【知っていると管理がしやすい】心拍数を診る!考える!【遅い・速いはなぜ悪い?】

心拍数(脈拍)と言えば,大事なバイタルサイン.

多くの医療者の方は,バイタルサインの1つとして心拍数(脈拍)を管理しますよね.

※この記事では,統一するために”心拍数”の話をします.
厳密には,心拍数と脈拍数は違います.
心拍数は,心臓が拍動する回数.
脈拍数は,脈を触れる回数です.
不整脈でなければ,これら2つは同じ値になります.つまり,脈拍数=心拍数です.
一方,頻脈性不整脈の時などは,脈拍数≦心拍数となります.頻脈性不整脈の場合,有効でない拍出が起こりうるからです.

今回は,心拍数の管理の考え方を,循環器内科の視点で解説します.

 

1.正常の心拍数とは?

ヒトの安静時の心拍数は,通常50~70/分程度です.

そして,一般的には,心拍数≧100を頻脈心拍数<50を徐脈といいます.

 

どうでしょう.

この数字を”当たり前”に感じますか?

 

では,同じ哺乳類でも,クジラの心拍数を知っていますか?

世界最大の哺乳類であるシロナガスクジラの心拍数は,遅い時には2-3回/分と言われています.

やばくないですか?

病気じゃなくてですよ?健康な状態で,ですよ?

ヒトだったら,たぶん死んでますね

 

逆に,ネズミの心拍数はというと,ハツカネズミで600-700回/分と言われています.

やばくないですか?

ヒトだったら,たぶ(ry

 

ちなみに,ゾウは20回/分くらいだそうです.

 

わかりましたか?

そう.

大きい哺乳類ほど正常な心拍数が少なくなり,小さい哺乳類ほど正常な心拍数は多くなるんです.

画像2

なぜでしょうか? 

 

2.心拍数はなんのためにある?:心拍出量の式

結論から言います.

心拍数は,心拍出量を維持するためにあります.

心拍出量は,血圧や酸素運搬に関わる,血液循環に欠かせないものです.

その心拍出量は,1回心拍出量 × 心拍数,という式で導かれます.

心拍出量 = 1回心拍出量 × 心拍数

ほら,さっきの動物による心拍数の違い,なんでかわかりましたか?

そう.

大きな哺乳類は,心臓が大きいので,1回心拍出量が多いんです.

だから,心拍数が少なくても平気なんですね.

画像2

シロナガスクジラの心拍数は,ハツカネズミの300分の1程度なので,心臓の大きさが300倍あれば,理論的には心拍出量は同じですよね.(実際にどれくらいサイズが違うかは知りません笑)

  

3.徐脈はなぜ悪い?

すると,なんで徐脈が身体にとって悪いかわかりませんか?

そう.

心拍出量が減るからです.

1回心拍出量 × 心拍数,ですからね.

簡単です.

徐脈の症状と言えば,めまい/ふらつき,失神,うっ血性心不全による息切れ,などがあります.

めまい/ふらつき,失神は,脳の循環不全の症状.

うっ血性心不全は,心肺における循環不全の症状ですよね.

つまり

徐脈は,心拍出量が減ることによって循環不全になる

ことが良くないんですね.

ちなみに,ヒトの徐脈の定義は,心拍数<50,とされることが多いです.

しかし,たまに心拍数40台でもピンピンしている人がいます.(人ですよ?ゾウとかじゃないですよ?)

そういう人は,大抵,

スポーツマン か あまり動かない老人

です.

スポーツマンは,トレーニングの結果,1回心拍出量が増加したり,酸素の利用効率が向上したりしています.

あまり動かない老人は.そもそもの酸素需要が低いので,必要な心拍出量が少ないです.

こういう人たちは徐脈であっても,恒久的ペースメーカーは不要(なことが多い)です.

なぜなら,循環不全にならないからです.

徐脈の治療の目的とは,循環不全の治療に他ならないです.

(特に洞不全症候群の)ペースメーカー適応に,「症状がある」ということが大事なのはこのためです.(症状がある≒循環不全がある)

基本的に「HR<○○の人はペースメーカーを植え込んだ方がいい」とは書いてませんもんね?

※例外:仮に無症状でも対応が必要な徐脈
➀完全房室ブロック
心イベントのリスクが高いため.
➁3秒以上のLong pause
調律や,覚醒時or入眠時などの違いもありますが,専門家の介入を検討すべきです.

 

4.病的徐脈の原因

ザっとまとめておきます.

