【実用性抜群】血液ガスを計測せずにアシドーシスとアルカローシスを察知する方法【裏技】
pHを知るには,血液ガスを測定しなければなりません.
もともとオーダーしてあればいいんですけど,オーダーしてなければ採血しなおさなければならないので,手間と患者さんへの負担になってしまいますよね.
そんな時に便利な裏技のご紹介です.
血液ガスを計測せずにアシドーシスとアルカローシスを察知する方法
ずばり結論は,採血のNaとClの差に注目することです.
【ポイント】
Na-Clが36から大きく外れたら血ガスを検討
採血をしてることが前提ですが,Na-Clを評価すれば,血ガスを見なくても酸塩基平衡異常を察知することができます.
このルールは以下の式から導きます.
アニオンギャップ(AG)=Na+-(Cl-+HCO3-)
Na+-Cl-=AG+HCO3-
HCO3-の正常値を24,AGの正常値を12とすれば,Na-Clは36前後であるべきです.(代入してみてください)
明確なカットオフ値はないですが,2~3以上ずれると気にします.
もちろん,36からずれていればずれているほど異常です.
➀Na-Cl≳38 :AG or HCO3-が上昇している
基本的にはHCO3-の上昇です.
すなわち,代謝性アルカローシス,もしくは呼吸性アシドーシスの腎性代償を示唆します.
「AG上昇型の代謝性アシドーシスはどうなるの?」って思いましたか?
AG上昇型の代謝性アシドーシスの場合,同じ量のHCO3-が低下するので,AG上昇とHCO3-の低下が相殺して,Na-Clは開大しないんです.
➁Na-Cl≲34 :AG or HCO3-が低下している
HCO3-の低下であれば,AG正常代謝性アシドーシス,もしくは呼吸性アルカローシスの代償性変化が示唆されます.
但し,AG低下が疑われる以下の病態では,HCO3-の低下が無くてもNa-Clは低下するので注意です.
低Alb血症,高γグロブリン血症,高K血症,高Mg血症,高Ca血症,リチウム中毒 など
まとめ&実用的な考え方
まとめると,検出しやすいのは代謝性アルカローシスとAG正常(高Cl性)代謝性アシドーシスです.
代謝性アルカローシスの原因は,嘔吐,利尿薬,脱水,ホルモン異常(アルドステロン症)などです.
AG正常(高Cl性)代謝性アシドーシスの原因は,下痢,輸液過剰,腎臓(尿細管)の障害です.
嘔吐とか下痢は,まあ気づくからいいでしょう.
これ,実用的な使い方は,in-out管理なんです.
特に心不全 or/and 腎不全のとき,有用です
例えば,Na-Cl≳38のときは,脱水ないし利尿剤過剰を念頭に置きます.
逆に,Na-Cl≲34のときは,補液過剰がないか考えます.
注意点4つ
➀下痢,嘔吐の有無はチェック
➁Na-Cl≲34の時は,薬剤性の尿細管障害は可能性から外さない
➂Na-Cl≲34の時は,(AG正常代謝性アシドーシス以外にも)低AlbなどのAG低下因子も念頭に置くい
➃GFRの低下した腎不全の場合,AG上昇型代謝性アシドーシスにもなるので注意(Na-Clは動かない)
そして,最後に
「Na-Clギャップおかしいな?」
と思ったら,上述したことを思い浮かべつつ...
「ん?脱水で代謝性アルカローシスかな?血ガスとるか!」
です.
Na-Clギャップですべて解決しようとするものではありません.
悩んだり,正解が知りたければ,血液ガスを追加すればいいんです.
そんな“気づき”を与えてくれるところまでが,Na-Clギャップの最大の役目です.
今回の話は以上になります.
本ブログで以下のような記事も上げているので,興味のある方はご覧になってみてください.