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愛媛のしっぽで暮らす。みかんアルバイター体験記 5
2011年11月~12月、愛媛県西端の伊方町でみかんアルバイターとして暮らした1ヵ月半の記録。
佐田岬半島の吸引力
みかんの方は落ち着き、先週からはポンカンの収穫が始まっている。残すところあと1週間。
早かったなぁ。
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この週末は、八幡浜市、伊方町で今年も「瀬戸内海年末大掃除」があった。
昨年初めて参加し、今、私がここにいるきっかけになった海洋プラスチックごみ拾いのイベントだ。
今年はみかんの仕事があるので、初日の夜のミーティングにだけ参加した。
昨年、拾っても拾っても減らないプラごみに心折れそうになったり、牡蠣養殖のパイプやイカダのブイ、発泡スチロールなど漁業関係のゴミの多さに驚いた。
海で仕事をしている人たちは、船やイカダなど「浮く」ものを使っているので、それらがゴミになった場合、浮いて流れ着くために目立つ。
だから漁業関係者が悪者扱いされがちだが、実際は浮いているゴミの何百倍ものゴミが海底に沈んでいて、それは陸で生活している私たちの暮らしから出たゴミだ。
例えばプラスチックの卵ケースやコンビニ弁当のパックは、海岸で拾ったごみの中にはほとんど見られないが、海底ではよく見られるそうだ。
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プラごみ拾いと調査を続けてこられた「ECオーシャンズ」の活動が今年、テレビで全国放送されたため、放映を見て来られた参加者も多かった。
日本一長い佐田岬半島に打ち寄せられてくるゴミは、拾っても拾ってもまた新しく流れてきて増える。
けれど、ここにゴミが「集まる」と考えれば、あちこちで探して拾い集めるより、ここで拾えば早いし確実に海のゴミは減っていく。
そんな風に考えて、日々みなさんはゴミを拾い集めてくださっている。
佐田岬半島にはゴミがいっぱい集まる。
けれど、熱い思いを持った、素敵でオモロいおっさんやおばちゃん、若者も集まる。
ここには不思議な吸引力があるのだと思う。
その力に引き寄せられて、私は昨年より今年、今年より来年、もっと多くの日をここで過ごすことになりそうだ。
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クリスマスイブも収穫
クリスマスイブだというのに、昼間は暑くて汗をかくほどだ。
みかんとポンカンの枝振りや実のつき方の違いもわかるようになってきた。
高い部分の実を取るとき、上下ひっくり返したコンテナの上にのるのだが、体重の掛け方にコツがいる。
木は斜面にあることが多く、切り落とした葉や石の上にコンテナを置くとすべるので注意が必要だ。こういうことも体験しながら、わかってくる。
みかんの入った約20kgのコンテナを持ち上げ運ぶのも、やってみると意外にできる。
「重いから置いといたらいいよ」と言われるが、農家さんたちの年齢と体力を考えると、できることは少しでもやってあげたいと思う。
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みかんの木は、農園によって大きさも仕立てもさまざまで、植え方や剪定の仕方も「農家さんそれぞれの流派がある」と聞いている。
木の周りをぐるりと一周すれば、ほぼきれいに収穫できる木もあれば、中央の幹から登って枝に足をかけ、上下左右に伸びた枝の間に体を滑り込ませ、まるでジャングルジムの中で実を収穫するような状態のときもある。
1人で黙々と収穫していたら、コンテナを集めにきた農家さんが背後から「あっ! そのまま! 足元、動かさないで!」と叫んだことがある。
えっ? なに? 後ろに何かいるの? イノシシ? ムカデ? とビビりながら手を止めると、足元にタヌキの糞がてんこ盛り。
「タヌキの溜めグソ」といわれ、タヌキは毎年同じ場所をトイレにするのだそうだ。みかんの木の枝に鳥の巣を見つけ、「それは、メジロの巣だ」と教えてもらったりもした。
