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健全なイノベーションは、サステナブルやSDGsの中にはない。インターンに秘める可能性ー後編

北海道の水産業を盛り上げようと、2023年6月に一般社団法人として立ち上がった「DO FOR FISH(以下DFF)」。日本の水産業の衰退と「海から魚がいなくなる」という危機感から、水産業の垣根を超えて集結したメンバーたちが、海を取り巻く課題の解決に挑戦しています。
IT企業社員、デザイナー、学生、選書家、シンガーソングライター…と、DFFのメンバーは、十人十色。「魚がいる未来を、選べ。」をビジョンに、多方面から水産業へアプローチし「水産業×〇〇」を生み出そうと動き出しています。
今回はフィッシャーマン・ジャパンが、DFFが取り組むインターン事業と今後のアクションについて、代表理事の本間雅広さんにお話を伺いました。

(聞き手)フィッシャーマン・ジャパン(以下FJ):宮城県を中心に水産業をカッコよくて、稼げて、革新的な新3Kにすべく全国で活動する漁師団体。DFFの立ち上げにも関わっている。

前編はこちら

DO FOR FISHのインターン事業

――DFFのインターン事業について詳しく教えてください。

本間:はい。エリアは3か所、5事業者ですね。
エリアについては、まずゲストハウスなど泊まれるところをちゃんと持っているところを選びましたね。
標津は、林さんっていう漁師さんがいて、特殊なコミュニケーションができる方なので、そこに学生さんを送ったらどうなるんだろう、と考えました。

標津では漁師の林さんがゲストハウスも運営している

厚真は2018年の震災で、「町おこしをやりたい」といってプレイヤーたちが集まったエリアなので、比較的こうした取り組みが受け入れられやすい地域だろうなという点がポイントでした。厚真は「漁師」という視点から選んだわけではないんです。僕も知り合いが全然いなかったですし、水産業で言うとそんなに大きい町じゃないので。

標津にある地元に愛される直売所「ホニコイ」ではSNSマーケティングに挑戦

それから、企業としてしっかりしている会社が多いのはやはり札幌なので、しっかり事例をつくるために札幌。ということで、標津、厚真、札幌の3エリアを選びました。

本当はもっといろんなところに行かせたかったんですけど、泊まる場所がなかったり、プレイヤーが1人しかいなかったりと、いろいろ課題がありました。なるべく1エリアで2カ所にインターンに行かせたかったので「もう1カ所ないな」とかですね。
これをきっかけに、漁師も水産加工会社も「ゲストハウスみたいな拠点を持っておけば、もっといろいろな人が来てくれるんだ」ということに気づいてほしいですね。ボロボロの古民家でもいいと思うので。そういうふうに変わっていけばいいなと思っています。

シハチ鮮魚店では子どもたちに海洋教育を届けるインターンプログラムを実施する

――受け入れ側のリテラシーや設備は今後必要になりますが、そのあたりはこれから良い事例が出ればどんどん広がっていくでしょうね。

本間:そうですね。いろんな取り組みを知ってもらって、市町村など行政もまじえて、もっとおもしろいことができたらと思っています。「若い人たちを呼びたいな」と思ってもらえるように。ゆくゆくは僕たちでエリアを決めるのではなく、逆にオファーが来るようになっていったらいいですね。

「水産業×○○」を生み出す DO FOR FISH今後の展望

――人材以外で今DFFがやってみたいことはなんですか。

本間:FJとG-SHOCKとのコラボ(※)のようなことですね。あれめちゃめちゃ最高じゃないですか。世代にもよるかなとは思うんですけど、G-SHOCKとコラボって、すさまじいですよ!

FJの活動に共鳴したG-SHOCKから6月、FJ10周年コラボレーションモデル「DW-5600RF24-1JR クォーツ」が発売された。

DFFとしては、魚とは一見全然関係のないもの、遠巻きに関係しているものをつくって、それが売れると「海(水産業)の○○に、売上の一部が使われます」というスキームをどんどんつくっていきたいです。
僕自身はDFFで魚を売ろうとは全く思っていないんです。魚を売るのは他のメンバーでできるので。スタッフにはずっと言っているんですが、僕はアパレルをやりたいですね。「尖った」もの、「やってしまったな、DFF」って思われるぐらいメッセージを込めたものをつくってみたいです。中指立てるぐらいの感じで。メディアからは取材してもらえなくなるかもしれないですけど(笑) 

きれいにしたくないんですよ、DFFは。「悪ガキ集団」みたいな雰囲気にしたい。きれいに「良く」デザインしちゃうと……。組織としてはすごく良い団体だと思っているので、むしろパッと見はそうじゃなく見えるようにしたいなというか。そういう感じのものがつくれたらいいなと思っています。

DO FOR FISH 代表理事の本間雅広氏

DFFはまだ「思い」だけで事業はこれから、という状態です。だからこそ、ちょっとふざけた表現でアウトプットをしていきたい。「魚がいる未来を、選べ。」がビジョンなので、そこには絶対通じなきゃダメなんですけど、それを本当にカジュアルにおもしろく表現できるようにしたいな、というのはありますね。

