を入れるとチータが不調になるから、そこんとこ監督がむずかしい。監督は本田。
そういうくだらないゲームなので、だいたい5分で終わっちゃう。正法眼蔵にもどろう。
かのたき木 はひとなりぬるのち そのたき木が灰になった後 さらに薪とならざるがごとく もう薪(たき木)には戻らないのと同じように 人のしぬるのち さらに生とならず 人は死んだ後に生き返ることはない
そりゃそうだ。ここはけっこう簡単みたい。ね、ダザイ!
一応。
なんだよ、「一応」って。
みちもとは今まで一度も、あたりまえの事を言ってない。ここも、一見あたりまえに見えて、じつは違うという可能性も考える必要がある。
どうみても、あたりまえっぽいけど?
いいか。薪が灰になる。灰は薪にならない。
そのとおり。
だから薪が先で、灰が後だ。
当然。
その当然を、止めてみよう。
え?
薪が灰になるだけ。灰が薪にならないだけ。それを、薪>灰ていう順序と考えないことにするんだ。
え??順序と考えない??
順序を付けるっていう、心の習慣がある。それを中止しようと提案してるわけ。
ダザイが?みちもとが?
どっちでもいいじゃないか。それより、さっそくやってみよう。君は今日一日、なにをした?
えっとねぇ、学校の帰りにいつもの花屋さんに寄って、おねえさんとパラシュートの話して、その花をエムラんちに届けて、ついでに髪切ってもらった。明日は7時にお母さんに起こされて、顔洗って、服着て、ごはん食べて、7時45分に家を出て学校に行く。
そっか。じゃ、その順番を忘れてみな。できるだろ? 今日、なにをした?
花と、パラシュートと、エムラと、髪切ったのと。明日は顔洗うのと、服着るのと、ごはんと、学校。 …あれ?できた。
できるじゃないか。「て」じゃなくて「と」でつなげれば、いいんだ。
パラシュートと、ごはんと、花と、服と、学校と、エムラと、ごはんと、花と、パラシュートごはん。
それ、どんなごはんだ。