いずれも,本来あるべき心拍数を保てない原因(≒循環不全の原因)となる病態です.

正直言って,丸覚えとかはしいなくていいと思います.

➀心臓以外が原因

・高K血症,高Mg血症,アシデミア,低体温
心臓は,電気的刺激によって収縮しますが,これらの病態があると脱分極の障害などで,心内の伝導が遅延し,心拍数が遅くなります.
ポイントは,どれも一過性であり,採血などですぐにチェックできることです.
・迷走神経反射,脊髄損傷
自律神経系の障害による徐脈です.
迷走神経反射は,その名の通り一過性であるのに対し,脊髄損傷による徐脈は基本的には不可逆的です.
・副腎不全,粘液水腫
前者はコルチゾールの不足,後者は甲状腺ホルモンの不足,のためにそれぞれ徐脈を来たします.
・薬剤性
実は最も重要なのはこれ.
薬を中止するだけで治りますからね
β遮断薬,(非ジヒドロピリジン系)Ca拮抗薬,ジゴキシン,抗不整脈薬などが挙げられます.

➁心臓が原因

・急性心筋梗塞
下壁梗塞の際などは,副交感神経の反射(Bezold-Jarisch反射)で徐脈になりやすいです.
多くの場合は一過性で,冠動脈が再灌流すると治ることが多いです.
・(潜在的な)心臓の伝導障害
上述した全ての因子が除外されたのに,徐脈が残存した場合,元々の心臓の伝導自体が障害されているということになります.

これらを考えたとき,最後に示した「(潜在的な)心臓の伝導障害」の場合は恒久的ペースメーカー植え込みを検討せねばなりません.

逆にいうと,他の病態は除外しなければならない病態.

ということで,徐脈の時にまずチェックすべきことは

➀十二誘導心電図
調律やブロックの評価の他,急性冠症候群の評価

➁採血
電解質,酸塩基平衡.すぐに結果が出ないかもしれないが,甲状腺機能も調べるとgood

➂使用薬剤のチェック
あやしい薬剤はとりあえず中止

だと思ってます.

 

【おまけ:脳圧(頭蓋内圧)亢進】 
徐脈になります.いわゆる”クッシング現象”というやつ.
ただ,基本的には,「脳圧に対抗するために血圧上昇」⇒「圧受容体の反射によって徐脈」という流れなので,血圧上昇が先行します.
というか,徐脈になるのはただの反射であり,本態は高血圧ですよね.

 

5.頻脈はなぜ悪い?

では,逆に,頻脈はなぜ身体に悪いんでしょうか?

心拍出量=1回心拍出量 × 心拍数 なので,

「HRが高いほど心拍出量が増えて,循環不全が良くならないの?」

ってなりませんか?

まぁ,なりません

その理由はいくつかありますが,以下の3つに分けて説明します.(ちょっと難しいんで,太字以外は読み飛ばしでok)

i)心室拡張充満時間の障害(imcomplete relaxation)
「心臓が十分に拡がる時間が足りない」ということ.
HRがある一線を越えると,1回心拍出量が減ります
その一線が,健常人では140-160bpm,心機能低下例では100-130bpm程度とされます.

クジラのように大きな心臓では,心室の拡張充満時間はたくさん必要になりますよね.

クジラの心臓が,ヒトの心臓のように1分間に60回も拍動するのは,とても大変そうです.(おそらく無理)

だから,大きい哺乳類は徐脈傾向なんです.(逆もまた然り)

ii)心拍数依存性収縮予備能(force frequency relationship)の限界
本来なら,心臓は,HR上昇に追従して心収縮力は上がるようになっています.
しかし,それにも限界があり,健常人では150-180bpm程度が限界.
心機能が低下した心臓では,限界をより早く迎え,HR120bpm程度を越えると心収縮力は増えない,ないし低下するとされます(Circulation. 1992 May;85(5):1743-50.).
(これには,カテコラミン感受性の低下や,筋小胞体におけるCaハンドリングの低下などが寄与しています.)

まぁ,難しいんで,i)とii)をまとめて

HRはある一線を越えると,心臓の拡張も収縮も悪くする

さらに

その一線は,心機能低下例であればあるほど,限界が早く来る

と考えてください.