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10軒の農家さんともすっかり馴染んで、あと5日でここを離れるなんて考えられない。
当たり前のように目の前に海がある毎日もあとわずか。
あぁ、さみしいな。帰りたくないな。
仕事納め
あっという間の1カ月半。
仕事納めの日は大風に雪が舞い、山には行けず、倉庫でポンカンの選果だった。
最後だから「山に行きたい」気持ちが強く、雪が降っていても行くつもりで防寒対策バッチリだったが、行けるような天気ではなかった。
コンテナも飛びそうな強風と寒気。
昨日、今日はこの辺りにしては珍しく冷え込んで、ストーブをつけても部屋が全然暖まらなかった。
寒いのが苦手で京都の冬の「底冷え」には何年住んでも慣れないのだが、こちらへ来てからは12月に入っても毎日暖かく、ストーブをつける日もほとんどなかった。
最後の最後に味わう寒波。
昨年はこの辺りでも珍しく雪が積り、3月に収穫する清見がほとんどダメになったと聞いている。
今年は大丈夫だろうか、とみかんのことが気になる。
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お昼休みに農家さんの家で、温かいラーメンをご馳走になりながら、京都で行われている「全国高校駅伝」の中継をテレビ観戦。
コースの第二中継所は京都の私の家のすぐそばなので、いつもなら応援に行っている。
テレビで見るそれはどこか遠くの出来事みたいに思えるから不思議だ。
明後日の今頃は、そこにいるんだな、とぼんやり思う。
明日の夜は、歓迎会と同じように農家の皆さんが家族で集まって送迎会をしてくださるそうだ。
あぁ、泣くんちゃうか…。帰りたくないなぁ。
お別れの日
最終日のお昼すぎ、農家のお母さん方が公民館の調理室(元小学校の家庭科室)に集まり、私たちの送迎会の準備を始めた。
今回は私も参加し、野菜を切ったり、おにぎりを作ったり。
「椎茸が足らん。山に取りに行てこうわい」
「山芋掘って来たけど、こんなもんでよかろうか」
いただいたけれど使い切れなかった白菜やかぶらを私も持って行く。
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あっという間に、鍋とお好み焼きの準備ができ、2階の畳の部屋(元音楽教室)でお茶タイム。
コーヒー入れて、お菓子を食べながらワイワイとあんなこと、こんなことをしゃべる女子たち(平均年齢はナイショ)。
歓迎会のときは、お手伝いしようと1時間前に来てみたら準備は全部終わっていて、「まぁ、えぇから飲みなさいよ。つまみなさいよ」と、いきなり缶ビールを渡され、驚いたのだった。
「この辺りには、みんなが集まれるような場所もないから、たいてい何かあればここで料理も手作りして宴会よ」と世話役のHさん。
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オードブル、サンドイッチ、鯛ソーメンが届き、5時から送迎会開始。
お世話役のあいさつ、私たちからのお礼の言葉が終われば、(いや、その前からお父さんたちは飲んでたな)飲む、食べる、しやべるのいつものパターン。
しんみりと泣く雰囲気ではなく、ひたすら飲み、食べ、笑い、楽しむ。
「あんた、もうここのもんと一緒になって、こっちに住みなさいよ」
「○○(60代)はどうや。年金もようけあるけん」
「わしが仲人しちゃるけん」
「そしたら、わしは乾杯の挨拶やるけん」
「わしも独身やけど(70代)」
口を挟む隙間もない……。
そして帰る日の朝、出発前にみなさんが浜辺に集まってくれた。
Mさんの子どもさんから手紙を渡されて、みなさんのニコニコ顔を見たらウルウル……。
また、すぐに来るよ。山の桜でお花見したいし、みかんの花も見たいし。夏の摘果や得意の草刈りも手伝うって約束したから。
あぁ、でもさみしいなぁ。
お世話になったみなさん、本当にありがとうございました!
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