――「水産ベンチャー」に注目したきっかけは何だったんでしょうか。

本間:水産ベンチャーに関しては、日本財団とのミーティングを通じた「海のスタートアップは少ないよね」という話から、若干後付け的に打ち出した部分もあるんです。
いまいろいろなスタートアップがあって、それ自体嫌いじゃないし仲のいい社長もたくさんいるんですが、少しふわっとしているというか「結局何のためになるんだ」と感じることもままあって。
学生や若い人たちから「水産でいろいろやりたい」と相談を受けることもあるんですけど、現場のニーズがわかっていない。たとえば「未利用魚、未利用魚」というけど、漁師たちは未利用魚を獲ろうと思って獲ってはいないし…といったようなことですね。それで「未利用魚」を「利用魚」にしたら、君たちの商品が1個なくなるじゃん、と。「未利用」が「未利用」じゃなくなって、自分で頑張った結果、自分の商品がなくなっていく。
「そうしたら出資が集まらないじゃん」といった目線になっちゃうんですよ、僕は。全然スケールが出ない。
もっと現場に入って、なかの構造やニーズを深く理解して、しっかりと興味を持った上で取り組まないと起業として成り立たないんじゃないかと思います。メディアが言っていることと、その実ちゃんと起業として成り立っていくのか、スケールが大きくなりそうなのか、ということは、また別の話だなと思っています。

6次化についてもそうで、獲る人たちがスケールを出すのは無理じゃないですか。獲るのが仕事の人たちが「つくる」ところまで一気通貫でやって、何億、何十億のスケールを出すのはちょっと難しいと思います。
大きくすることだけがスタートアップの役割ではないですけど、やはり企業として成長するためには、出資してもらう人たちに「これを頑張ればこういう世の中をつくれる」とか「これぐらいの規模の企業になる」といったスケールメリットを示すことはとても大事です。

シハチ鮮魚店名物の海鮮丼

そこがずれてきているな、とすごく感じていたんですよね。「SDGs」とか「サステナブル」が出てくればくるほど、ずれてきた。もちろんサステナブルは大事ですが、サステナブルだけでは飯は食えない、というところもあるわけですよね。
だから、ちゃんと「実」と連動させなきゃいけない。ビジョンとかパーパスが「サステナブル」であるのはいいですが、事業まで完全にサステナブルで「誰が買うのか」というものをつくってもやっぱり続かないので。企業が続かなかったら、それこそ「サステナブル」じゃないですよね。 
水産のスタートアップや新事業を考えている人たちが、そうした「サステナブル」の方向へ増え過ぎていると感じていて「少し戻さなきゃいけないな」とはずっと思っていました。

でないと失敗しちゃう。良いことでも、飯食えなかったら意味がないですよね。サイドビジネスだったらいいですけど、それをメインに起業するということは、とてもリスクの高いことだと思います。だから失敗しないように、ちゃんと現場の人たちと話したり、ニーズを知ったりしてほしい。それも一方向に漁師としゃべるだけじゃなくて、自分のような仲卸業者だったり、加工業者だったり、もっといろいろな人たちの話を聞いていってほしいですね。そうしてスタートアップする人たちが増えていくことは、水産業にとって素晴らしいことだと思います。ただ、あまりにもみんなが失敗しだすと、誰もやらなくなっちゃうので。


「うまくいかないじゃん」「未利用魚なんて無理じゃん」という流れになっちゃうのはよくないですよね。思いは本当にリスペクトしているんですけど、あまりにも若い人たちが一気にそちらへ寄り出したので、それはけっこう危ない。十分に知っていてそうするならいいですけど、知らないで入っていくのはちょっと危ないな、と思っていました。
だからこのインターン事業では、起業を目標にしている子たちにとっても役立つようなプログラムができたらなと思っています。

――本間さんが今後かたちにしていきたいことはなんですか。

本間:水産漁師側の人たちに、もっと他地域のおもしろい人たちと話してほしいですね。北海道の水産の人たちをほかの地域の若い人たちとつなげることができたらいいなと思っています。

あとはもっと、漁師はじめ水産業界の人たちも「学ぶ機会」「考える機会」をもっとつくらなきゃいけないと思っていますね。

新しいアイディアを持っていても「出る杭」として打たれてしまったり、近くに志を同じくする人がいないというところで心折れちゃったりする人が、たぶんたくさんいると思います。そういう人たちのグループ、集まりをもっと見える化して、「水産の人たちが学ぶサミット」のような、一般の人にとってはマニアックすぎるようなことを企画できるといいですね。そこに人がたくさん集まるようになれば、日本の水産業は良くなるんじゃないかなと思います。


漁師は有給休暇みたいものがなくフットワークが重い職業で、なかなか難しいんですけどね。そんなことができると、本当にいいなと考えています。
DFFの漁師たちからも「漁師の学校をつくるべきだ」という声はあがっています。「漁師も漁師で、もっとちゃんと学ばないといけない」と。
そうした学びの場が、内からつくれるといいなと思っています。