さらにもう1つ,頻拍による循環動態への悪影響があります.

iii)心筋虚血:冠血流の低下/心筋酸素需要増加
心臓を栄養する冠動脈の血流(冠血流)は,拡張期に流れます.
頻拍下では,拡張期が短くなるので,冠血流は低下
また,たえず全身に血液を起こらねばならない心筋は,酸素をたくさん消費するので,もともと余裕がありません.
そのため,他の臓器の酸素供給としては問題のないレベルの頻拍であっても,心筋にとっては酸素不足になりやすいんです.
結果的に,頻拍は心筋虚血を起こします

心臓が「へばる」イメージです.速すぎる脈は,疲れそうですもんね.

【+α】
狭窄のない健常な冠動脈であれば,頻拍時には血管が拡張するなどして冠血流を増加させようと頑張ります.
しかし,狭窄ないし,血管内皮障害がある場合,そのような代償機序がうまく働かず,頻拍による心筋虚血が誘発されやすくなります.

以上,まとめると,

必要以上のHR心収縮と心拡張の悪化

を起こし,また

心筋虚血

の原因にもなります.

これらの複合要素で,一定以上の頻拍は1回心拍出量を減らします

だから,心拍出量=1回心拍出量 × 心拍数 であっても

「心拍数↑」,しかし「1回心拍出量↓↓↓」という状況になり,総合的には心拍出量が低下するということです.

画像4


言いかえれば

ある程度の心拍数は,心拍出量を増加させるけど,一線を越えると,循環にとっては害悪でしかない

ということですね.

 

6.頻脈の原因

徐脈とは少し考え方が違います.

すなわち,ある程度の頻脈は,心拍出低下の代償機構かもしれない,ということです.

徐脈は,(有症候であれば)基本的に絶対悪です

この”許容される限界の心拍数"というのは誰にもわかりません.

個々の症例(の心機能)にもよりますから.

健常人ですら,150bpmくらいを越えてくると,心室の拡張と収縮が悪くなる可能性があるので,少なくとも150bpm以上の心拍数が,身体に良いってことはないと思うんですけどね(私見)

そこで,頻脈を見た時は,まずは不整脈か否かを見分けるのが重要です.

なぜなら,正常の脈(洞調律)であれば,全身の代償機構を上手に反映させてくれる可能性が高いですが

不整脈は,そもそも正常でない電気信号で心臓が拍動している状況なので,不適切な心拍数になりやすくなります.

そこで,非専門家にも推奨する対応としては,以下のようなものになります.

➀洞調律の場合

(Rate controlではなく)原因検索.

これにつきます.

原因は多岐にわたりますが,脱水,発熱,感染,疼痛,貧血,高二酸化炭素血症,甲状腺機能亢進症,肺塞栓症,うっけつ性心不全...などなど

(心不全はおいてといて)基本的に洞性頻脈は心疾患ではないんです.

この場合は,「心拍数を正す」のではなく,「原因をやっつけること」に専念しましょう.

下手に心拍数を下げると,代償機構をぶっ壊すことになりかねません

➁頻脈性不整脈の場合

心房細動,心房粗動,発作性上室性頻拍,心室頻拍などです.

この場合,適切なRate control,もしくは(薬物的・電気的)除細動が必要でしょう.

細かい不整脈ごとの対応は成書などをご参照ください.

 

まとめ

本記事のポイントをまとめます.

画像4

全体的なイメージはこんな感じ.

 

■心拍数は,心拍出量を保つために存在する:心拍出量 = 1回心拍出量 × 心拍数

■病的な徐脈は,単純に心拍出量が低下するため,循環不全となる.

■頻脈は,ある一線を越えると1回心拍出量を低下させるため,循環不全となる.

ここまでが超大事.

特に,頻脈の考え方は重要ですかね.

  

■徐脈の際に,まず最初にすべき原因検索は
➀十二誘導心電図:調律やブロックの評価の他,急性冠症候群の評価
➁採血:電解質,酸塩基平衡,甲状腺機能など
➂使用薬剤のチェック:あやしい薬剤はとりあえず中止

■徐脈への介入に重要なのは,症状があるか否か:無症候であれば循環不全が示唆されない

■頻脈の際の対応は
➀洞調律の場合:(Rate controlではなく)原因検索
➁頻脈性不整脈の場合:適切なRate control,もしくは(薬物的・電気的)除細動

洞性頻脈にRate controlをするのは禁忌

後半は実用的な知識.

特に

・無症候性の徐脈(特に洞不全)は,基本的に介入不要(なことが多い)

・洞性頻脈の心拍数を無理矢理落とすのはダメ(許されるのは循環の専門家だけ)

この2点は繰り返し強調させてもらいます.

 

今回の話は以上です.

本日もお疲れ様でした.



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?